第14話 強襲
「よし……これで渡り終えたぞ」
「わかった」
大人たちが全員渡り切ると、私は影をもとに戻す。再度馬に乗り直すと私と大人たちは再び村へと駆けていく。村の方も私たちの接近に気づいたようで、混乱が見え始める。
(さて……使ってみるか)
影の中から戦斧の取り出し、柄を握る。
魔力の温存という意味では斧を振るっていた方が遥かに効率が良い。
(斧の扱いは幼い頃、徒手空拳と共に親父から学んだ。使いこなせるとは思ってないが、まぁ有象無象なら殺れるか)
「奪うものは奪い、殺し尽くせ!!」
「「「おおっ!!」」」
親父の号令に大人たちが声を張り上げ、村へと侵入する。
「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
「ま、魔族!?何でこんなところに……グホッ!?」
「子供たちは早く神殿に行きなさい!!少しでも時間を稼ぐ……!!」
唐突かつ本来なら柵のある方向からの攻撃は完全な虚を突き、人族たちに混乱が広がる。
ある者は逃げようと背を向けた瞬間剣で刺された。
ある者は動揺し動けなかったところで馬に撥ねられた。
ある者は子供を逃がすために無謀な突貫をして玉砕した。
指示系統がハッキリとしておらず、結果として動きが鈍る。親父たちの暴虐は止まることを知らず、逃げる者も抗う者も等しく蹂躙していく。
「オオオオオオオオオオオオオオッ!!」
そんな親父たちの様子を少し離れた位置で見ていると一人の男が私に向かって奪還してくる。
その手には剣が握られ、剣術を知らないような素人然とした突きを放ってくる。
その一撃を戦斧を振り上げて無慈悲に弾き飛ばす。愕然と目を見開く男を無慈悲に見下ろし、両手に持った戦斧を振り下ろし、頭をかち割った。
「アッ――」
断末魔の声と共に男は動かなくなる。
戦斧を抜くと男は地面に倒れ、ドロリとしたピンク色の塊を地面に溢す。
(……やはり重いな。振るえば振るうほど、筋肉が悲鳴をあげてる)
己の体躯に合わない重量の得物を振るう無理をすれば、その反動は必ず返ってくる。
腕と肩の筋繊維が千切れ、僅かばかりの痛みを発する。一度や二度なら問題ないが、何れ大きな歪みになる。
(それでも、補強すれば問題ないな)
体の影を両腕に巻き付け、負担を分散させる。
何度か薪割りのように打ち下ろし、負担が軽減されている感覚を確かめると飛来する炎の矢を水平に振るい切り払う。
「――【黒刀】」
影を戦斧に纏わせ、矢の来た方向へと振るう。
放たれた影の刃は杖を向けた魔法師を剪断し、胴体と下半身を分けた。
それと同時に飛んでくる矢を影の触手で掴むと目を細める。
「……なるほど、確かにコボルトたちが殺られるのは無理もない、か」
降り注ぐ矢の雨を戦斧を振るい切り落とし、僅かな隙で逆手に持ち直し、弓使いへと投擲する。
戦斧が弓使いの体を突き刺し、生まれた影から伸びた刃が弓使いたちの首を刎ねる。一通り壊滅したところで触手を伸ばして突き刺さった戦斧を回収する。
(雑兵とはいえ戦闘能力を有する者や戦闘に転じることが出来る技能を持つ者がそれ相応にいる。コボルトたちとて無能ではないが数で叩かれたら殺られるのは無理ない。それに……)
直後、背後から爆発音が響く。
音に馬が驚き、暴れようとするのを手綱を引いて宥めながら、背後を向く。
背後では親父たちが鎧やローブなどを身に纏う十数人の人族たちと相対していた。
人族たちは皆首からドックタグを提げており、親父たちの目もまた鋭いものになっていた。
(冒険者もいるか。こうなると、コボルトたちの事は事前に気づかれていたとみて良い。奇襲には成功したが、それで状況は五分くらいだろう)
迫る風の槍を切り裂き、斧を杖のように突きつける。
「【地槍】」
唱えると同時に岩の槍が突き出し、風の槍を放った魔法師を問答無用で貫いた。
鎌を持ち迫ってきていた男を一振りで首を刎ねると血油を払う。
(教会前の広場の方は親父たちに任せて、私は……不本意だが、立ち向かってくる人と戦うとしよう)
背を向けて逃げる者たちから私へと武器を構える者たちへ視線を移し、笑みを浮かべた。
逃げる人たちは戦いの場に出向くことすらしない弱者だ。弱者を殺したところで得るものが無く、そのため殺す価値もない。
しかし、不条理に抗う者たちは等しく敵であり価値がある。例えそれがどれだけ弱くても敵であり全力を持って蹂躙する。
「【地槍】」
周囲を取り囲む人族たちへ全方位に向けて幾本の岩の槍を突き出した。
人族たちは突然の攻撃に避ける間もなく体を槍に貫かれ、血を吐き出す。
魔力を操り人族たちから槍を引き抜くと馬を蹴り、剣を向ける者たちへと駆けていく。
振るった戦斧が人族の命を刈り取っていく。振るえば振るうたびに人族たちの命が血飛沫となって消えていく。
刃からは命を刈り取る感触だけが伝わってくる。
手で打つとは違う、肉を断つ感触は悪くないものだった。
その感触は拳とはまた違ったものであり、それを私は楽しむように笑みを浮かべるのだった。
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