第6話「親の顔」




























 高良の愚痴を散々聞いて、軽く勉強して、そろそろ帰るかな?って頃。


「そういえば、私を好きなこと秘密にしてるのはなんで?」


 ずっと気になっていた疑問を投げてみた。


「……噂が広まって困るのは、伏見でしょ。だから言わないだけ。わたしは別に知られても問題ない」


 友達といる時に話しかけない理由といい、今といい…私を想っての対応だと知ると、なんだか申し訳ない気持ちになってくる。

 思ってるよりも、本気で高良は私のことが好きなんだ。少なくとも、自分の感情を押し殺して気遣えるくらいには。


「高良は優しいんだね」

「当たり前じゃない。顔良し、性格良しの完璧な女なんだから」

「……頭は悪くて股は緩いけどね」

「ゆ、ゆるくない!締め付けいい方だもん、たぶん…」

「そういう意味じゃないし、そこまでは聞いてないです」


 今日、家に来て二人きりの空間で話して気が付いたけど、高良はけっこう冗談や下ネタにも応じてくれる。

 勝手にそういうの嫌いそうな偏見を持っていたことを改めて、ノリが良くてなんでも対応できちゃう美人ってよく考えなくても最強じゃん…と少し腹立たしく思った。そりゃモテる。

 おとなしく男と付き合ってれば平和に終わりそうなもんだけど……いかんせん、惚れるとバカになりすぎるのがデカいマイナスだ。


「私、賢い人の方が好きだな…」

「勉強する」

「今から?」

「うん。おれ、かしこいおんなになる」

「その言い方がもうバカっぽいけど」


 意気揚々とペンを手に取った高良を見て苦笑する。単純なのはかわいいかもしれない。


「でも時間的に……もう帰らないとだよ、高良」

「…帰りたくない」


 ペンを置いて、スススと移動して私の隣にやってきた高良は、甘えた仕草で腕にしがみついた。

 そこまで来るともう恋人同然な行動で、許すのは良くないと判断して肩を押してみても、微動だにしない。むしろ腕を掴む手に力がこもった。

 こ、こいつ……意地でも離れないつもりだ。

 頭を鷲掴みしてグググと向こう側に追いやってみるものの、反発するように頭をグリグリ押し付けられた。


「は、はなれろ……っこの…!」

「ふふん、油断した伏見が悪いもんね。もう一生離れてあげないんだから」

「っく、くそ……しつこい女まじで嫌い。ほんとに嫌いになりそう」

「仕方ないから離れてあげる…」


 しょんぼりして体を話した高良があまりに従順すぎて面食らった。さっきまでのしつこさどこ行った…?


「…高良ってさ、今までもそんな感じだったの?」

「今まで……って?」

「いやほら、付き合ったことくらいあるでしょ?そんなに顔良かったら」

「うん、まぁ…あるよ。小中って合わせて十人くらい」

「じ、じゅうにん?」

「告白された中から、くじ引きで選んでた。暇だったから付き合ってあげてもいいかなって」

「とんでもねえ女だ。親の顔が見てみたい」


 生まれてこの方、モテ期なんて来たこともなければ今後も来そうにない私とは異次元の世界を生きてるようで、高良にとっては生き続けてる限りずっとモテ期なんだと悟る。

 なしても、高校生になるまでに十人……十人?意味分からん。そのペースで行ったら死ぬまでに一万人超えるんじゃ…?高良の元カレかき集めて国作れるじゃん、やば。女王様ってこと?


「でも自分から好きになったことはないかな」

「え、なんで?」

「分かんない。ちゅーもしたけど……あんましっくりこなかった」

「キスしたことあるんだ…」

「あ、興味ある?伏見もしたい?いいよ、わたしとする?」

「興味もあるし、してみたいけど、高良とするとは言ってないです顔近いです」


 ここぞとばかりに寄せてきた顔を潰す勢いで押し退けた。まったく…油断も隙もない。


「ちなみに、キス以外はしたことないよ。だから処女。初めては伏見にあげるから楽しみにしててね?わたしもたのしみ。いえい」


 軽いノリでピースしながら笑った高良に、いよいよ呆れて言葉も出てこなくなった。相変わらず貞操観念がしっかりしてるのか、とち狂ってるのか分からない。


「そんな感じで……したことないんだ…」

「うん。男の子に裸見せるなって、パパに言われて育ったから。パパ怒ると怖いの。いつもは優しいんだけどね」

「高良のパパ……気になる。絶対イケメンじゃん」

「見る?写真あるよ」

「見る、見たい」


 食いついた私を満足そうに目を細めて微笑んで、高良はスマホを手に取った。

 画面を何度かスクロースしていって、少し写真を厳選した後で実際に見せてくれる。……予想通り、えぐいイケメンが映っていた。


「これパパの若い頃」

「やっば、かっこよ……てか、ハーフ?っぽい」

「大正解!パパはイギリスと日本のハーフで、じじがイギリス人なの。だからわたしはクォーターだよ」

「あー……だからそんなにかわいいんだ」

「ふん、かわいいでしょ?パパとママの子だもん」

「お母さんも美人?」

「うん!ママは純日本人で、伏見と同じ奥二重だよ」


 お、それなら親近感湧くかも…?なんて、期待した私がバカだった。


「……遺伝の勝利…」


 ついでに見せてもらった高良ママの若かりし頃は、確かに奥二重ではあったものの目の大きさが段違いで、まつ毛は天然でバッサバサに生えていて、涙袋もいい感じに似合うはちゃめちゃに美人な女の人だった。

 高良のあざとい口元の形と顎の小ささは母親譲りなことにも気が付いた。

 イケメンと美人の遺伝子を上手い具合に受け継いで、美少女が爆誕した現実を見せつけられてメンタルを抉られる。

 この顔面の落差はなんなんだろう……前世で何をしたらその顔に生まれてこれんの?羨ましくて仕方ない。


「高良のイケメンパパはなんの仕事してるの?」

「うーん…昔はモデルの仕事してたんだけど、稼ぎが安定しないからって結婚するタイミングで就職したんだって。今は営業部の課長?だよ」

「こんなイケメンでもモデルの仕事は不安定なんだ…芸能界おそろしい」

「大変だったみたいだね、よく分かんないけど」

「…高良はやらないの?モデルの仕事」

「わたしはママに似て身長低いから……パパは180cm以上あるんだけどね。そこの遺伝は引き継がれなかったみたい」


 言われてみれば確かに、高良って小柄だ。私より10cmくらい低いかも……ってことは、150ちょいくらいか。

 唯一勝てる身長に、心の中でガッツポーズを決めようとしたものの、よく考えたら女の子は小さい方がかわいいと聞く。つまり実質的に負けである。


「負けました…」

「勝ち負けとか無いから。…伏見のパパママはどんな感じなの?」

「うちはごく普通の純日本人家系だよ。お母さんは一重だし、この奥二重はお父さん譲り。素朴な顔です…」

「わたしは好きだけどね、流し目な感じで。まつげ長いし、クールでかっこいい」

「そんなん言うの高良だけだよ…」

「伏見の良さはわたしだけが知ってればいいよ。充分でしょ?」

「まぁ……誰にも知られてないよりは…?」


 そもそも良さなんてないんだけど。褒められて悪い気はしない。

 自分の顔で許せるパーツは母親譲りの高い鼻くらいで、それ以外は、特に目元はコンプレックスにまみれてるから……高良のポジティブさには普通に心救われた。

 あどけない笑顔を見せる高良が眩しく映る。二重で、小鼻も小さくて、唇も歯並びも綺麗で、お人形さんみたいで。


「こんな可愛い子に好かれてるんだから自信持って。ふぁいと」


 悔しいことに、まじでちょっと自己肯定感上がったのは、調子に乗りそうだから内緒にしとこ。




 


 
















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