第27話「まるで犬みたいに」
夕飯の野菜炒めは、どうやらかなりの好評だったようで、
「明日もまた作って?食べたい!」
「もちろんいいけど……飽きない?」
「もう毎日でも食べたいから、一緒に住まない?」
歯磨きなんかを済ませて寝る準備を終えて潜った毛布の中、無邪気な様子で笑っていた。
「まだふたりじゃ住めないよ」
「えー……じゃあ毎日泊まってもいい?」
「これから何日も、連続でお泊まりじゃん」
「そんなんじゃ足りない」
頬をぷっくら膨らませて口の先を尖らせた高良が、私の服を引っ張って抗議したのを受け止めて、苦笑を返す。
私も同じ気持ちだからそうしたいのは山々だけど、どえしても現実的に考えてしまう自分がいた。
まだまだ自信がない私は、そんなこと言っといていつか別れてあっさりこの時間が終わっちゃうんじゃないか…と、常に頭の片隅で不安が蠢いている。
こんなこと考えてても仕方ないから、そっと蓋をしておいた。
「…そういえば、初めてのえっちはどうでしたか、伏見さん」
不意に、照れて返答に困る質問が投げられる。
沈みかけていた気分は元に戻して、なんて答えようか頭を悩ませる。その過程で、脳裏には行為中の高良の姿が浮かび上がってきた。
本人は「表情が崩れるから」と恥じらってあんまり見せないようにしてたけど……たまに見れた顔は正直、整いすぎててどこが崩れてるのか分からないくらいだった。
むしろ、あまりにも綺麗すぎて……
「…なんか、芸能人のハ■撮り見てる気分だった」
素直な感想を伝えたら、高良は怪訝に眉をひそめた。
「は?なんで芸能人のハ■撮り…?」
「や、なんていうか…見ちゃいけないもの見てる、みたいな。手の届かない存在なはずなのに、目の前にあるのが不思議で、何回か夢かな…?って疑うくらい変な感覚した」
「…そのくらい、かわいかったってこと?」
「あ、うん……そうです。えろかったし、かわいかったです」
結局はそこに行き着く。他の感想は、いらなかったかもしれない。
ただ、本心では高良の温度を感じるたびにこれが現実でよかったと、密かに心の中で安堵していた。彼女が反応を見せてくれると、リアル感が増してそれがまた安心に変わった。
そのくらい…現実味がないと思えちゃうくらい、夢のような時間であったことは確かだ。
「…高良は、どうだった?」
そう思ってるのは自分だけだったらどうしよう、と急に不安になって聞いてみたら。
「んー……きもちよかった」
単純だけど何よりも嬉しい言葉が照れた顔と声で返ってきて、思わず口元が情けなく緩んだ。
高良は自分で言って恥ずかしくなったのか、もぞもぞ動いて私の胸元に隠れた。それもまた、笑みを深める要因のひとつになる。
「伏見のこと、もっと好きになっちゃった」
幸せなことが連続で続くと、人は心臓を痛めるらしい。
胸を締め付けられすぎて辛い感情を少しでも発散させるために、腕の中で可愛いことばっかり言う高良の体を強めに抱き締めた。
相手も背中に回した手に力を入れて、服越しに密着した体は次第に温度を上げていく。
昼間はそれどころじゃなくて付けるのも忘れていたクーラーが今は冷風を送り続けてくれているというのに、ふたりの体温は下がらないまま。
「高良…顔上げて、こっち向いて」
「……ん」
お願いを叶えてくれた高良と近い距離で見つめ合って、目をとじながら顔を近付けた。
隔てるものは何もなく、唇同士が触れ合う。
涼しい空気中に熱い吐息が漏れては溶けて、その熱さにのぼせた頭で、何度か浅いキスを繰り返した。高良も、まだどこかぎこちなく緊張した動きで応えてくれた。
「…何回しても、ドキドキしちゃう」
しばらく相手の唇の感触を楽しんだ後で、高良が小さく呟いた。
「そのうち、死んじゃいそう…」
「もしそうなったら心肺蘇生するから安心して」
「人工呼吸もしてくれる?」
「うん。えろいやつ」
「死にかけの人にえっちなキスはだめでしょ」
「はははっ、だめか。だめだよね、そりゃ」
「心臓止まるのもっと早まっちゃう、寿命縮む」
「それはいやだなぁ〜…高良には長生きしてほしいよ」
「え?私と共に死ぬまで生きてほしいって?やだもう〜、付き合って一ヶ月も経ってないのにプロポーズなんて気が早いんだから」
「そんなん一言も言ってないです。捏造やめてください」
いい感じだった雰囲気は一変して、まるで付き合う前みたいなノリに変わってしまう。
いつもならいいけど今はなんとなく嫌で、まだまだ軽口が続きそうな高良の口を一旦、半ば無理やりに塞いだ。
ついでに■も絡ませてみたら、ちょろい彼女はすぐにとろんとした瞳へと変わって、震えた吐息を漏らして、体の力もすっかり抜けていた。
「いつ見てもえろい。その顔」
「や、だ……見るのナシだってば…」
「隠さないでよ。ちゃんと見せて」
「うぅ、くぅうう〜……せ、せめて電気消して」
腕で目元を隠しながら唸るくらい悩んだ上で出された条件を満たすため、言われてすぐ電気を消しに向かった。
暗くなった部屋の中を、普段の記憶のみで移動してベッドに戻る。
高良は意外にも自分から腕を伸ばして、抱き寄せる形で毛布の中へと招いてくれた。
「消してきました」
「ありがと。……今これ、どのくらい見えてる?」
質問に答えるため、目を凝らす。
うっすらと、輪郭が分かるくらいの闇の中、相手の顔を見られないことに少しだけ寂しくなった。
「ほぼ見えん」
「よかった」
「良くない。これじゃ意味ないじゃんか」
「ちなみに…わたしも何も見えてない。伏見で合ってる?」
「私じゃなかったら誰なんだよ、怖いわ。ちゃんと私だから大丈夫だよ」
手探りで両頬を包んで、位置を確認するため唇を親指の腹で触ってみる。
他のところと違ってここは熱くてぷっくらしてるのがえっちだな……なんてぼんやり思っていたら、吸い付くように指先を柔らかな感触が包んだ。
何をされてるか理解する前に、さらに■なんだろう湿った何かが控えめに皮膚の表面を撫でる。
「え、な……なに、してんすか、高良さん」
「指フ■ラ」
「言い方よ。…いやでも、それとてもえろい、えっちです」
「もっとする?」
「い、いいんすか」
「うん。…今なら、どんな事してても顔見られないもん」
「こいつ顔が見えなくなった途端に強気だぞ……心臓に悪いです、でも続けてほしいです、お願いします」
「ん、ふふ。いいよ」
心の声をそのまま包み隠さず伝えてみれば、私の要望を快く叶えてくれるらしい高良の口がまた私の親指を咥え込んだ。
いざ口内に含まれたら、とろけるくらいの温度感と肉感、それから不快にならないぬめり気が合わさって、歯が当たらないことも相まって、それがあまりに大事な部分と似た感触すぎて脳が混乱した。
見えない影響か、感覚が全てそこへ集中するから、より生々しく感じる。自然と、目を閉じてさらに意識を触覚へ全振りしていた。
う、うわ……これ、■■■だったらもっと気持ちいいやつだ。
いや、指でもけっこう……
「きもちいい…?」
「とんでもなく」
脳内を見透かされたようなタイミングで聞かれた言葉に、脊髄反射で即答する。
「へぇ……意外。ちゃんときもちいいんだ」
「う、うん……興奮する気持ちよさというか、なんというか…■■にクる」
「わたしも、けっこうキてる」
「え?じゃあ、今…」
「……言わせたいの?」
どうしてか、意地悪な声に聞こえた。
「や、ご…ごめん、そんなつもりじゃ」
「伏見、もっと近づいて、耳貸して」
「あ…うん」
言われた通り体を倒して覆い被さる形で距離を詰めたら、さっきまで私の指を咥えていた口が今度は耳たぶの辺りを甘く挟んだ。
「…伏見の指舐めてたら、興奮して濡れちゃった」
照れ混じりの小悪魔な囁きが聞こえた瞬間、全身の血液が滾って沸騰した。
せ、積極的な高良、えろすぎる…
頭の中にはそれしか残らなくて、言葉なんて出てくるはずもなかった。ただただ、突如襲い掛かってきた処理の追いつかない興奮に思考を止める。
「ねぇ、伏見」
「っは……はい」
思考が再開したのは、名前を呼ばれながら手を繋がれた時だった。
「わたしのも、舐めて…?」
だけどそれも、またすぐに呼吸ごと停止する。
それでもなんとか、この流れだけは止めないように口を開いた。
「ど、どこ…を?」
「……逆に、どこ舐めたい?」
「え…」
聞いた後で人の耳をはむはむと唇で
彼女から照れ隠しを奪ったら、ただのえっちな美少女が爆誕してしまうことを、このとき初めて私は知った。
「あんまり焦らさないで……教えて?」
「ぁ……え、えっと…」
「どこ舐めたい…?伏見」
また同じことを聞かれて、緊張しまくって絞まった喉に言葉が詰まった。
いつまでも答えを出せない私に呆れたのか、耳元で感じた、鼻から抜けた吐息にさえも過剰に反応してしまう。
もはや聞くこともせず、高良は自らベッドと私に挟まれた状態で、少し不便そうにしながらもTシャツの裾を鎖骨の辺りまで上げた。
動きで察したけど、暗くて見れないことが悔やまれる。
「もう待てないから……おねがい…」
ちょいちょい、と弱い力で服をつままれて、眼下に広がっているであろう……今は見えない肌色を咄嗟に見下ろしてしまった。
体のシルエットだけ、なんとなくで分かる。目の前にあるのに目で確認できないのがもどかしくて仕方がない。
一度高良の足の間に挟まる体勢に変えてから、体を前に倒す。
「はやく…伏見」
甘えた声で急かされて、動揺して声も出せないまま望んだ場所へと顔を落とした。
「伏見の舌、あつい…ね」
「ご、ごめん…嫌じゃない?」
「やじゃない、から……もっと、して」
「っわ…わかった」
なんかもう、犬になったみたいな気分で。
求められるがままに■を動かして、そうしてるうちに高良の欲望はだんだん下へ、下へと私のことを誘った。
興奮しすぎて、ほとんど無心で従っていたら、
「んぅ、う……っは、そこ…」
いつの間にか辿り着いていたそこに唇を当てた時、頭上から聞いたことがないくらい切なさいっぱいの声が届いた。
膝の下を支え持って顔を上げようとすれば、見えないと分かっていても恥ずかしいのかやんわり頭を押さえつけられる。だからまた元の位置に戻った。
声をかけることもできなくて、おとなしく■を差し出す。一緒に、指も差し出してみた。
「ゆっくり、して……強くしちゃ、やだ…」
「は、はい」
「わがまま言って、ごめ…ん、ぅ……ふ、伏見の好きに…して、へいき」
「大丈夫だよ」
顔のそばにあった手を取って、指を絡めた。
「大丈夫だから。…きもちいいこと、全部教えて」
言ったあとで行為を再開させたら、高良の背中が沿って■が逃げるように動いた。それでも続ければ、今度はぶるり、と大きく震える。
じっとりとかいた汗と、荒れた吐息が落ち着いた頃。
「っふ…伏見なら……ぜんぶ、きもち…いいよ」
たまらなく愛しい声と言葉を受けた後から、私の中の理性が完全に消えて、色々と爆発しまった。
気が済むまでした結果、終わったのは空が白んできた早朝のことだった。
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