05、俺が魔法少女に選ばれた理由

「足がスースーすると思ったらなんでミニスカートなんだよっ!?」


 俺はステッキを持った手で慌ててフレアスカートの裾を押さえた。


「聖女様の力を受け継ぐからニャ。それに女魔人プリマヴェーラは女性に甘いことで有名だからニャ。それを利用しない手はにゃい」


 白猫が悪びれもせずに答え、玲萌レモが満足そうにうなずいた。


樹葵ジュキ、色が白いからピンクが似合うわ! 素足もツルスベでほんと、どこまでも綺麗なのね!」


「ち、違う!」


 俺は真っ赤になって体を隠すように両足を閉じた。間違ってもすね毛処理なんかしていない! だが体毛も白いせいでほとんど産毛うぶげみたいなものだから、白い肌と同化して見えないのだ。


 玲萌レモはうっとりとしたまなざしで、俺の頭からつま先までを舐めるように眺めた。


「胸元のリボンも可憐な樹葵ジュキにぴったりだし、白い手袋も清楚な雰囲気で素敵。苺柄の白ソックスも可愛らしくて君にふさわしいし、ピンクのスニーカーも無邪気な小学生ってイメージでいかにも樹葵ジュキらしいわ」


「あんたは俺にどういうイメージ持ってるんだよ!?」


 俺は涙ながらに抗議した。


「こんな体の線がはっきり出る服、どう見たって女装してる男じゃん! 恥ずかしくて外、出らんないよ!」


「どう見たって女の子だニャ」


「バストの発育が遅い女子にしか見えないわ」


 白猫と玲萌レモが声をそろえた。


「う、嘘だ」


 首を振ったとき初めて、髪が伸びていることに気が付いた。


「どうなってる、これ!?」


 ステッキを持っていない方の手で頭を確認すると、リボンらしきものに指が触れた。


「ピンクのリボンでツインテールに結んであるわよ。樹葵ジュキったら、どこからどう見ても銀髪美少女だわ。自信を持って!」


「嫌だぁぁぁ!」


 俺の絶叫もむなしく、玲萌レモに抱き寄せられた。


「さあ樹葵ジュキ、魔人に襲われて困っている人たちを助けるんでしょ?」


「そうだニャ、樹葵ジュキちゃん。大体元々のボサボサ白髪頭より今のほうがずっと綺麗だニャ」


「そうよ、樹葵ジュキ。せめて前髪はもうちょっと短くしたらいいのに」


「ううっ」


 一人と一匹に責め立てられて俺は言葉につまる。前髪長い方がモテるんじゃないのか!? ホストの写真画像検索したらどいつもこいつも鬱陶しい前髪してたぞ!


「ところでミルちゃん、ここから埼玉ダンジョンまで歩いて行くの? 夜だから自然公園発のバスは動いていないわ」


「ワイは空を飛べるニャ! そしてもちろん魔法少女も。樹葵ジュキちゃん、ステッキを振りながら呪文を唱えるニャ!」


「呪文!?」


 魔法を使えるようになったんだ、俺! そうだよな、認めたくないけど魔法少女だもんな! こいつぁワクワクが止まらないぜっ


 俺は言われた通りにステッキを掲げ、


「マジカル・エンジェル・メタモルフォーゼ!」


 教えられた呪文を唱えた。その途端、ステッキの先端から淡いピンクの輝きが芽生えて俺の背中へ散って行く。首をひねって後ろを振り向くと、コスチュームの背中部分から光をまとった天使の羽が生えたところだった。


「すげー! これで空飛べるのか!?」


「もちろんニャ。さ、急ぐニャ!」


 野生動物の身のこなしでベランダの手すりに飛び乗り、夜空へと羽ばたく白猫を追って、俺もベランダへ出る。


「私も一緒に行きたい!」


 玲萌レモが部屋の中から俺に向かって手を伸ばした。


 俺にできた初めての親友なんだ。彼女の願いを叶えてあげたい。


「分かった。危険がないように近くまでだよ?」


「ありがとう! かっこよく戦う樹葵ジュキを見られるのね!」


「よしっ!」


 俺は気合を入れて彼女を抱き上げた。


「お、軽い」


「魔法少女の身体能力は高いのニャ。樹葵ジュキちゃんの使いどころ、おかしいけれど」


 白猫の不満そうな声は無視して、俺は両手に玲萌レモを抱えたまま真っ白い翼を羽ばたいて夜空へ舞い上がった。


 玲萌レモは俺の首に腕を回し、こめかみに頬をすり寄せてきた。


「すごい……! 私、憧れの男の子にお姫様抱っこされてる!」


「憧れの彼、今おにゃのこだニャ」


 白猫が無駄なことを言うが、玲萌レモのときめきは止まらない。


「触れられるだけでも夢みたいなのに、こんな密着して体温を感じられるなんて!」


 玲萌レモの心の声がダダ漏れで、俺はどうしていいか全く分からず、足の下に広がる緑地に視線を落とした。涼やかな夜風に混ざって力強い新緑の匂いが立ち上ってくる。大きな池の上を飛べば、蛙の大合唱に見送られた。


樹葵ジュキってば、こんな至近距離で見てもすんごい美少年!!」


「至近距離で見ても美少女だニャ」


 いちいち突っ込む腹の立つ白猫に、俺は気になっていたことを尋ねた。


「なあ、あんた俺のこと逸材って言ってたけど、どこらへんを認めてくれたんだ?」


 木々と湖に覆われた公園地帯を過ぎると、こまかく区分けされた田んぼや畑の間に民家の灯りが見えてくる。


「むにゃ? 聞きたいかニャ?」


「ああ、言ってくれ」


 今まで知らなかった自分の才能が明らかになるのを心待ちにする俺へ、白猫は無情な現実を突きつけた。


「聖女様のコスチュームに変身しても違和感のにゃい小柄で華奢な背恰好と、ちょっぴり吊り目がちとはいえ女の子と見まごう顔立ち。さらに声も中性的だし――」


「もういい。やめてくれ」


 俺は耐えられずに途中で遮った。それ全部、俺のコンプレックスだよ!!


「オッサンが変身したら公害にゃん。テラテラ光るてっぺんハゲのままツインテールなんて見たくないニャ」


 白猫は平然と言い放つ。俺の首に抱きついたまま玲萌レモが、


「どうして最初から女の子を魔法少女にしないのよ?」


 至極まっとうな問いを発した。


「ワイが男の子だったからニャ」


 次々と車の光が走り抜けていく高速道路の上を飛びながら、白猫は溜め息をついた。


「聖女様はワイが変身してこの世界を救うよう、魔法のステッキを作ったのニャ。つまり雄のみが扱える精霊力を変身の起動力に使うよう設定したという意味ニャ」


「精霊力って自然界の精霊の力じゃないのか?」


 俺が漫画やゲームで得た知識を披露すると、


「うにゃ? 精子の霊の力だニャ?」


「いたわよ、女魔人!」


 白猫の答えは、地上を指差す玲萌レモの切迫した声にかき消された。




─ * ─




次回『女魔人と初バトル!』

いよいよ敵と対面です!

ジュキちゃんは可愛らしく名乗りを上げて、魔法少女らしく戦えるかな?

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