第2話「お友達から」
高良と連絡先を交換した、その日の夜。
さっそく、ピロンとスマホが音を鳴らして、高良からのメッセージが届いたことを教えてくれた。
趣味の映画鑑賞を楽しんでいた私は、チラッと画面の通知を確認しただけで無視を決め込んで、続きを見ようとタブレット画面に視線を戻したものの、
「し、しつこいな…」
何度もピロン、ピロンと鳴り響く通知音に少しばかりイライラして、またスマホを手に取った。
以下、『』内はメッセージや通話越しである。
『今日はありがとう』
『泣いちゃってごめんなさい』
『嫌いにならないでね』
『こうやって連絡できるのうれしい』
『今なにしてるの?』
『好き』
トーク画面を開いてみれば、ズラリと送りたいように送られてくるメッセージが並んでいて、ちょっと引いた。その間にも『あ、見てくれたの?既読ついた』と追加のメッセージが反映された。
『通知切っていい?』
嫌気が差して送ったら、『やだ、さびしい、いじわる』という言葉が三連続で返ってくる。
『しつこいです』
『ごめんなさい』
冷たい態度で送った途端、その謝罪を最後に連絡は途絶えた。変なとこ素直で困惑する。
美人の考えることはよく分からんな……とか思いながらスマホを投げ置いて、再生ボタンを押した。
さすがにもう連絡こないでしょ、と完全に油断していたところで、今度は着信音が鳴り響いた。相手はもちろん高良であることは、スマホを確認しなくても分かった。
「あぁあ〜、もう…!」
ひとり時間を満喫できないことにイラつくものの、このまま放置しても続くであろう構ってちゃんをなんとか解決させたくて通話に応じた。
「もしもし。あのさ、さすがにうざい…」
『わ、出てくれた…!』
文句の一つでも言ってやろうかと思ってたけど、予想以上に嬉しい悲鳴がスピーカーを通して聞こえてきて、思わず口を噤む。
そ、そんなに喜ぶ…?ってくらい、高良の声は明るすて戸惑った。
『きらわれちゃったかと思った』
「……嫌う一歩手前でした」
『ご、ごめんなさい……怒ってる…?』
めっちゃ怒ってる。……とは、言いにくい。
なんか会ってる時とテンション感が違って、声の可愛さも相まってか通話越しだと控えめなのがザ・清楚なお嬢様な気がしてくるから話しづらくて仕方なかった。
いつもの、あの高飛車MAXな感じできてくれたら、こっちだって高圧的にいけるのに。クソ、こういうお人好しなとこがだめって分かってても性根の優しさが滲んでしまう。
……私って、高良の言うように案外性格良かったのかも。
なんて自己肯定感を上げるのもそこら辺にして、面倒くさい彼女みたいな状態の高良をどう落ち着けようか考えた。
「高良、あのさ」
『う、うん』
「しつこい女は嫌われるよ」
それだけは言葉を濁さず言おう、と決意して口に出せば、分かりやすく彼女は絶句していた。顔が見えなくても分かる。
「好きな人と連絡取れて嬉しいのは分かるけどさ、連投は無いって。あといきなり電話も怖い」
『わ、わたしから連絡来るだけで嬉しいと思いなさいよ!』
「切ってもいい?」
『っま!まって、やだ……切っちゃだめ…』
「強気なのか弱気なのかどっちかにしてよ、やりずらいな」
『つ、強気に行きたいけど、伏見が冷たいんだもん……自信失くしちゃうの!だからこれは伏見のせい。あんたが悪い』
「切りまーす、おやすみなさい」
『ちょっとまっ』
すっかりいつもの調子に戻った高良の言葉を遮って通話をブチ切る。すぐに『ひどい』と来たけど、それも無視した。
通知もオフに設定して、今度こそはもう対応しないぞ…と心に誓って映画に集中することにした。
夜は完全シカトを決め込んで、寝落ちしていた私が目覚めてからスマホを確認してみたら……意外にも、高良からは一言だけ、
『おやすみなさい』
しか送られてきてなかった。
正直、一分に一回くらいの頻度で鬼電来てるものと思ってたから、拍子抜けだ。
なんか悪いことしたな……舞い上がっちゃってただけなのに、あんな言い方して。
良心で胸を痛くかったから、とりあえず「おはよう」と返しておいた。
『おはよう!早起きだね、えらい!』
彼女なりに好感度を上げようとした結果なのか、素なのか……数分も経たずしてどこか上から目線な気もする返信が来た。
「高良も早起きだね……っと…」
『寝てない!伏見に嫌われてたらどうしようって悩んでたら眠れなかった』
「まじか」
なんだろう、このひしひしと感じる危うさは。
私のせい…?私のせいで、こんなにもバカになってるってこと?……いやいや、落ち着け。高良は最初からバカだ。
にしても、睡眠不足になるくらい悩むなんて、けっこうガチなんだ……困ったな。そんなに好かれても、付き合ったりするつもりないよ、私。
もう一度、はっきりきっぱりちゃんと断ろう。なんか可哀想に思えてきた。
『高良、何度も言うけど付き合う気はないよ』
『大丈夫!わたしかわいいもん、伏見もきっと惚れるはず』
あれ、話が絶妙に噛み合ってない気がする。
それにその自信はどこから……あ。この子そういえば顔めっちゃ良いんだった。そりゃ自信あるよね、あの顔なら。
『確かに可愛いのは認めるけど、惚れません』
『なんで?こんな美少女と付き合える機会逃すなんて、伏見バカなの?』
『高良も言ってたじゃん、外見よりも中身だって』
『わたしは性格までかわいいけど…なにが不満?』
『今この瞬間がもう不満。そして不毛』
『ひどい』
『その通り。私はひどい人間だから、諦めなって』
『でも好き』
「なんでよ…」
最後だけは文字に打たないで口から吐き出して、ついでにため息も一緒に溢した。まじで諦め悪い…勘弁してよ。
私がなんでこんなにも付き合いたくないのかは、考えなくても原因が判明してる。
顔だけ見れば最高にかわいいって、女の私でも思うけど……性格がなぁ。このうざったさが無ければ、まだちょっとは揺らいでたかもしれない。そのくらいには整ってる。
ただ、付き合ったら絶対にメンヘラだよねって分かりきってるのが辛い。
それに……高良と違って、自分に自信があるわけではないから。美人と中の下が並んで歩いてたら浮いてしまう事実に耐えられるほど、心の余裕はない。
あと女にそんな興味ないんだよなぁ……おっぱい見て興奮したことないもん。
いや別に他人が女と付き合うとか、そこら辺はどうだっていい。魅力的であれば、同性だろうが異性だろうが関係ない気持ちは、なんとなくだけど理解できるから。
でも自分がってなると、ちょっと想像つかない。
だから諦めさせる方向でいきたい。…んだけど、何しても「好き」ってなるあの盲目さには参った。
どうやって接すればいいんだ…最適解が浮かばなすぎて頭痛くなってきた。
「いや、逆に……私が惚れた方が早い?」
もういちいちフるの面倒くさいし、よくよく考えたらこの先の人生で高良並みの美人から口説かれることなんてそうそう無い。もはや今の状況は奇跡に近い。
それなら…………って、あっぶね。危うく血迷うところだった。
いくら顔が良くても、あの性格は無い。むりむり、ありえない。めんどくさすぎる。
告白した男がみんな口を揃えて「性格悪すぎる」って評価するくらいこっぴどくフッちゃうような子、私には荷が重いって。
『友達として仲良くしてください』
言い方を変えて、遠回しに今度は伝えてみた。
『お友達からはじめましょうってこと?』
そしたら、なんともポジティブな解釈をしてきて苦笑する。メンタル強すぎ。
『もうそれでいいよ』
朝から撃沈した私は結局、昨日の帰り同様に折れてしまった。これが良くないって分かってるのに。
でもなんか、ここまで来ると面白いんだよなぁ……どこまで前向きでいられるのか、確かめてみたくなっちゃう。私なら今の時点で諦めて枕濡らしてる。高良はそんな気配まったくないから凄い。
美人に生まれると、生まれながらに自己肯定感もバカ高くいられるのかな、それはちょっと羨ましいな……なんて考えながらメッセージのやり取りもその辺にして、学校へ行くための準備を始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます