第3話 パパ活


 無料版のアプリを起動した。


 アプリ側が勝手に選択した電話番号につながった。相手の電話番号は表示されない。


 全く知らない他人の会話。胸が高鳴る。


 ・・・・・・・・・・・・・・


「ユカリ、あんたココミに誘われてるってホント?」


「うん。今週の土曜日にボランティアに参加しないかって?」


「ボランティア?」


「恵まれない人のお世話をするらしいの。日給2万円出るんだって・・」


「それって、パパ活でしょ!」


「何、パパ活って?」


「ユカリ、あんたって、ホントに世間知らずだよね。援交だよ、エンコウ!」


「エンコウって、なに?」


「あんた、成績は良いのに、世の中生きてないでしょ!」


「つまり・・・?」


「カラダをウルのよ」


「うそー--!」


 ・・・・沈黙。


「カッコイイ人、選べるの?」


「あんたの頭、ウンコつまってるでしょ!」


「えっ」


「カッコイイ奴は、お金払わなくても出来るの!」


「と、いう事は・・?」


「じじい、おっさん、デブ、禿げ、教頭、校長・・・」


「やだ。教頭先生も校長先生もヤダ!」


「だれならイーのよ」


「サッカー部のキャプテンのスギタ君とかなら・・・」


「馬鹿、なんでこんなとこで、コクってんのよ」


「ナオちゃん、私の代わりに伝えてくれない?」


「フザンケンなよ。なんで私がムダダマの為に恥かかなきゃなんないのよ!」


「ムダダマ・・・?」


 ・・・・沈黙。


「ナオちゃん、私のことそんな風に見てたんだ・・」


「・・・そ、そうじゃないけど・・・さ・・」


「じゃあ、なに?」


「スギタ君は別格。ライバルが多すぎるってことだよ」


「・・・・」


「あくまでもウワサだけどさ、1年、2年、3年の女子のほぼ半数が、狙ってるらしいよ・・」


「そんなに人気があったんだ、知らなかった・・」


「そんなん、普通に空気吸ってりゃ気付くでしょ」


 ・・・・沈黙。


「バスケのノムラ君でガマンしようかな・・・」


「それって、主語がちがってるでしょ!」


「ギリギリ我慢して、野球部のタナカくんなら、許してくれる?」


「そりゃあ、私なら許してあげるけど、あんたが言った全員、我が校のスターだからね。イチオー」


 ・・・・沈黙。


「パパカツ、しちゃおうーかなー」


「ユカリ、ヤケを起こしたらダメだよ」


 ・・・・沈黙。


「ちょっと、小耳に挟んだんだけどさ・・・」


「なに・・・」


「A組の委員長のナガトモ君。ユカリのこと命らしいよ」


 ・・・・沈黙。


「ユカリはどうなの?」


「・・・」


「ナガトモ君、頭も良いし、家も金持ちだし・・・」


 ・・・・沈黙。


「パパカツ、しちゃおうーかなー」


 ・・・・・・・・・・・


 僕は、アプリを切った。


 くやしさで、涙が流れ落ちる。


 サイトウユカリのスマホに繋がったのは、タダの偶然だった。


 そう僕の名前はナガトモ。会話の最後に出て来た男。


 パパ活に負けた、最弱の高校生だ。


 滑り止めに選んだ彼女からの酷い仕打ち。


 でも、自殺はしません。この屈辱を糧に、これからは本命を狙います。


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