32、ジュキちゃん、普通の女の子としておしゃれする
「見た見た! 女子寮にも来てほしーっ!」
「魔法少女が来るってことは魔人に襲撃されるってことなんだよ? 困るでしょ」
ハイテンションな女子に友人が水を差すのが聞こえる。
「でもこの間の音楽室襲撃といい、なんでうちの学校ばっかり狙われるんだろ?」
また別の子が冷静な声で疑問を呈した。
「魔法少女がうちの生徒だったりしてぇ?」
冗談めかした言葉に血の気が引く。ぎこちなく顔を上げると、
「えーっ、中等部の子かな? そしたら女子中学生が男湯に入って戦ったってこと?」
「男子中学生って線もなくはないかな」
なんで中学生限定なんだよ!?
「そういえば魔法少女ちゃん、バスト全くないもんね。そのわりにギター弾いてる映像なんかだと身長は普通にあるみたいだし」
「中学生男子だって考えたらおかしくないかも」
「うっそー! うちの学校にあんな美少年がいるってこと!?」
魔法少女ユリア説が出てすっかり安心していたが、男湯で戦ったことで魔法少女男子説が持ち上がってしまうのだろうか!?
「やばいぞ」
冷や汗を流す俺の耳に、
「ねえ
「教えて!」
エレベーターの中でつい甲高い声を出した俺に、
「魔法少女のコスチュームじゃなくて、私服で歌ってる動画を撮ってネットに上げるのよ。見た人はきっと、なんだ普通の女の子だったんだって思うでしょ?」
「なるほど……?」
きょとんとしているうちにエレベーターは最上階に到着した。
「お待たせー」
ドアを開けると部屋のすみに、ソフトケースに入ったカホンとギターが並べてあるのが見えた。
有名スポーツメーカーのロゴが入った大きめジャージを着た
「わーっ、オフショットの魔法少女ちゃん、かわいいのー!」
ベッドからぴょんと飛び降りる。トテトテと走ってきて突然しゃがみこんだ。
「よいっと」
「おい
「やっぱり
「女の子じゃないっ!」
俺の必死の訴えにも聞く耳を持たず、
「だって普通の女の子が履くパンツだったもん」
「こ、これは
「普通、男子って女子からパンツ借りないと思うの」
ド正論をかましやがった。
「な、なんとか言ってくれ、
俺は涙をこらえつつ
「
「
「わーい! どの曲やるの!?」
「私、先週から合わせてる『レヴィ・ストレンジの憂鬱』って曲がすごく好きなんだけど、そこにアコギもあるし今から撮影してみない?」
上目遣いで伺うように俺を見た。
「ああ、キーを上げた曲な」
以前の俺はファルセットだと音量が出なかったり、それでも頑張って大きい声を出そうとすると喉が締まったりと問題が多かったのだが、魔法少女に変身した副作用で、ファルセットも楽に出せるようになった。
「
俺が腕組みして考えていると、
「昨日
「高い音がかすれてなかったか?」
「シャウトっぽくてかっこよかった!」
「じゃあ録ってみるか」
うなずいた俺のうしろに回り、
「それなら髪をほどくわよ」
「
言われた通りベッドの足元に腰かけると、クローゼットの扉に嵌まった鏡にちょうど自分の姿が映った。ロングヘアにロングスカートのシルエットは遠目に見ても疑いなく女の子で、俺は慌てて目をそらした。
「できたわ」
「うん、綺麗。銀髪に艶が出てさらに美人さん」
満足そうな微笑を浮かべてから、机の上に置いてあった小さな化粧ポーチを持ってきた。
「
「なんだっけ、それ」
「唇がぷるんってするの」
許可を求められても困るんですけど?
「グロスつけたとこ見てみたーい!」
と、はしゃいでいる。
「好きにしてくれ」
俺は目を伏せてあきらめの溜め息を吐いた。
「うふふ、じゃあお言葉に甘えて」
ひざまずいた
「できたっ」
「キャッ、かわいい!」
「魔法少女ちゃんがおしゃれな女の子になったぁ!」
黄色い歓声を上げてるあんたがたのほうが可愛いんだがな? 疲れ切って再び嘆息する。おかしい。俺は女の子たちにキャーキャー言われる未来を夢見ていたが、これじゃない!
「じゃあ防音室に行きましょうか」
「ちょっと待って。俺、歌うんだったら水分欲しいから飲み物――」
買ってくる、と言いかけて、小銭入れもスマホも持っていないことを思い出す。
すぐに事情を察した
「それなら私、麦茶作ってるから持って行く? 水筒に移してあげるけど」
「あ、お願いします」
冷たい麦茶を用意してもらっているあいだ、俺はうっかりクローゼットの鏡に映った自分を見てしまった。ゆるやかに巻いた銀髪が淡い桃色のトレーナーの上で揺れている。控えめなラメが輝く紅いグロスに彩られた唇が華やかさを添えて、ツインテールの魔法少女姿より多少、大人びて見える。ただし女子として。
こんなおしゃれでかわいい女の子と街ですれ違ったら、俺だって振り返るだろう。だが俺は美少女とお知り合いになりたい男であって、自分が美少女になりたいわけじゃないんだ!
「つーか俺、いつ男子に戻れるんだろう!?」
まさかこのまま女子生徒として女子寮で生活することになったりしないよな!? 外堀が埋まっていくとか怖すぎるぞ!!
─ * ─
さて
次回、明らかに!
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