第12話「デート内容決める」























 期末テストが終われば、夏休みが来る。


 どうせならデートは夏休み中にしようって話になって、赤点回避のため高良は親に家庭教師を急遽つけてもらったらしい。

 だから放課後の時間は私の家にも来なくなり、私も私で赤点にはならないのが確定してるものの点数は高ければ高い方がいいと、勉強に明け暮れた。

 

 そして、結果は無事に、


「すみません、わたし補習になりました…」


 私は平均点、高良は赤点を叩き出した。国語と英語だけはまだマシだったみたいだけど。


「……デートやめよっか」

「ごめんなさい!でも聞いて!めちゃくちゃ頑張ったの、ほんとに!過去最高レベルで徹夜続きの毎日だったの!この努力を評価してデートしてくださいお願いします」

「……言っとくけど、デートしても付き合うかどうかはまた別だからね」

「やばい、わたしがバカすぎて伏見のわたしへの愛が冷めちゃった……どうしよう…」

「そもそもまだ愛ないから。自分がバカって分かってるんなら補習がんばって、ちょっとでも頭良くしてこい」

「うぅ〜……ごめんなさい…バカで…」


 テストの結果が返ってきたその日、彼女はトボトボ肩を落として帰っていった。

 そのまま数日が過ぎて夏休みに入って、高良が補習を受けてる期間中に……私はバイト探しをはじめた。

 これから先、高良と付き合っても付き合わなくても…出かけたりするたびに何かとお金がかかる。それを見越して、お小遣いで足りない分を補おうという考えだ。

 今回のテストで赤点だった高良はお小遣い減らされるだろうし、私が少しでも多く出してあげないとって思いもある。

 今年の夏はバイト代が出るまで母親に前借りするとして、それ以降は出来るだけ自分で稼いだお金を使う予定だ。


「うーん……別にどこでもいいんだよな…」


 これといったこだわりや、やってみたい仕事なんかもなくて、最終的に近所のコンビニで働くことにした。

 面接を受けに行ったら、トントン拍子に話は進んで…高良が補習中の一週間のうちに研修を終えることもできた。


『今日で補習終わりました!』


 そうしている間に補習から解放された高良から連絡が入って、お疲れさま会ってことで私の家に来てもらった。


「久しぶり〜、さびしかった?わたしはさびしくて死んじゃいそうだった……あ。浮気してない?大丈夫?」

「浮気も何も、まだ付き合ってないです…」

「初回のデートで惚れさせちゃうもん。こんなの実質付き合ってるようなもんでしょ」

「その自信はどこから…」

「え?この顔見て分からない?」

「…分かっちゃうのがまた腹立つ」


 相変わらずの高良を部屋に招いて、さっそくデートの予定を決めようとノートを開いた。

 私が何をしようとしてるのか、相手には想像もつかなかったみたいで、首を傾けてくりくりの瞳が不思議そうにこちらを見つめた。


「なにしてるの?」

「…デート、どこ行きたいか教えて。予定立てるから」

「え……いいの。冗談抜きでデートしてくれるの?わたしバカなのに?」

「テスト終わったら…って、約束だったでしょ。点数は関係ないよ」

「えぇ〜、好き。やばいどうしよう、好きすぎて今すぐ付き合いたくなってきた。だめ?」

「だめ。まずはお互いよく知って…」

「もうわたしの美貌と性格の良さは知ってるでしょ?充分じゃない、腹括って付き合いなさいよ」

「……私に自信がないの。付き合ってみて、やっぱ違ったとか思われたくない」


 今でさえ、なんで好かれてるのかも謎すぎて、いつ嫌われちゃうんだろうって不安になる時だってあるのに、そんな状態で付き合うなんて無理だ。

 だから今回のデートは、半分が前向きな気持ちで……もう半分は、幻滅するなら早い段階でしてもらって、少しでも傷を浅くしたいという臆病な思いからきてる。

 高良と違って私は顔も良くなければ、これといった取り柄もない。つまらない人間だと、思ってほしくないけど気付いてほしい複雑な内面を抱えていた。


「思わないよ?どんな伏見でも好きだもん」


 こうやって、軽い感じで好意を伝えられれば伝えられるほど怖くなる。

 そんなこと言って、いつか離れていっちゃいそうで。

 完全に過大評価されてることも、不安の種だった。期待されると、その分だけプレッシャーになるから。


「……優しくなくても?」

「うん。意地悪でも目つき悪くても、伏見ならなんだって好き」

「か、影口言ったり、面倒くさがりだったり…ダメなところたくさんあるよ」

「それが何?それも伏見の一部なら、まるごと愛すだけだよ。このわたしの愛の深さを舐めないでもらえる?」

「…なんでそこまで好きなの?」

「……運命?」

「どういうこと…」

「理屈じゃないの、こういうのは。とにかく大好きなの、分かって」

「あ、はい…」


 聞いてもよく分からなかったから、そういうことなんだと思うことにして考えるのをやめた。


「ふふ、自信なくて不安になっちゃう伏見もかわいい」

「好きすぎて頭バカになってるんじゃない?」

「なに言ってるの。わたしは最初からバカだよ?」

「自信満々に言うことじゃないです…」

「さ、ほら。デート内容決めよ?」


 高良に促されて、ノートに視線を落とした。


「まず行くとこ決めない?伏見はどこがいい?」

「私は特にないかな……デートとかしたことないから、どこ行ったらいいか分かんないし…」

「じゃあ、映画館とかどう?伏見好きでしょ?気になる映画とかあるなら、それ見に行こうよ」

「うーん……今、映画なにやってるんだろ」

「調べてみよ?」


 慣れてない私と違って、相手が積極的に案を出してくれたおかげで、意外とすんなり予定は決まった。

 場所は映画館、今回は私の観たいやつじゃなくて高良の希望で恋愛映画を観に行く。映画の後は軽くご飯を食べて解散。初めてのデートにしては、なかなかいい気がする。

 待ち合わせ時間とか、場所とかはスマホで調べながらノートに候補を書き出していって、ふたりで話し合いながら決めていった。


「デート楽しみ。オシャレしていくね」

「いや……あんまり可愛くなりすぎると気後れしちゃうから、クソダサTシャツとか着てきてほしい…」

「それがわたしなら似合っちゃうんだなぁ〜。だから全然いいよ?着てこよっか」

「冗談です。好きな格好して来て」

「ん〜、なに着ようかなぁ……てか、わたしの私服見せるの初めてじゃない?」

「あぁ…確かに。今日も学校終わりだから制服だもんね」

「わたしお化粧したらもっとかわいいよ。一目見たら惚れちゃうと思う」

「それを言っても過大評価にならない顔面羨ましい」

「こんなかわいい子と付き合えるなんて、伏見は幸せ者だね。感謝して?」

「まだ彼女になるって決めてないんで…」

「素直じゃないんだから」


 とてつもなくウザいと思うものの、そこまでの自信を見せつけられると当日の私服を見るのが楽しみになってくる。

 私はどうせ何を着ても釣り合わないことが分かりきってるから、変に背伸びはせず普段通りの格好で行くことを心の中だけで決めた。


「ところで、予定も立て終わったけど……この後はどうする?イチャイチャする?」

「そういうの、付き合う前は良くないって」

「ごめん、つい癖で……補習で疲れたから、このまま泊まっていってもいい?」

「あー……今日はお父さん早めに帰ってくるらしいから、やめた方がいいかも」

「そっか。…じゃあ、軽く昼寝して帰ろうかな。伏見も一緒に寝る?てか一緒に寝よ?何もしないから」

「高良の言う“何もしない”だけは信じられん…」

「失礼な。ほんとに何もしないよ。ちょっと耳の後ろに鼻当てて息吸うだけ」

「匂い嗅ごうとすんな。…疲れてるなら寝ていいよ、私は映画見てるから」

「わたしも見る」


 結局、ベッドの上で寝転びながら映画を見てたらふたりして寝ちゃって、夜遅くに目が覚めたから高良はうちへ泊まっていくことになった。

 父親に会わなくてよかった……あの人、ナチュラルにセクハラするから。


「伏見のお父さんにご挨拶したかったな……正式な妻として」

「すみません、私の知らないところで勝手に籍入れるのやめてもらっていいっすか。文書偽造の罪かなんかで訴えますよ」

「ふふ。そう言ってられるのも今だけだよ?そのうち、嫌でも自分から書くようになるもんね」

「……女同士だから提出しても意味ないけどね」

「本当に付き合えたら、記念として書くのはありじゃない?指輪も買わなきゃ」

「結婚してもいいなって思った時は書くよ」

「あ、じゃあ今すぐ書いて?ちょうど持ってきてるから…」

「なんで持ってんだよ。怖いな」


 付き合う前から準備万端な高良は、楽しそうに喉を鳴らしてと笑った。

 その笑顔を見て、デートするまでもなく付き合ってもいいなって思っちゃうくらいには、私はもう彼女によって毒されていた。


















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る