第16話 戦闘――幼き戦乙女 1

 曇天は陽の光を遮る。

 陽の光が僅かな中で地上に光が生まれた。


「【ホーリースピア】!!」


 マリアの左手から光の槍が生まれると同時に放たれる。

 真っ直ぐに飛来する槍を影を纏わせた手刀の一閃で切り払い、直後に迫る剣の切っ先を腕で退かす。


 反撃の一突きは少女の左手に装備された四角錐の盾で防がれ、切り返す刃が身を引いた私の頬の肩を僅かに割く。

 痛みが僅かに肩から伝わる。が、一切怯まずマリアに肉薄し腹に掌底を叩き込む。


「ぐっ……!!」


 腹に打撃を受け、マリアが僅かに怯む。

 同時に上段から手刀を振り下ろし、マリアは身を翻して手刀を躱す。

 着地と同時に放つ連打をマリアは盾で防ぎ、大きく後ろに飛翔し距離を取る。

 着地と同時に剣に光が灯り、私は尾を影で纏わせた。


「【ホーリーブレイド】!!」

「【黒刀】」


 身を翻し放つ影の刃と光の斬撃がぶつかり合う。その瞬間、私とマリアは駆け出した。

 光と闇の斬撃は互いにぶつかり合い、互いに喰らい合い霧散する。間髪入れずに互いを間合い捉え、れ突き出した拳と剣が交錯する。


(基礎的な能力は互角か私が多少上な程度か。しかし、平穏な環境でここまで剣と魔法を鍛えるとはマリアは中々にやるな)


 魔族と違い人族は子供に殺し合いを強要させない。

 魔族と違い人族は兵力にならない子供を殺すことはしない。

 それ故に、誰かを守り誰かのために怒れる力をつけることができる。それが人族の強さだと言わんばかりにマリアの剣は重く、鋭い。


 打撃と斬撃が重なり合い、マリアと私は額をぶつけ合う。


「貴女たちは……何故私たちを襲うのですか」

「人生を楽しみながら生きるため」


 前蹴りでマリアと体を離し、地面に手を付ける。


「【地槍】」


 魔力を流し込むと同時に大地から幾本もの槍が大地から突き出る。

 剣山の如き槍は飛翔したマリアの足を掠め、肉を抉る。


「くっ……!!」


 宙を舞い、地面から突き出る岩の槍と生まれた影から伸びる影の刃をマリアは躱す。

 即断と速攻。怯む間もなくマリアは肉薄と共に剣を振り下ろす。

 呼応し突き出した拳が剣の刃と衝突し、火花を散らした。


「欲望を満たすことこそ生きる事。トランプやボードゲーム……があるかは知らないが、ようは遊びと同じだ。少なくとも、親父たちは人殺しを楽しんでいる」

「親父たちは……貴女は楽しんでいないのですか?」

「当然だ。死んでしまえばそれまで、それ以上が存在しない。戦いが好きなだけで殺しへの執着は薄い。もっとも、敵対者は叩き潰すに限るが」


 突き出した剣を躱し、握った拳を突き出す。

 マリアは拳を左足を軸に回転して躱し、私が跳ぶと同時に剣を横薙ぎに振るう。

 生まれた僅かな隙に袖口から生み出した触手を突き出す。盾で触手が防がれると同時に肉薄し、握った拳に魔力を溜める。


「【魔力撃】」


 アッパーカット気味に振るう拳と咄嗟に構えた盾が衝突する。

 ドンッ!!という音と共にマリアの体は僅かに浮かび、その青い瞳を見開いた。


「くぅ……!!」


 手を痺れさせたように私の拳を振り払い、翼を持って飛翔する。

 その瞬間、岩の弾丸がマリアの片翼を撃ち抜く。


「うぐっ!?」


 衝撃と出血。

 白い羽根は赤く染まり、空を目指した乙女は地へと落ちていく。

 せめてもと体勢を変えるマリアを目指し地を蹴り宙を跳ぶ。体勢を立て直すと同時にマリアの頭を掴み、地面へと投げつける。


「ガハッ!?」


 地面へと叩きつけられたマリアは大きく仰け反る。

 自由落下に身を任せ、地面に両足をつけ着地するとヨロヨロと立ち上がるマリアに最短距離で肉薄する。


「【ホーリースピ――」

「それは悪手だ」


 マリアが左手を私に向けた瞬間、左足を軸に体を捻り、右足でマリアの腹を横薙ぎに蹴り飛ばした。


 マリアは大きく吹き飛び、瓦礫の山に叩きつけられる。体勢を戻し、瓦礫に埋もれるマリアを見つめながら拳を握る。


 手応えはあるが、完全に殺しきった感覚が無い。そのため警戒を怠れない。


(才能は素晴らしいが経験が足りていない。それが今の彼女の弱点だ)


 才能というものだけではどうしようもないものを経験によって補う。

 人族という優しい揺り籠の中で育ったがために、殺し合いという極限の取捨選択を迫られた回数が足りておらず、マリアは判断を間違えたのだ。


(経験は力だ。人殺しの経験も、殺されかけた経験も、逆境に抗う経験も、蓄えとなって力になる)


 魔族社会で生活し、生存してきたがために命の奪い合いである戦闘経験は否応なしに積み重ねられた。

 そうして重ねられた差が彼女の才能を上回った。

 瓦礫を山を見つめ、魔力を練り上げ続ける。


(しかし……動きがないな。気絶したか?)


 そう思い、練り上げる魔力を僅かに緩める。


「――【空砲】」


 その瞬間だった。

 小さく、しかし確実に。

 瓦礫の中から魔法の名を唱える声が聞こえてきた。


(ッ!!)


 本能が警鐘を鳴らす。

 即座に本能に赴くまま影を纏い地を蹴り距離を取った。

 その瞬間、全身を殴られるような衝撃と共に吹き飛ばされた。


地面に足をつき、削り、衝撃を殺すと瓦礫の山を退かし出てくるマリアを見据える。


 服は土埃に塗れた上でボロボロ。体には細かな木の破片が突き刺り、僅かばかり血を流す。

 しかし、その青い目には先程より強い意思を宿しており、一切勝つことを諦めていない。


 私は気を引き締め、纏う影を腕に集約させる。


「……少し、奥の手を使わせてもらいました」

「奥の手、か。それは先程の衝撃のことか?」

「はい」


 瞬きの瞬間、マリアが目の前から消える。

 直後、背後から殺気を感じとると同時に背中を切り裂かれる。


「うぐっ!?」


 振り向くと既にマリアはいない。

 周囲の気配に気を配ると同時に目の前から胸を袈裟斬りにされる。


「がっ……!?」


 拳を横薙ぎに振るうとマリアは大きく飛び退き、着地と同時に切っ先を向ける。

 影の糸で傷口を縫合し、マリアへと影の触手を伸ばす。

 触手は一直線にマリアに迫り、光球に阻まれる。


「……生得魔法か」

「はい。貴女の影と同じように、私は空間を操ることができるのです」


 その瞬間、再びマリアの姿が消える。

 背後から殺意を感じとると同時に影の触手を生み出し、振り下ろされた剣を受け止める。


(私以外の生得魔法の使い手は初めてだな)


 袖口から影の球体を生み出しマリアを吹き飛ばす。

 マリアもまた剣を振るい、私の腕を切り裂く。


「ここから先は第二ラウンド、といったところか」

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