第10話 属性魔法
「はああっ!!」
降り注ぐ氷の剣を【黒刀】の一閃で薙ぎ払う。
続けざまに両腕を振るい放つ【黒刀】をエレイナは身軽な動きで躱し、杖を突きつける。
「【雷霆】」
杖の先端から雷の槍が放たれる。
理性が動くより速く、直感的な動きで影の盾を作り出し防ぐ。
(エレイナの動きにも慣れてきたな……と)
すかさず放たれる石の砲丸を影の盾で防ぎ、背後に回り込む氷の剣を回し蹴りで破壊する。
エレイナとの訓練が始まり早6ヶ月が経過し魔法のキレも体捌きも向上している。事実、今ではエレイナの猛攻を1分近く耐えることができる。
(エレイナの攻撃の癖は大体掴んできた。それでも、キツイ事には変わらないが……!!)
引き伸ばし、三次元的な形状を取る影たちの隙間から的確に私へと飛んでくる風の刃を触れるギリギリのところで躱す。
ついで降り注ぐ雷の矢に視線を向け足元の影から屋根を作り雷の矢を受けとめ、背後に回り込んできた水の弾丸を拳で弾き落としながら足元から伸びる岩の剣が躱す。
「くうっ……!!」
しかし、完全に躱しきれず左ふくらはぎが抉られる。鱗を捲られ血と痛みを吹き出す。
痛みに足を止めた瞬間、エレイナの猛攻が降り注ぎ、私は触手を操り空から降り注ぐ攻撃を防ぎながら全方位から絶え間なく飛来する攻撃を交わしていく。
「っと……!!」
合間を縫うような動きで攻撃を躱し、自然な動作で腕を突き出し、袖口から影の矢をエレイナに向けて射出する。
地を蹴ったエレイナの胸の中心――から左に逸れた位置に矢が突き刺さり、即座に杖から雷の槍を放ち私の腹を刺し貫く。
「うっ……!?」
腹が内臓ごと焼け、地面に吸い込まれるように倒れる。降り注ぐ氷の槍は私に触れた瞬間霧散し、霞に消えていく。
「1分15秒。距離の離れた無理に攻撃に転じるのは悪手です。反撃に転じる際は確実に当てれるようになりなさい」
倒れた私を見下ろすエレイナは胸から矢を引き抜き、胸から流れる血を魔力で塞き止め防ぐ。
「はい……」
エレイナが差し出した手を掴み、立ち上がる。
足や肩から血が流れ、毒の血に触れた草は枯れていく。影から糸を作り、足の傷を塞ぐと肩の肉を抉り埋まった石の弾丸を影に落とす。
その様子を見たエレイナはため息をつき、
「しかし……半年過ぎて魔力操作の精度と速さ、体捌きや攻撃の捌き、魔法による防御技術は磨きがかかりました未だ火力が低いですね。成長はしていますが、まだ十分ではありません」
「それなら技量面を鍛えた方が良いのでは……?」
「それも良いのですし、何ならそちらのほうが貴女の気性に合っているでしょう。しかし、それでは火力勝負に確実に押し負けます。根っこが真っ直ぐ過ぎるんです、貴女は」
エレイナは血に濡れた手で私の頬に手を伸ばす。
「……そういえば、今思い出しましたけど貴女確か土の属性魔法使えましたよね?私が手解きを加えた時に使っていた筈です」
「ん、一応使えるけど基本的には使っていない。魔法の併用は難しいから」
魔法における現実干渉は魔法式と呼ばれる設計図をもって行われる。
魔法式に合わせ適切に魔力を操り、魔法を組み立てることで現実に干渉及び歪曲している。
魔法の習得難易度は魔法式の複雑さに直結しており、単純であればあるほど習得難易度が低く、逆なら高い。
(並列的な使用だと影魔法と属性魔法は相性が悪い)
影魔法の場合この魔法式が複雑、というより生得魔法だから魔法式自体この世に存在していない。影魔法を使えているのも私個人の感覚による部分が大きい。
逆に属性魔法は人族がこぞって研究し魔法式もまた簡略化されている。
使うための難易度が難しい影魔法と簡単な属性魔法、両方を使いこなすのは容易ではない。
(けど、現に火力勝負で影魔法は属性魔法に負けている以上母の懸念は間違いではない。そうなると、属性魔法の並列は必須事項なのだろう)
属性魔法は式自体が簡単で習得難易度が低い。今後のためにも属性魔法との並列使用は必須事項だろう。
「難しいだけで不可能ではないのは間違いありませんね?」
「ん、そうだが……」
「でしたら、今日から並列使用の練習をしましょう。まずは属性魔法の火力をあげるため暫く訓練中の影魔法の使用を禁じます」
「えっ――!?」
母の言葉に思考が停止した瞬間、地面から石の槍が突き出る。
石の槍を左手で受け流し、即座に属性魔法の魔法式を組み立てる。
「【地槍】」
足を通じて魔力が大地へと流し、即座に槍が突き出し再び突き出る石の槍と石の槍がぶつかり合う。
私の足元から突き出た石の槍をエレイナが繰り出した石の槍が貫き、腹を刺す。
「うぐっ!?」
「同じ魔法でも精度も威力も差がありますね。ですが、使えるのと使いこなすことは別の意味です。属性魔法を使いこなせるよう叩き込みます。安心して下さい、私も貴女に合わせて土の属性魔法しか使いません」
腹から槍が抜き取られ、傷口から血が垂れ落ちる。
腹の傷に手を当て、影の糸で縫合し終えるとエレイナは笑みを浮かべ、
「さあ次です、何度だってやりましょう。大丈夫、私は人体の限界に詳しいですから」
「ははっ……」
私は乾いた笑い声をあげ、降り注ぐ砲丸に体を叩きのめされるのだった。
―――――――――――――――――――――――
ここまで読んでくださりありがとうございます。
少しでも面白い、と感じたら♡と★をお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます