31、魔法少女ジュキちゃん、普通の女の子になる
「あの、ノーパンでいいです……」
俺は白衣の前をぎゅっと握ったままうつむいた。
「
おっしゃる通り、
「いやでもっ」
魔法少女のコスチュームは確かに恥ずかしいけれど、非現実的な服装だからコスプレだと割り切れるんだ。でも普通の女性の下着を身に着けてしまったら、俺は一線を越えてしまうのではないか?
「親友同士なんだから洋服をシェアするくらい普通よ」
そうか、俺たち親友だもんな。
「それに
そうだ! 俺は男である前にアーティストだ!
「えーい、ままよ!」
俺は新品のレディースショーツに足を通した。
「はい、スカート。ウエストがゴムだから履けると思うんだけど。逆にゆるすぎたら紐を結んでね」
「濡れてると思うから白衣も回収するわね。また洗って
白衣を丸めてショップ袋に突っ込んだ。魔法少女コスチュームの白くて薄いシャツを脱ぐと、
「このトレーナーも大きめだから
最後に渡されたのはフードのついたオーバーサイズのトレーナー。もこもことしたタオル生地でさわり心地がよくて癒される。淡いピンク色で左胸に英字のロゴが入っているだけのシンプルデザインなのだが、着てみるとどう見てもレディース服だ。
「
「このトレーナー、俺でもでかいぞ?」
「お尻まですっぽり隠れるサイズなのよ。かわいいでしょ?」
「あんたが着ればな」
俺はつい不機嫌な声を出したが、
「ありがとな、色々と」
「ふえっ!? あ、うん!」
「二人ともかわいいニャ。美少女同士、眼福だにゃ」
足元でつぶやいた白猫の声に、俺はイラっとする。
「まだいやがったのか」
「あら、ミルちゃん。そういえばさっき
「ワイがこの世界に来た
絶妙に話をごまかすミルフィーユ。まあ猫とはいえニャン玉を奪われた話を女性に打ち明けたくはないだろう。ここはいっちょ男同士の秘密ってことで黙っておいてやらぁ。
「私、気になってたんだけどミルちゃんの世界には聖女様もいるし、モンスターや魔人もいるのよね?」
「ワイのような聖獣や聖女様は人間陣営、モンスターや魔人は魔王に従う魔族ニャ」
女子寮までの道すがら白猫は、ダンジョンを通じて魔人が俺たちの世界へ出現した経緯を語り出した。
ミルフィーユの生まれた世界では長い間、魔王陣営と人間が争ってきたそうだ。魔王に従う者たちを、人間は魔族と総称している。ゴブリンやオークのような魔物、ケルベロスのような魔獣、そして知能を持つ魔人に分けられるそうだ。
そしてついに三十年前、長い戦いに終止符を打つことができた。
だが魔王を滅ぼしたわけでも魔族を全滅に追いやったわけでもなく、完全な勝利には程遠いものだった。大聖女や神官たちが張った結界の中に魔族たちを閉じ込め、「魔族自治区」を作ったのだ。
しかし人間と戦う必要がなくなった魔族の人口は次第に増えていった。強力な結界を破ることはできないため自治区外に領土を広げるわけにもいかない。そこで魔人たちが魔術研究を重ねた結果、異界に至る穴を開けることに成功した。地球の中でも日本の埼玉県に繋がったのは偶然らしい。
魔族たちがほかの世界に迷惑をかけていることを知っても、大聖女や神官たちは見て見ぬふりをしていた。
だがミルフィーユの主人である聖女は転生者。自分の生きた世界を救いたいと聖魔法の研究を重ね、短期間で光の道を生み出した。
「魔族たちが何年も研究して開けた道を聖女様は数ヶ月で創り出したニャ。すごいお方なのニャ!」
白猫は自慢げに尻尾を立てたが、聖女の作り出した光の道は細く、小さな聖獣しか通れなかった。それで聖女は白猫が変身して戦えるよう魔道具を開発し、魔法のステッキと共に異界に送り出したのだ。
「にゃにゃっ、ちょうど女子寮についたニャ。それじゃワイはここらへんで」
話が核心に迫ってきたところで、白猫はくるりと背を向け薄闇にとけ消えた。
「あら、行っちゃったわ」
「堂々としていれば平気よ」
壁や天井は男子寮と同じなのに、匂いが違うような気がする。
「ふふっ、
「これから女の子として女子寮で生活する?」
「やだよっ」
俺は即答した。もこもこトレーナーを着た俺の二の腕に頬をすり寄せた
「残念ね。四六時中、一緒にいられると思ったのに」
ふっと小さくため息をついた。
「俺も親友とずっと一緒にいたいけど、ほかの方法を考える」
「ありがとう! ずっと一緒にいようね」
エレベーターホールで
「めっちゃ喉かわいたー!」
「自販機、自販機」
「何飲む?」
黄色い声で騒ぎながら俺たちの脇をすり抜けるとき、ボディソープの甘い香りがふと鼻孔をくすぐった。風呂上がりに自動販売機で飲み物を買おうとしているだけなのに、男子寮では感じたことのない匂いがしたぞ!
浮かれた気持ちでエレベーターに乗り込もうとした俺の足は、だが彼女たちの次の言葉で宙に浮いたまま固まった。
「ねえねえ、男湯で戦う魔法少女の動画見た?」
そうだった! 脱衣所からこっそり撮影している男子生徒がいたんだっけ!? もう拡散されてるのかよ!
─ * ─
女子生徒たちは動画から何かを察するのか!?
次回、
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