03、美少女が夜、俺の部屋にやってきた
「どうぞ。えっと――七瀬さん?」
「
訂正されてしまった。気まずい。女子の名前なんか呼ぶ機会もないのに覚えてねえよ。
それでも
これまで日本の飛び級制度は義務教育を終えた後のみ認められていた。だが少子化のせいか国際競争力が落ちている昨今の事情を
「だれ目当てなのか知らねえけど俺、訊かないから大丈夫だよ」
詮索してキモい奴だと思われても嫌だから、さらりと伝えたのだが、彼女は愕然とした。
「えっ、冷たい」
俺の態度、冷たいの!? 彼女の恋バナに付き合えってことか!? いやー、
「ごめん。この部屋で待っていていいんだよ」
なるべく優しく話しかけるが、
「俺、寝るから気にしないで」
「寝ちゃうの!?」
彼女の声がオクターブ近く跳ね上がった。くそっ、布団の中に逃げ込む作戦は失敗か。
「えーっと俺、多分きみの役には立たないと思うよ」
困って人差し指で頬をかくと、
「指先ほっぺに当てて首かしげられちゃったわ。目の前でかわいい仕草を見せてくれて眼福だけど、こんなに鈍いとは思わなかったわね。勇気を出してる私が馬鹿みたいじゃない」
ぶつぶつとつぶやいて片手を額に当てた。秀才である彼女の言うことがこれっぽっちも理解できないのは、やっぱり俺の頭が悪いのかな?
かける言葉が見つからず、布団の上に座ったまま見上げていると、
「うっ、なんていう破壊力! パジャマ姿で女の子座りしてきょとんと見上げちゃって! 鼻血が出そうだわ!」
わなわなと震えているし、顔も真っ赤だ。
「どこか具合でも悪いの?」
俺は心配になって立ち上がり、彼女を支えようと手を伸ばした。しかし触れる勇気はない。ガキの頃、真っ白い手でさわろうとして女子に気味悪がられたことを思い出してしまった。
「優しい!」
だが
「かわいいのに言動はイケメンだなんて私の
よく分からないことを言って自ら俺の胸の中に飛び込んできた。
「わわっ」
俺は
腕の中の
「
なんで下の名前で呼ばれてるんだろ。変な勘違いするなよ、俺。ただでさえ白すぎる肌のせいで怖がられてるかも知れないんだから。
「家族のことは好きだよ。あとリスペクトしてるミュージシャンは――」
「違くて」
「好きな女の子はいないのかって訊いてるの」
「
「質問を変えるわ」
彼女は毅然とした表情でまた俺を見上げた。利発そうな光が宿ったつぶらな瞳が、かすかに揺れている。
「
「ないよ? 女子の名前、覚えてないし」
どうせチビで友達もいない俺なんかモテねえ。ロックスターになるという夢に没頭するほうが楽しいから恋愛なんかしない。人気バンドのヴォーカルを務めれば、こんな俺でもきっと女の子のファンに黄色い歓声を上げてもらえるはずなんだ。
「じゃあまずは友達から始めましょ」
「え、うん」
「友達から始めて、そのあと何かあるの?」
俺は不安になって尋ねた。
「えっ」
「そのあとは――」
綺麗な茶色い瞳を右へ左へと動かしていたが、
「親友よ!」
自信に満ちた声で言い切った。
「へー。友達と親友って何が違うんだっけ?」
純粋な興味から尋ねると、
「親友なら二人でひとつの布団にくるまったりするの!」
「そうなの?」
疑心暗鬼になりつつ、体が冷えてきたので俺も布団の中に入った。
「そうよ! 親友っていうのは親子みたいに抱き合って眠るもんなんだから!」
「じゃあ俺たちもう親友だね」
俺が少し笑うと、
「ぐはぁっ! 笑顔がまぶしい!」
「あ、まぶしかったら電気消すよ?」
気を遣う俺に、
「
またよく分からないことを言う。俺が返答に困っていると取り繕うように、
「よろしくね、
照れくさそうに俺を見つめた。
「うん、よろしく。七海さん」
「あ、かわいい
家族みてぇなもんだって言ってたし、まあ納得できない話じゃねえな。
「そっか。じゃあ
「
彼女が嬉しそうに答えたとき、窓の外から猫の鳴き声が聞こえた。
「あれ? こんな時間に野良猫かな?」
片腕で上半身を支えてベランダへ目をこらすが、窓には明るい室内が映っていて外が見えない。
「猫に優しくして好感度アップのチャンス!」
「開けてくれてありがとうニャ!」
外から甲高い声が聞こえて俺は耳を疑った。呆然と立ち尽くす
「大変なのニャ! 女兵士たちの防御が崩されて、ついに魔人が街へ出てしまったニャ!」
室内から漏れ出る電気の明かりに照らされて、白猫が後ろ足で立っているのが見える。もがくように両前足をわたわたと動かす仕草は、何かを必死で訴えているようでもある。
「なにボケっとしてるニャ、ニンゲン!」
「猫がしゃべってる?」
「猫じゃないニャ! ワイは異界から来た聖獣ニャ!」
─ * ─
魔法少女に欠かせないマスコットキャラの登場です。
果たしてジュキは素直に変身してくれるのか!?
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