14、美少女化ジュキちゃん動画、拡散される
「なになに完全版って!?」
「あ、
どことなく棘のある言い方をした男子の手から、
「見せてっ」
「これこれ」
一人の女子が隣からのぞき込んでスマホの画面を指さす。
一瞬の沈黙のあと、
「うえぇ~っ!?」
「なんでこれネットに流出してるの!? 誰が!?」
取り乱す
「えっ七海さん、何か知ってるの?」
隣に立つ女子が恐る恐る尋ねる。
「しまったぁぁぁ! 公開にしてたー!」
再びのけぞって叫んだ。
「えーっ、このレモンのアイコン、七海さんだったの!?」
当然ながら仰天する友人に、
「うん。非公開動画としてルームメイトに共有するはずが間違えて公開にしちゃってた」
「非公開にしたらもったいないよ! すごい再生数だよ!」
「もうすでに拡散されてるから意味ないよ!」
などと口をはさむのを聞きながら、俺は震える指先で自分のチャンネルをひらいていた。コメントを表示し、見慣れたレモンのアイコンをタップする。
檸檬さんのチャンネルページには、ぽつんと一つだけ動画が上がっていた。タイトルは「めっちゃ可愛いから見て!」。サムネから魔法少女姿で戦う俺の動画であることは明らかだ。そして動画のアングルから、公衆トイレの屋根で待機していた
「嘘だろ、檸檬さん……」
俺は思わず席を立っていた。椅子がガタンと音を立てて後ろに倒れた。
一年近く、ずっと俺の動画にコメントし続けてくれた唯一のリスナーがクラスメイトだったなんて! 俺、今までどんな返信したっけ!? 変なこと書いてないよな!?
頭の中で思考が目まぐるしく回転し、冷や汗が背中を伝う。
混乱した俺は、しんとした教室の中で注目を浴びていることに気がつかなかった。
「えっと、
「待って!」
背中に聞こえる
俺は気づけば屋上まで来ていた。去年よく曲作りをしていた場所だ。
手すりに額を押し付けてぼんやりマンション群を眺めていると、鉄扉の開閉する音が響いた。
「ごめん、
聞いたことのない硬い声で
俺は
「私、友達に自慢したかったの。戦う
「
「えっ」
顔を上げた
「ずっと、ずっとファンでした!」
思いがけない可愛らしい反応に、俺の胸は火が灯ったように熱くなった。
「ありがとう。もらったコメント、いつも嬉しくて何度も読み返してた」
俺の告白に
「ほんと!?」
「うん。俺の支えだったよ」
「これからも、コメントしていいですか?」
俺は不思議に思いながら、
「もちろん、してくれたらすっごく嬉しい」
本音をそのまま口にした。だが
「私、色々失敗しちゃったのに、それでもファンでいていいの?」
失敗ってなんだろう? 動画を間違えて公開にしちゃったことかな? 俺は自分から
「むしろファンでいてください!」
「ありがとう、JUKIさん!」
「推しが目の前にいて私を認識してるとか幸せすぎるっ」
初夏の風が、陽射しに透ける
「あぁっ、JUKIさんの輝かしい銀髪が風に揺れているっ! 至高の芸術品だわ!!」
「えっと、
俺は反応に困って目をそらした。
「あのさ、俺たち親友同士になったから互いに下の名前で呼び捨てしていいんだよな?」
「そうだった! ごめん
「それなら俺もアイコンから檸檬さんって呼んでた」
俺が思わず笑うと、
「ぐはぁっ! 推しの笑顔! 尊すぎて目がとける!!」
また
「はぁ、
ショタだって!? 俺、
「なんて罪深い童顔なのっ!」
「そうだわ、
「え――」
魔法少女マジカル・ジュキちゃんが俺だって白状するの!?
─ * ─
次回、
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