06、女魔人と初バトル!

 見下ろせば自衛隊の部隊が女魔人を埼玉スタジアム前の広場に追い詰めていた。田畑や民家への被害を最小限に食い止めるため、ひらけた場所が選ばれたのだろう。


 女魔人は露出の多い赤い鎧のような装備を身に着けている。肌を覆う部分がほとんどない、いわゆるビキニアーマーというやつだ。まさか現実で拝める日がくるとは僥倖、僥倖♪


「よーっし! あの胸の谷間に突っ込むぞ! あ、その前に玲萌レモを安全な場所に下ろさなくちゃ。自衛隊の皆さんのうしろにある、あの円形の建物の屋根でいいかな」


「その前にどうやって戦うか分かってるのかニャ、樹葵ジュキちゃんは?」


 白猫が、俺の気合に水を差す。


「ん? 魔法少女になったから身体能力上がってるんだろ? でもってなんちゃらバリアってやつのおかげで攻撃も受けねえんだろ? だったら心臓のあたりに頭突きすりゃあよくねえか?」


 俺の言葉に腕の中で玲萌レモが笑い声をあげた。


「ふふっ、樹葵ジュキったら男の子ねえ。わんぱくでかわいいわ」


 だが白猫は円形の屋根に向かって飛びながら、冷たい目で俺をにらんだ。


「かわいいを通り越してただのお馬鹿さんだニャ」


 チッ。悔しいが作戦がほとんどないのは事実。言い返せない俺は無言で、平たい円柱形の公衆トイレに降り立ち、飛び出した屋根の陰に玲萌レモを隠した。


「魔法少女はまず名乗るのニャ。それだけで魔人に精神的ダメージを与えられるニャ」


「名乗るってなんだよ?」


「たとえばワイが魔法少女になったら――」


 白猫はトイレの屋根に後ろ足で立ち、前足でポーズを取った。


「我、異界より来たりし聖女代理、マジカル・ミルフィーユ!」


「よっしゃ!」


 俺は待ち切れず、コスチュームの背から生える天使の羽を動かして、公衆トイレから舞い上がった。


樹葵ジュキ、がんばって!」


 応援してくれる玲萌レモに手を振ってから、歌できたえた声量で名乗った。


「俺ぁさいたま市から来た未来のロックスター、マジカル・ジュキだ!」


「なんだかものすごく違うニャ!」


 文句を言いながら飛んで追いかけてきた白猫が、俺の肩に乗った。


「魔法少女にロックは関係ないし、ここもさいたま市内だニャ!」


 一方、眼下の女魔人は自衛隊の砲火に包囲されながらも俺を見上げた。


何奴なにやつ!? ピンクのフリフリ女児服を着た銀髪ツインテ美少女だと!? さては貴様、魔王様が予言なさった魔法少女だな?」


 自衛隊の後方からも、「子供?」「部外者が空から侵入」などといった声が聞こえるが、前線の兵士たちは隊列を乱さず女魔人を攻撃している。だが目には見えない結界で防いでいるのか、女魔人までは届いていない。


樹葵ジュキちゃん、次は決めゼリフで決意表明するにゃ。悪は許さないとか、地球の平和は私が守る、とか」


 白猫が肩の上から魔法少女の作法についてレクチャーしてくれる。


「おし!」


 俺はしっかりうなずくと、気合を入れて声を張った。


「さいたま市民の安眠を破るやつは許さねえ! 皆の睡眠は俺が守る!」


「一人称『俺』はやめてほしいニャ。せっかくのかわいい顔と声とコスチュームと髪型が台無しニャ」


「うっせー」 


 俺が悪態をついたとき、それまで動かなかった女魔人が悪魔的な跳躍を見せた。


「一人称『俺』の銀髪美少女とはなかなか乙じゃないか。わらわは魔法少女と戦いたいねえ!」


「うわっ」


 俺は思わず空中で飛びのいた。


「かわいい顔を見せておくれよ」


 だが女魔人は俺の逃げた高度までは届かず、放物線を描いて地上に降りた。重火器を装備した自衛隊の包囲網はあっさりと飛び越えられてしまった。


樹葵ジュキちゃん、ステッキを武器に変えるニャ!」


 白猫の声に焦りがにじむ。


「さっきみたいにステッキを振って――」


 俺は言われた通りにステッキを構え、白猫に従って呪文を唱えた。


「マジカル・ステッキ・メタモルフォーゼ!」


 ステッキ上部に嵌められたピンクの宝石から光が放たれ、みるみるうちに輝く弓が形成されていく。気付けば俺の右手には、天使の羽がついた可愛らしいデザインの弓が握られていた。


「矢は?」


「呪文を唱えながらつるを引けば光の矢が現れて、魔法少女が狙った敵を自動追尾して打ち抜くニャ」


 さすが異世界のハイテクシステム。赤外線誘導ミサイルも真っ青だな。生まれて初めて扱う武器にニヤニヤが止まらない。夜空に浮かんだまま弓を構えると、


「魔法少女よ、空からわらわを狙うか!」


 地上から女魔人の哄笑こうしょうが響いた。


「魔法の装備で身を飾ろうとも中身は臆病な普通の女の子か。かわいいのう。食べてしまいたいわい」


「俺は男だ! 正々堂々と戦ってやるっ!」


「にゃっ、樹葵ジュキちゃん!?」


 白猫の制止を振り切って俺は、茶色い石材の敷き詰められた地面に降り立った。


「ククク、強気な魔法少女め。わらわを倒せるとでも?」


 女魔人は血のように赤い唇を歪め、楽しそうに俺を見下ろした。


「いくぜっ」


 俺は白く輝く弓を構え、思いっきりつるを引いた。矢が見えないからだろう、女魔人は鋭い牙を見せ、さもおかしそうに笑っているだけ。


「エンジェリック・アロー!」


 呪文を唱えた途端、光の矢が出現した! 夜気を切り裂き、女魔人めがけて駆け抜けていく。


 今からかわすことは不可能! 女魔人は闇色の魔力をまとって自らを守る。


 だが光の矢は闇を払い、魔力防壁に幾重もの亀裂を刻んでいく。


「ぐほう!」


 女魔人の口から妙な悲鳴が漏れた。


「かわいいだけじゃなく強いだと!? わらわの好みだ!」


 光の矢は深々しんしんと、女魔人の左胸に突き刺さっている。


「わらわのハートは打ち抜かれたぞ!」


 女魔人はがっくりと膝をついた。


「わらわの名はプリマヴェーラ。魔王様配下の四天王の一人だ。いとしきマジカル・ジュキちゃん、以後お見知り置きを!」


「え。俺の名前、覚えてくれたの?」


 つい驚きが口をついて出る。女魔人プリマヴェーラは唇の端から一筋、鮮血をたらしながら親指を立てた。


「ふっ、わらわは美少女に目がないからな!」


 うしろから隊列を立て直した自衛隊の皆さんが迫って来るのを気にしながら、プリマヴェーラは指笛を吹いた。


「来たれ、我がしもべよ!」


 彼女の呼びかけに答えるように、地響きが近づいてくる。まるで巨大地震の前触れのように、足元から不穏な振動が伝わってきた。


「みんな、逃げて!」


 嫌な予感に声を張り上げると同時に、俺は背中の翼を羽ばたいて地面から離れた。


 次の瞬間、月夜を切り裂く轟音が広場を包み込んだ。地面が激しく波打ち、一直線に亀裂が走った。プリマヴェーラのすぐうしろの石材が大きく盛り上がり、地中から巨大な砂の塊が吹き上がる。


 埼玉スタジアムの前庭に出現したのは巨大な円柱形の怪物だった。


「サンドワーム!?」




─ * ─




女魔人がサンドワームを呼んだぞ!

魔法少女はさいたま市を救えるのか!?


とか振っておきながら次回は『変身解除の方法は? クセが強すぎる!』


お星さまで応援、本当にありがとうございます!!

魔法少女ジュキちゃんかわいいぞ、頑張れ、と思っていただけたら、ページ下から★を送ってね♡

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