第4話 美しくなりたい

 

 無料版のアプリを起動した。


 アプリ側が勝手に選択した電話番号につながった。相手の電話番号は表示されない。


 相手は電話をしていない。盗聴が始まった。


 全く知らない他人の会話。胸が高鳴る。


 ・・・・・・・・・・・・・


「うああー-」


「どうしたんですか、先生?」


「た、たしかあなたは、鼻を高くして、鼻筋を通して欲しいと言ってましたね」


「その通りです。大丈夫でしょうか?」


「大丈夫は、ダイジョーブなんだけど、あまりお勧めは出来ないなー」


「どうしてですか?」


 ・・・・沈黙。


「確認して置きたいんだけど、あなたは美しくなりたいんですか、それとも、お顔の中央のオハナだけを目立たせたいのですか?」


「もちろん、奇麗になりたいです」


 ・・・・沈黙。


 パチ、パチ。

 パソコンをいじる音。


「これが、今のあなたのお顔ですね」


「はい」


「ここに、あなたの要望したオハナを乗っけてみましょう」


 ・・・・沈黙。


「このお顔に成りたいですか?」


「いいえ、成りたくありません」


 ・・・・沈黙。


「どこを直せば、奇麗になれますか?」


 ・・・・沈黙。


「持ち帰って、検討させて貰えませんか?」


「持ち帰るって、ここ先生のクリニックですよね?」


 ・・・・沈黙。


 パチ、パチ。

 パソコンをいじる音。


「中央にあるのが、あなたのお顔です。下に、目、鼻、口、耳のパーツがあります。どれか一つだけ選んで、置き換えて見て下さい」


「ひとつだけですか?」


「1パーツ、30万ですが、ご予算は大丈夫ですか?」


 ・・・・沈黙。


「とりあえず、目だけやってみます」


「目も、いろんな種類がありますので、お好きなのを選んで、置いてみてください」


 ・・・・沈黙。


「先生、出来ました」


 ・・・・沈黙。


「・・このお顔に成りたいですか?」


「いいえ、成りたくありません」


 ・・・・沈黙。


「ひとつ、アドバイスですが、美というのはバランスです。各パーツがしょうもなくても、バランスが取れていると、あら不思議、美しく見えるんですよ」


「なるほど。いいヒントをありがとうございます」


 ・・・・沈黙。


「先生、思い切って、全部のパーツを変えてみました」


 ・・・・沈黙。


「ラストチャンスです」


「はい」


「このお顔に成りたいですか?」


「いいえ、成りたくありません」


 ・・・・沈黙。


「先生。持ち帰って、検討させて下さい」


「そうですね。大切な年金ですから、有意義に使って下さい」


 ・・・・・・・・・・・


 私は、アプリを切った。


「この先生なら、私を奇麗にしてくれるかもしれない・・・」


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