25、ユリアの知られざる才能が明らかに
「なんで俺の曲が!?」
学食棟の左右をぐるりと見回すと、建物の陰で踊っているグループが目に入った。
「あの子たち、ダンス部よ」
と教えてくれた。
「彼女たち体育の授業のあと更衣室で『踊ってみた』動画撮ろうって話してたわ。
「えぇ? 俺の曲、ああいう奴らが踊るタイプの曲じゃないだろ?」
「人気に便乗したいんでしょ」
おいおい、マジかよ。あいつらが好むジャンルってヒップホップじゃないのかよ? オールドロック風の俺の新曲とはかすりもしないだろ。
俺がちょっと呆れているのに気付いた
「『窓をあければ』で検索する人が見てくれるかも知れないからね。
言われてみればその通りか。俺たちは時にやや強引な手を使ってでも、自分の作品に目を止めてほしいと願う。それは自分の作り上げたものを愛しているからだ。
俺は
なんだか良いムードだ、と思っていたらうしろから
「
振り返った俺たちの目に飛び込んできたのは、学食に置かれている大きなゴミ箱を運んできた
「
「いくよっ」
俺は慌てて彼女に背を向け、ダンス部の方へ視線を移した。ったく学園長の娘っていうからお嬢様かと思いきや、しつけのなってないガキである。甘やかされまくって育ったんだな。
だがすぐに、うしろから聞こえてきた軽快なリズムに瞠目して、俺は振り返ることとなった。
「すげぇな……」
「
などと言っていた
「あらあら
あたふたしながらテラスまで追いかけてきた学食のおばちゃんも、
オールドロック系の弾き歌いがラテンの風に包まれて、軽やかでセンスの良い曲になってるじゃんか。ゴミ箱なのになんか悔しいぞ。
階下から夕風に乗って聴こえてくる録音は、最初のコーラスに差し掛かった。
だがそこに
俺は作詞作曲をして自分の宇宙を作り上げたような気になっていたけれど、家にたとえたら土台を作ったにすぎなかったんだな。
俺のアコギ弾き語りなんて鉄骨を立てただけ。
曲が終わると自然に拍手が巻き起こった。
「ありがとーっ! みんなぁ、応援ありがとう!!」
満面の笑みを浮かべて礼を言った。くっそー、あれ、俺がやりたかったやつじゃん! 野外フェスなんかでステージの上からファンに感謝を伝えるのが夢なのに、まさかコスプレ魔法少女にゴミ箱の上から言われてしまうとは!
「ねえ、もしかしてあなたが話題の魔法少女なの!?」
ギャラリーの中から
「わたしはマジカル・ユリア! じいじの学園を守るために戦うよっ」
ゴミ箱から飛び降りると、たわわな胸がぽよんと弾んだ。
「魔法少女、うちの学校の生徒だったの!? 昨日、音楽室に襲来した魔人を追っ払ったんだよね!?」
女子生徒は興奮して、ゴミ箱を叩いていた
「昨日活躍したのは――」
「あれ? いない」
すかさず
「さあ
逆さまになったゴミ箱と、テラスの柱に寄りかかっている大きなゴミ袋を指さした。
「うん!」
生徒たちの輪も散らばって行き、
「
「ああ、中等部の―― つまり学園長の娘が学園を守るため魔法少女になって戦ってたってこと?」
などと話す声も遠くなっていく。いいぞいいぞ、みんな偽物に騙されてしまえ。
「
うちの姉のような口調で尋ねた。
「学食のおばちゃんに言われたから洗ったよ」
言われなきゃ洗わねえのかよ、と胸中で突っ込んでいたら、
「ねえ
「
「カモン?」
「カモンベイベーって言う役?」
絶対違う。でも俺もカホンとやらを知らないから突っ込めない。
「あのさ
─ * ─
カホンとは?
次回『ニセ魔法少女動画、拡散される』。世間はあっさりコスプレ
ちなみにまた女魔人プリマヴェーラも出てきますよ。
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