第26話 僅かな気づき
ネクスとコンビナート。二人は同時に地を蹴り迫る。
「【フレイムダガー】」
ネクスの手に炎の短剣が生まれ、同時に腕を振るい投げ出される。
炎の短剣を手刀で切り裂き、同時に振り下ろされる二振りのサーベルを腕で受け止め、後ろに流す。
「ッ!!」
反撃に転じようとした瞬間、首めがけて伸びてくる足をギリギリのところで体を仰け反り躱し、バク転してサーベルの刺突を躱す。
(一対二、冒険者でもそうだが生半可な反撃の手が潰されるか)
草原の風を思わせる怒涛の斬撃を両手で捌き、背後から迫る蹴りを見屈めて躱す。
「【フレイムアロー】」
真横に跳び、ノールックで突き出した指先から放たれる炎の矢を躱す。
右手に影の剣を握り、二振りの斬撃を受け止めると同時に、踵を返したネクスが放つ回し蹴りを左腕で受け止める。
「当たり前のようにこれを凌ぐか」
「流石に【フレイムアロー】は当たってよ〜」
剣と剣が鍔迫り合い、足と腕が拮抗する。
目を細め、現実を受け入れるコンビナートと残念気味に笑うネクスを一瞥し、体の筋肉に力を込める。
剣と腕を払い、二人は飛び退き距離を取る。
(……流石に本気の二人同時に捌くのは多少の無理があるか)
両腕を見れば、黒い鱗が赤く爛れていた。
剣を容易く防ぎ、魔法を切り裂くバジリスクの鱗が砕かれ、切り裂かれ、焼かれている。
傷は痛みを生み、その痛みと共に赤い血が流れ落ちる。
本気の本気。殺す気でかかってきている二人の攻撃はまともに当たれば致命傷たり得ることの証明だ。
(ネクスは理性的な場合の親父や母のように殺さないよう加減する……というのはしないからな。まぁコンビナートも同系統ではあるようだな)
流れ落ちる傷を舐め、両腕に影を纏い、一薙に振り放つ。
放たれた影の斬撃をコンビナートが受け、そして吹き飛ぶ。それと同時に斬撃の射線にネクスが出てくる。
「【フレイムランス】」
「【地槍】」
突き出した手から放たれる炎の槍が地面から突き出る岩の槍と衝突する。
槍と槍、その穂先がぶつかり合い、刹那の間拮抗する。その刹那の内に私とネクスは地を蹴った。
炎が霧散し、岩が融解する中私は岩の槍の上を駆け抜け、迫るネクスへと拳を振り下ろす。
「アハッ、やっぱりそうするよね!!」
「こちらの方が得意だからな」
三十を越える拳打と蹴撃を重ね、崩れ落ちる岩の槍から飛び退き、同時にネクスへと左手を向ける。瞬間、袖口から触手を伸びネクスの足に巻き付く。
「えっ!?」
触手を引き、ネクスを引き寄せると同時に崩れる岩を足場に跳躍。触手を用いて距離を詰めさせたネクスの腹に膝がめり込んだ。
「がっ!?」
腹から空気が抜けたような、そんな声を吐き出すネクスに絡みついた触手を操り、跳躍したコンビナートへ投げつける。
「うぐっ!?」
飛来するネクスをコンビナートは目を見開いて受け止める。同時に私は崩れる岩場を足場に跳躍し、コンビナートへ肉薄する。
「しまっ……!?」
「【魔力撃】」
体を捻り、魔力を籠めた尾を振り抜く。
垂直に振るわれた尾はネクスを打ち、コンビナートごと地面に叩きつける。
「ごふつ……!?」
ネクスの下敷きになり、血を吐き出すコンビナート。私はコンビナートの隣に着地し、息も絶え絶えな狼フェイスを見下ろす。
(流石に即興の連携に粗があるか。……まぁ、それも鍛え方次第だな)
今日初めて会い、そして初めての連携。
それでも脇腹に攻撃を当てれるだけあって脅威になり得る。
「うう〜ん、悪くなかったと思ったけど無理だったか〜」
「早く退いてくれ……流石に重い……」
「あ、重たいって言った!レディに重たいは禁句なんだよ!!」
ジタバタ藻掻くネクスに不満を漏らしたコンビナートはネクスに顔面を殴打される。
その様子を愉快げに口角をつりあげながら眺める。
(……そういえば、ネクスもずいぶん成長したな)
160セルチに迫る私に対し、ネクスは150セルチと未だ小柄だ。
けれど、その胸は確かな膨らみが服の上からでも観測できるようになってきている。
私は私の平べったい胸を見下ろし、僅かばかりの寂寥感が差し込まれる。
(……まぁ、胸は多少は大きくなっているし構わないか)
この体は、生物として女として向かっている。
別段それ自体に興味がない――訳では無い。前世は男でも、現世で女である以上そうした事をする事があるとは考えている。
無ければ無いで別に構わないが、経験することは想像するより価値があるのだからを
(元より、寿命の長い種族は総じて子供が出来にくい体になっている。子を持つことは絶望的であろうな)
ワーワーギャーギャーと騒ぎ、魔法と剣で喧嘩を始めるネクスとコンビナートを微笑ましく思いながら、魔力を練り上げる。
女であることより、母であることより、魔族である事を望む。
その事を念頭に置くと、二人の喧嘩を仲裁するのだった。
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