第11話 魔法の適性
子供を除き、集落の大人には役割がある。
それはエレイナも同じで、集落ただ一人の薬師としての仕事がある。
そのため、毎日を私の訓練に費やす訳にはいかない。そのような日は同年代たちに混ざり戦いの技を磨くことになっている。
「【フレイムアロー】!!」
ネクスが足を止めた私に手を向け、炎の矢を射つ。
放たれた炎の矢は一直線に私へと迫り、手刀で切り裂かれる。
「【地槍】」
即座私は足元から円錐状の岩の槍がネクスへと突き出し、ネクスは岩の槍を手にした炎の槍で両断する。
赤く熱した断面をピンボールのように跳躍しネクスへと迫ると拳を振り下ろし、続けざまに蹴りのコンビネーションを移る。
ネクスはそれら一切を躱し切り、反撃の拳を私の腹にヒットさせる。
一瞬蹌踉めく中、突き出される拳を前に掌を突き出して受けとめ笑みを浮かべ、
「【銀刃】」
魔法の名を唱えた瞬間、四本の銀のナイフが私を躱すよう弧を描く軌道で飛来する。
「うっそおっ!?」
唐突な攻撃にネクスは回避行動を取れず、四本のナイフがネクスの胸を切り裂いた。
四本の傷口から真っ赤な血を吹き出し、ネクスはそのまま地面へと倒れた。
「あっはは!やーらーれーたー!!」
口から血を吐き出しながら地面で笑うネクスに辟易としながら腰を下ろす。
「土の属性魔法、使ってみると簡単に火力が出せて悪くはない。……が、基本的に大味だな」
威力は十分。速さはそれなり。
しかし、細かい軌道の調整や攻撃範囲の調整といった細かい操作が影魔法と比べ難しく感じている。
(……いや、この場合影魔法の細かい操作に慣れたと見るべきか)
影は無形であり、だからこそ様々な形になることができる。
そうした形の変化という特性を十全に発揮するには細かい操作が出来るようにならないといけず、必要に迫らせたがために微妙な魔力操作が出来るようになった。
「んー、物質の創造はしないの?」
「しないな。というより、適性がない。そういうお前も周辺への干渉が出来ないだろ」
「確かにそうだねー」
起き上がるネクスの傷を影の糸で縫い合わせながら目を細める。
一言に属性魔法といってもその中に二つの方法がある。
一つは周辺の物質や現象に魔法で干渉し操る方法。この方法は魔力の消費が非常に少なくできる反面周辺に必要な物質や現象が無ければ使用できない。
もう一つは魔力で物質や現象そのものを作り、操る方法。どんな環境でも属性魔法を使えるが魔力の消費が大きい。
この二つには適性があり、エレイナのように二つとも使える人もいれば私やネクスのように片方の方法しか使えない人もいる。
(『属性魔法は才能が全て』。魔法の教本でそう書いてあったが、使い始めてようやく理解できた)
魔法の知識は魔法を教えてもらう際に一通り仕込まれた。
しかし、知識は実際に使わなければそれはただ脳内に溜めるだけに過ぎない。使い、真に理解することで知識は『知恵』になる。
溜めた知識を使い知恵にすることの大切さを属性魔法を使い始めてからようやくすることができた。
影の糸でネクスの傷を縫合し押し終えると再び訓練を再開する。
魔法を使用せず、敢えて肉弾戦のみに焦点を絞ったもので互いに互いの攻撃を重ねていく。
「そういえば【銀刃】――【シルバーダガー】を背後からどうやって発生させたの?」
「ああ、これは単純な話で魔法を設置したんだ」
「魔法の……設置?」
拳打と蹴撃を両腕で受けとめ、頭を縦に振る。
「言ってしまえばトラップだ。魔法式の一部を書き換えて特定の行動で発動するようにしたり魔法を地面や水辺に置いたりする技術だ。人族ではこの技術を『魔法罠』と呼んでいるらしい。私が足を止めたタイミングで足元に魔法を設置して魔法名の詠唱をすることで背後から魔法を放ったんだ」
「にゃるほどにゃるほど〜。いつも通りの魔法式を組み立てるんじゃなくて魔法式そのものを変えるのか。お母さんから教わったの?」
「そうだな。……母との訓練で嫌と言うほどこの技術を味わったよ!!」
続けざまに放つジャブの連打でネクスの体勢を崩し、腹を蹴り飛ばす。
エレイナの絶え間のない飽和攻撃のからくりは『魔法罠』の応用技術にある。
属性魔法の魔法式は同じ属性なら似たような式を書くことが多い。それらを繋ぎ合わせることで一度に複数の魔法を同時使用している。
(母は兎に角技巧派、ある種目指すべき場所ではあるのだろうな)
ネクスが地面を蹴り地面スレスレの位置から拳を振り上げる。
振り上げる拳を手の平で受け止めて掴み、引き寄せながら頭を掴むとも地面に投げつけるように叩きつけた。
「うぐっ!?」
間の抜けた声が響いたかと思えば、ネクスは白目を向いて動かなくなる。
死んではいないが見るからに気絶している。
(たく……)
気絶したネクスを担ぎ、私は広場から離れてく。
流石の私でも動けなくなった者を放置しておくのは気が引けた。
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