NNN(──────)臨時放送
@ritokitayama
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転職後の慣れない環境で疲れ果て、定時に上がりにも関わらず、帰宅後すぐに布団に飛び込んで眠りこけてしまった。次に目を覚ました時には、ベッド横のスマートディスプレイが午後10時半を示している。4時間ほど寝落ちしたようだ。不可抗力ながらも自分の行いを後悔し、働かない脳を無理やりたたき起こして、先延ばしにしていた家事をこなした。夕飯は諦める。
家事を終えた頃には、もう日付を優に超えていた。次の日も仕事だが、4時間も先に眠ってしまったので、再び眠れるはずもない。布団で横になって1時間ほど経過しても思考が冴え続ける。仕方なく、眠くなるまで何かしようと考え、テレビの放送終了を見届けることを思いつく。普段はゲームディスプレイとしてしか使っていないテレビをリモコンで操作し、番組一覧表を確認し、放送終了目前のチャンネルに切り替えた。本日の最終放送番組が終了し、いよいよテストパターンが表示される時間に、ちょっとしたワクワク感が表情に表れたその瞬間、それは起きた。
放送終了のテストパターンのカラーバーが10秒ほど流れた後、画面が切り替わる。沈痛な旋律を奏でるクラシックの音が部屋に響き渡り、深夜の静寂を切り裂くように始まった。薄暗い処理場の遠景を背景に、スタッフロールのように流れていく氏名。ナレーターが無機質な声で淡々と氏名を読み上げる。せりあがっていく氏名の中に、それがあった。
「滝川雅也、25歳」
時間つぶしに見ている都市伝説の動画で見たことがある。読み上げられるリストに、自分と同姓同名であり、同い年の人物が載っている。何かの間違いだ。心臓が早鐘のように鳴り、全身に冷たい汗が流れた。すべての氏名が読み上げられた後、最後にテロップにはこう書かれていた。
「明日お迎えに上がります」
画面から目をそらしたいのに、視線は放送に釘付けだった。氏名のレアリティはそれほど高くない。もしかしたら全国各地の同い年の滝川雅也さんが対象かもしれない。そもそも、NNN臨時放送なんて都市伝説。実際にテレビで放送されるわけがないじゃないか!しかし、その冷静な思考は恐怖に押し流されていく。部屋の空気が重くなり、窓の外から異様な静けさが漂ってくる。周囲の影がゆっくりと伸び、蠢くように見えた。まるで何かがこちらを見つめているような感覚に襲われる。全身が震え、冷や汗が背中を伝う。逃げ場のない恐怖に包まれ、現実が徐々に歪んでいく。この放送がただの悪夢であることを願わずにはいられなかった。
震える手でスマホを掴み、一秒でも早く親友の田中に連絡が届くようにと、何度も何度も着信履歴から電話をかける。深夜真っただ中の時間に電話をかけるのは仕事か親族の身に何かあった時だ。それ以外の用件であれば、普通の社会人は熟睡して起きないか、不機嫌を露わにして怒りをぶつけるだろう。着信履歴の田中の項目に次で5回目の着信が入る頃、あいつは電話に出た。
「滝川?わっりぃ。うんこしてたわ」
定職にもつかず、ふらふらしているちゃらんぽらんな田中だ。昼夜逆転の生活をしていて、こんな非常識な時間に電話をかけても、特に態度が変わることなく話を聞いてくれる。こちらが慌てている様子でも、平常通りに接してくるが。「つか滝川がこんな時間に電話するとか珍しいな?今転職したばかりだろ?なんだぁ?よっぽど新しい会社がブラックだったのか?」
「いや、ち……ちちち違う!」
目に焼き付いた映像が脳裏に勝手に浮かび、動揺が消えず、何度も言葉を噛んでしまう。それでも、一刻も早く伝えないと、俺の命の制限時間は一刻一刻と削れていく。一方的に話を続けようとする田中を制止し、部屋中に力み裏返った声を響かせながら、要件を伝える。
「え……NNN臨時放送に殺されるッ!!!」
「田中!力を貸してくれぇ!!!」
NNN(──────)臨時放送 @ritokitayama
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