第2話 テロリストの会話
このアプリは無料のお試し版です。
不特定のスマホの電源を自由にオン・オフ出来ます。
電話機能をコントロールし、相手に知られずに会話を盗聴することが出来ます。
有料版では、指定した電話番号へのアクセスが可能ですが、無料版では出来ません。
有料版をご希望の方は、個人情報の提示が必要となります。
・・・・・・・・・・
僕は、千葉のとある都市に住んでいる高校生。
家は駅からかなり離れた場所にある。
閑静な住宅地だと母さんが知り合いに電話してるのを聞いた事がある。でも僕にはどう見ても寂れた住宅地にしか見えない。その証拠に2階の僕の部屋からは、一面の畑と、道路を隔てて4階建てのアパートが2棟見えるだけ・・。
高校生活が不満だらけな事は、こんなアプリに興味を持っている事で、すでにバレているだろう。
生まれついての臆病者。
ときめく恋も、クラスの仲間たちとの華麗な冒険も、全て僕の空想の産物。
憧れの大学生活も、きっとこの延長線上にしか存在しないことを、ホボホボ確信している。
見切っちまったな、僕のお粗末な未来。
それがどうした。それでも僕のささやかな抵抗は続く・・・。
・・・・・・・・・・・
無料版のアプリを起動した。
アプリ側が勝手に選択した電話番号につながった。相手の電話番号は表示されない。
全く知らない他人の会話。胸が高鳴る。
・・・・・・・・・・・
「要求のあった部品は届いたか?」
「はい。昼に宅配便で届きました」
「完成はいつになる?」
「今週中になんとかします」
「完成品が5組あった筈だな」
「それを含めて10組が完成した時点で、作戦を実行します」
「分かった。作戦実行後、九州にでも逃げろ」
「わかりました。熊本のメンバーに連絡してみます」
「サリンの在庫はすべて使い切れるな?」
「はい。ただ、一部はこのアパートの連中の殺害に使用します」
「どうやるつもりだ?」
「逃亡当日の深夜に、郵便受けから放り込みます」
「証拠品はすべて消去しろよ」
「大丈夫です。抜かりはありません」
・・・・・。
「マズイ。たった今、公安の内通者からの情報が入った」
「なんですか?」
「特別警察がそちらに向かっている。あと15分で到着予定だ」
「持ち出す時間がありません」
「すべて破壊して逃げろ。8分以内だ」
「サリンはどうしましょう」
「すべて爆破しろ。急げ」
・・・・通話が切れた。
・・・・・・・・・・・・・・・・
衝撃の内容に、僕はアプリを切った。
現実の出来事なのか・・・?。
僕は、アプリの作り出した嘘だと思った。
ただ、臆病者の僕の胸は、ドクドクと激しく高鳴っている。
気を落ちつけようと、スマホをいじって、お気に入りの曲を探す。
窓の向こうには、のんびりとした世界。
道路を行きかう車。歩道を歩く小学生。アパートの上には数羽のカラス。
・・・・・・・・・・
ドッカーーーン!
僕の部屋から見えるアパートの3階の角部屋で爆発があった。
ベランダのガラスの破片が、白煙と共に飛び散った。
ドッカーーーン!
2回目の爆発があった。
アパートの屋根にいたカラスが、爆発と共に飛び立ったけれど、途中で固まる様な姿で地面に落ちた。
爆音に驚いて同じアパートの4階の部屋から顔を出した老人が、苦しそうな顔で倒れ込んだ。
道路を歩いていた小学生や、郵便局の配達員の男性が、同じ様に首を掻きむしる様にして倒れた。
「サリンガス・・?」
アパートから僕の家まで、50メートル以上ある。
僕は、窓ガラスを閉めて、部屋を飛び出した。
急な階段を駆け下りる。
台所で母親が、洗い物をしていた。
窓が開いている。
僕は、強引に窓を閉めた。
驚く母親の顔。
「健一、どうしたの」
「いいから、窓を開けちゃ絶対ダメだよ!」
リビングのガラスドアが開いている。
爆発音を聞いたのだろう、父親が庭に出て、爆発のあったアパートを見ていた。
「お父さん。家に戻って」
驚く父親を乱暴に引っ張って、家の中に連れ戻す。
「健一、どうしたんだ?」
僕は、ガラスのドアを閉めた。
カーテンを閉めようとした時、鎖につながれていた老犬のボスが泡を吹いて倒れた。
目を見開いて見つめる両親。
「サリンガスだよ。濡れタオルで顔を覆って!」
・・・・・・・・・・・・
僕は、両親を救った英雄なのか?
それとも、のちのちの厄介を家に持ち込んだ、ただのバカ息子なのだろうか?
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