28、魔法少女、またもや担任教師と鉢合わせ
「魔法少女ちゃん、男子寮に出た魔人のために男湯に入ったんだろう? なんてけなげなんだ……」
「いい子だなあ、魔法少女ちゃん。顔も性格もいいとかマジで嫁にしたい」
男子生徒たちがわらわらと窓際に集まってきて顔を出す。
「でもなんで女魔人、男湯に出たんだろう?」
「そりゃ変態だからだよ。俺たち若い男の肉体を堪能したかったんだろ」
「キモ」
誤解されてる女魔人プリマヴェーラ、ちょいとばっかし可哀想ではあるが、変態なのは事実だからいっか。
「キモいか? 俺、あの巨乳で迫られたいけどな」
「俺は魔法少女ジュキちゃんを抱きたいなぁ」
とんでもねえ発言をしたのがクラスメイトで血の気が引く。あちらこちらの窓からのぞかれている状態では、とても自分の部屋に入ることなどできない。自ら正体を示すようなものだ。
俺はあきらめて男子寮から遠ざかった。
「そうだ、ロッカーの中に柔道着が入ってるんだ」
夜空を飛びながらふと思い出した。
「ロッカー?」
となりを飛びながら訪ねてくる白猫に、
「ああ。教室棟まで飛ぶぞ」
と答えて方向転換する。
「ワイいつも学食棟から見上げてるけど、教室棟って夜にはしまってると思うニャ」
確かにその可能性は高い。現在の正確な時刻は分からないが、大浴場に向かう前、自室でスマホを眺めていたときすでに十九時を回っていたはずだ。だが一縷の望みに賭けて俺は教室棟へ向かった。
「部活棟でもいいから校内に入れれば内部でつながってるからな。なんとかなるかも知れねえ」
部活棟に近い、教室棟の裏口に降り立つ。運動靴の中で水が動いて音を立てるのが気分悪い。湯の中で変身した弊害だ。
俺は建物の陰から顔を出し、左右を見回した。
「よし、誰もいな――」
いたー!
部活棟の方角から歩いてくる背の高い人影に気付いて俺は固まった。
「魔法少女さん?」
飄々とした口調の主は担任の
「なんでこんな時間に教師が――」
授業中じゃないのに白衣姿の
「ハハハ、遅くなっちゃいました」
眉尻を下げて笑った。
「職員会議のあと顧問をしている物理部に顔を出したら、超ひも理論について訊かれまして」
脳みそ理論? なんで物理部で脳みそについて研究してるんだろ。
「説明したんですが、生徒たちに質問攻めにされましてね。みんないまいち納得しなくて」
残念そうに話していた
「でも彼らを帰したあと、ふとよい解説を思いついたんです。明日リベンジしてやろうと思ってパワポで資料を作っていたら遅くなっちゃいました」
「へ、へえ」
コメントしようがないので、適当に相槌を打つ俺。ふわりと夜風が吹いてきて、濡れたままの体から熱を奪ってゆく。
「くちゅんっ」
くしゃみが出ちゃった。
「おや、風邪を引いたら大変ですよ」
「男子寮の大浴場で戦ったそうですね」
「えっ、なんで知ってんの!?」
身構える俺に、先生は口調を変えずに答えた。
「男子寮の管理人さんが教職員用のグループチャットで連絡してくれましたから」
そりゃそうか。警察が来たんだから管理人も事情を把握していておかしくねえな。
「女魔人は無事、逮捕されたそうですね。公然
事も無げに言った。
「わ、猥褻!?」
変態お姉さんの面目躍如じゃん!
「ええ。風呂の水を大量に飲んで伸びていたから、自衛隊が駆けつける前に警察が捕獲できたそうです。未成年が利用する大浴場に大人の女が裸で侵入したため、公然猥褻罪に問われるらしいですよ」
異世界人とはいえ恥ずかしすぎる。だがまあ男子寮は中等部の子たちも使うから、十三歳未満の子供が風呂に浸かっていたかも知れないんだし、犯罪かな。
「ところで魔法少女さん、ちゃんと帰れるんですか?」
「えっ、帰るってどこへ――」
部屋に戻れずに困っていた俺の心臓は跳ね上がった。バレてる!?
「君が帰らなければならない場所へ、ですよ」
俺、異世界から来た設定にしてるんだっけ。
「この白衣があればなんとか――」
俺は胸元のリボンを隠すように襟を立て、搔き合わせた。リボンさえ見えなければ男子寮内を歩いても不自然じゃないかな?
だが足元を見下ろすと苺柄のハイソックスがのぞいている。白衣の長さはひざ下程度。足元まで隠すことはできないが、スカートが隠れているからセーフと考えるべきか?
「男子寮の大浴場で戦ったということは、もしや――」
「な、なんですか!?」
何が「もしや」なんだよ!? 心臓に悪いよ、この先生!
「いえ、その頭のリボンも目立つかも知れません」
「あ、忘れてた」
いけねえ。ピンクのリボンでツインテールしてたら一発アウトじゃん。
手探りでリボンの端を引っ張ると、白い髪が胸元に落ちてくる。
せめて目立たないようにうしろでまとめよう。両手を首のうしろに持って行って悪戦苦闘していると、
「結んであげますよ」
「ほら、できましたよ」
声をかけられて手のひらで確認すると、後頭部の低い位置でお団子にしてくれたようだ。
だがうつむくと一房、おくれ毛が頬にかかった。俺はため息交じりに指先でつまみあげた。
「こんな色じゃやっぱり目立つよな……」
せめて明るい茶色くらいだったらよかったのに、髪色から身バレしかねない。
「確かに君の美しい髪は人目を引くかも知れませんね。脱色している生徒もたくさんいますが、彼らと違って天然の銀髪は輝きが違いますから」
魔法少女の正体が俺だって勘付かれているんじゃないかと恐る恐る見上げると、
「そうだ!」
突然、彼には似つかわしくない大きな声を出すと、また鞄からスマホを取り出した。素早く操作し、耳に当てる。
「あ、
えっ、電話の相手は
─ * ─
なぜ
次回『ジュキちゃんが幼女化していく理由』を白猫が語ります!
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