23、今さら明かされる大神学園の秘密
「ねえ
実は俺、去年の文化祭に出たくて個人枠で応募したのだ。だが出演許可を得られず、文化祭当日はいつも通り寄宿舎で曲作りをしていた。
留年したことを打ち明けたくないので、どう説明しようか考えあぐねていると、
「文化祭に出られない事情でもあるの?」
「いや、文化祭の出演者枠って応募が殺到するじゃん。あれ、生徒会がくじ引きで決めてるっていうんだけどさ」
「ええ。今朝のグループメッセージにそう書いてあったわ」
あ、もう募集が始まってるんだ。
生徒会からの連絡事項は、メッセージアプリのグループ機能を使って学生全員に流れる仕組みになっているのだ。
「あのな、去年の出演者について学園のサイトでプログラムを確認したことがあるんだけど――」
俺は去年も一年生だったことを隠そうと必死になって言葉を探した。
「
ずばっと言われて俺は固まった。自分の体からピシィッという効果音が聞こえた気さえする。
「知ってたの……?」
なんとか言葉を絞り出した。
「ごめんなさい」
「俺、かっこ悪いな」
「かっこ悪くなんかないわ!」
「去年
「
俺の曲は誰かを幸せにしていたんだ。嬉しくて泣きそうだ。
「
ドランカー? 酔っぱらいの経営学者なのか?
「それで
「ああ、普段から教室で一人コントなんかを披露してるやつとか、アイドルのマネして踊ってる女子のグループとかだったな」
「つまり、くじ引きじゃなくておそらく審査してるんだろうってわけね」
「ふーん。なら生徒会より上の権力に頼ればいいわね」
「ふえっ!?」
おにぎりを取り落としそうになって慌てて両手で支える。
「私のルームメイト、学園長の娘さんで会長のお孫さんなの。彼女をメンバーに加えましょう」
なるほど、学園長だか会長だかから生徒会に圧力を加えてもらうつもりなのか。
「えっと、その子楽器できるの?」
「手拍子でもさせればいいわ」
「でも文化祭ごときに学園長が関わってくれるのかな? まあ試してみる価値はあると思うが」
俺の言葉に
「会長は孫を溺愛しているの。私が使った特待生枠や、俗にいう一発芸入試――特別推薦枠を設けたのも、さらに言えばこの学園を作ったのだって、孫のためなのよ」
「はぁぁ!?」
おにぎりを食べるのも忘れて叫ぶ俺に、
「大神会長は名門幼稚園にも名門小学校にも多額の寄付をしたのに、お孫さんがお受験に落ちてしまったの。かわいい孫がのびのびと通える学校を作ろうと大神学園を設立したんですって」
なんつー
「過保護なおじいちゃんは孫を自宅から運転手付きの車で通わせてたんだけど、孫が中等部二年生からは自分も寄宿舎で過ごしたいと言い出したのね」
そこで学園側は孫娘のシェアメイト兼家庭教師役を務められそうな、成績がよくてしっかりとした女子生徒を特待生枠として入学させることにしたらしい。勉強ができるだけではなく、明るく面倒見のよい
「で、俺が受かった一発芸入試は?」
「お孫さんの情操教育のために勉強以外の分野――美術や音楽のエキスパートと呼べる女子生徒をそろえたかったそうよ」
「女子生徒?」
なんで俺を受け入れてくれたんだ?
「あーそれは」
「落ち着いて聞いてほしいんだけど―― かわいいから女の子と間違えちゃったんだって」
「嘘だろぉぉぉっ!?」
俺は絶叫した。
「なんでだよっ! 俺、かっこいいロックファッションで受験したぞっ!? 赤と黒のチェック柄のシャツにスタッズのついた革ジャン、ブラックジーンズもスカル柄だったんだからな!」
小遣いをはたいて買ったから覚えてるもん!
「いやぁ、そういう香ばしい恰好をするから性別不明になっちゃうんだと思うよ? おとなしく中学校の制服を着てたら間違えられなかったのに」
「嘘だぁ」
両手で顔を覆った俺の髪を
「大神学園ってSDGsぶってるから願書に性別欄なかったでしょ? 入学許可してから提出された住民票を見て
それで俺には一年次からずっとルームメイトがいないのか。一人で過ごせるのは気楽だけど、理由を知ると悲しくなるぞ!
「ん?」
俺はふと気になって顔を上げた。
「大神会長が話してた?」
「そうそう。私、
会長の孫は
「すげぇな、会長と会えるなんて。学園長のさらに上だもんな」
舌を巻く俺に
「家庭教師が雇い主である保護者と面談してるだけよ。学園長はお忙しいから、グループ経営の第一線から退いた会長が
そういうことか。本来中三の年齢で家庭教師をしている
「それじゃあ
「おう。学食棟の前とかどうだ?」
寮の談話室は男女別なので異性と会うときには使えないのだ。
「俺、部活入ってないから時間はいつでもいいよ」
「私たちも入ってないから十七時頃でどうかしら?」
こうして俺は、共に音楽活動をする三人目のメンバーに会うこととなったのだ。
─ * ─
次回、二人目のヒロイン登場です!『魔法少女ユリア登場!?』
え、一人目は誰かって? はて?
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