19、俺にモテ期がやってきたが全然嬉しくない
「しまったー!」
生徒たちと鉢合わせしてしまった俺は絶叫すると同時に、コスチュームについた天使の翼を羽ばたいて逃げようと試みた。
だが機敏な生徒たちが一瞬にして俺を取り囲んでしまった。
「この羽どうなってるのーっ!?」
さわるなーっ!
「動画で見たとき私も気になってた!」
「羽までびしょ濡れだけど魔法少女ちゃん、魔人に水かけられたの?」
そういうことにしておこう! 花壇の裏に隠れて学園職員にホースで水かけられたなんて絶対バレたくねえ! 我ながら行動まで変質者みてぇだ!!
「奥の方は濡れてないね。本物の羽みたいにフワフワぁ」
「ひゃんっ」
背中を撫でられてつい変な声が出る。
「やべぇ、マジカル・ジュキちゃん、めちゃくちゃかわいいじゃん」
舌なめずりしながら同じクラスの男子が近寄ってきた。
「や、やだ」
思わず後ずさる俺のツインテールをつかみ、
「銀髪って本当にあるんだな。お前、異世界人?」
のぞきこんで来やがった。こいつ同じクラスだから毎日ホームルームで俺の髪くらい見てるだろ。「あいつの髪、地毛?」「あんまり見てやんなよ、可哀想だろ」とか噂してたの知ってるんだぞ!
「うわ、近くで見たら魔法少女の服スケスケだな」
水をかぶんなきゃ透けてなかったんだよ!
「乳首までピンクじゃん。リボンとおそろいかよ」
「嫌ぁ」
俺がか細い声を出すと、女子が立ちはだかってくれた。
「男子やめなよ! ちっちゃい子いじめんの!」
ちっちゃくないのにーっ! 俺、お前らより一学年、上なんだぞ!!
「かわいそうにマジカル・ジュキちゃん、泣いてるじゃない」
泣いてないもん! これ、ホースの水がかかっただけだもん!!
「女子ばっかりずるいんだよ。俺たちにもマジカル・ジュキちゃんさわらせろ!」
「本人が嫌がってるからだめ!」
なぜか俺をめぐって男子と女子の対立が起こった。俺が教室にいるときは誰も近寄って来なかったのに、魔法少女の服装になった途端、手のひら返しやがって謎すぎる。
知らない女子が俺の頬を人差し指で突っつきながら、
「なんでうちの学校に来てくれたの?」
と尋ねれば、
「そりゃ魔人の現われるところには魔法少女もやってくるんだろ」
女子に阻まれて近づけない男子が面白くなさそうに答える。
「それじゃあ我が校に来てくれた魔人に感謝だね!」
妙なことを言い出す女子に、周囲がキャーキャー言いながら賛同したとき、輪の外から
「こらーっ! 皆さん、整列して待ってくださいと言ったじゃないですか!」
改めて生徒たちの顔ぶれを見ると同じクラスの奴も知らない奴もいるから、朝のホームルーム終了後、一限の授業中に避難指示が出たのだろう。
「校内に魔人が出たんですよ!? 少しは危機意識を持ってください!」
「ねえねえマジカル・ジュキちゃん、歳はいくつ?」
俺は当然ながら答えない。ちっちゃい子とか言われたのに、十六歳だなんて死んでもバラしたくない。
「あらあら、むすーっとしちゃって」
同じクラスの女子が目を細めるが、お前ら俺のこと陰で「いつもボーっとしてる」とか言ってたの聞こえてたんだからな。大体俺の下の名前も覚えていないから平気でマジカル・ジュキちゃんとか呼んでやがるんだろ。まあ交流なかったし当然か。俺もこいつらの名前知らないしな。
「近くで見たら思ったより体格いいよな」
男子から冷静な分析が飛んできてドキッとする。
「戦うんだから鍛えてるんだろ」
そうそう、そういうことにしておいてくれ。
「でももっとちっちゃいのかと思ってた。うちの小学生の妹よりずいぶん背高いからさ」
あったりめーだ。なんで問答無用で俺を小学生認定してんだよ。
生徒たちの輪のうしろでは今も
困ったな、どうやって逃げるか? 頭を悩ませていると、中庭に向いたスピーカーから校内放送が流れた。
「避難中の皆さんにお知らせします。先ほど自衛隊と警官隊が魔人をしりぞけ、校内の安全が確保されました」
放送委員が文章を読み上げているようだ。
「避難中の生徒は各教室に戻ってください。なお本日の授業時間は三十分うしろ倒しとなることが決まりました。五分後に一限始業のチャイムが鳴ります」
「さあ皆さん」
待ってましたとばかりに
「それぞれ一限の教室に戻ってください」
「えーっ、マジカル・ジュキちゃんと記念撮影したいー」
当然ながら生徒たちは不平を漏らす。
「あ、私スマホ持ってきてる!」
「撮ろう撮ろう」
盛り上がる生徒たちの肩に手を置き、
「あと五分で一限開始ですよ」
と教室へ促す。
「開始のチャイムと共に出欠取りますからね」
「えーっ、
さんざん文句を言いながら生徒たちはようやく俺から離れた。
「助かった――」
遠ざかる彼らの背中を見送りながら、俺は安堵のため息をついた。
ようやくトイレに行って変身を解除できる。疲れた足取りで当初の目的地だった部活棟に足を踏み入れようとしたとき、
「魔法少女さん」
うしろから声がかかった。
「ひゃいっ」
肩を跳ねさせた俺の口から、想像以上に高い声が出た。
声の主は振り返らなくても分かる。
なんで戻ってきたんだよーっ!? 生徒たちの背中を押して教室棟に戻ったんじゃなかったのかよ!? あんたも一限の授業があるだろ!?
「保健室に行くなら付き添いますよ」
いつもと変わらぬ口調で俺の背中に話しかけてくる。
「え、なんで?」
俺はつい振り返ってしまった。
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