살고 싶다.

ぱんつ07

メリットもデメリットもない

僕は病弱で体も男の割には小さい方だった。

小さい頃は入院生活が多くて学校で学ぶ知識もそこまでなかった。

暇つぶしに画用紙と鉛筆をもらっても、院内から見る景色は何も変わらず描き飽きることばかり。

高校生になってからは学校へ行くことができたものの、体育は常に見学。

授業もついていけずに中途退学した。

中卒でも就職できる会社に就いたが、パワハラを受けて結局退職をした。

それでも頑張って生きていく中で僕に彼女ができた。

彼女は仕事が忙しいから話せる時間が限られていたけど、僕は彼女と話せることや会える日を楽しみに頑張れた。

頑張れたからこそ何とか仕事に応募し面接に行ったが、うまくアピールができずに落ちることが多かった。

だが必死に探してやっと採用された職場が片道3時間もかかる距離にあった。

彼女と同棲を考えてみたが、引っ越すほどの余裕がないくらいに貯金は減っていたため我慢して通勤していた。

要領の悪い僕は毎日説教を受けて落ち込んで帰宅する日々を過ごしてきた。

疲れた心を癒すために彼女との通話を楽しみにして、毎日を乗り越えてきた。

彼女との電話で仕事であった出来事を話すうちに、僕は彼女から振られてしまった。

「頑張っているのは分かっているんだけどね。でも、毎回つらい話されると、慰めてるのに元気になってくれないのは、こっちもつらくなるの。」

それが理由で別れてしまった。

彼女との将来の為に頑張ってきたのに、その生き甲斐を失ってしまった。


僕は病弱で体も男の割には小さい方で、知識や経験、趣味、やりがいがあるわけでもなく、引っ込み思案で上手に感情表現ができない上、現在は生活保護を受けて生きている。

そんな僕が生きていく意味ってあるのだろうか。

SNSやニュースアプリでよく見る。

体が小さいスポーツ選手が優勝したり、難病と闘い今は幸せな暮らしをしている人、中卒の夫婦が自営業をして早10年経ってもお店は潰れず頑張っていたり、社長になれた人のエッセイ漫画が何万部突破したとか、街中を歩くと電話しながら早歩きするサラリーマンの顔は暗いのにどこかイキイキとしていたり。

みんな僕と同じように抱えているのに僕以上に頑張っていて成功出来て、偉いな、すごいな、僕には何もできないやって、劣等感に圧し潰されてしまう。

上手くいかない。

羨ましいな。

僕も成功したいな。

でも、生きるのって疲れたな。

今死にたいとは思うけど死なないのは幸せになれることに期待しているからかな。

期待したって無意味なのに。

疲れたな。


今日もSNSでなんとなく僕の気持ちを載せてみた。

僕は友達がいない。

話せる友達がリアルどころかネット上にすらいない。

このSNSアプリは僕の感情のゴミ箱に過ぎない。

だから僕は投稿するものの殆どはポエムみたいなのばかりだった、見てくれる人なんか誰もいないから。

しかし、ポエムといったものの主に四字熟語やことわざを呟くことが多かった。

あんな短い言葉で深い意味を持っているのがすごく魅力に見えて、僕もそういった存在になりたいなと妄想していた。

今の僕は空っぽすぎて、幽霊みたいな存在でしかないけど。

なんとなくベッドの上で天井を見上げていたら、携帯から聞き慣れない通知音が部屋中に鳴り響いた。

SNSに投稿したものに誰かが反応してくれたらしい。

恐る恐るSNSアプリを起動して確認してみると、読めない言葉でメッセージが来ていた。

「わからない…何語かすらわからない。翻訳使ってみるか。」

韓国人からのメッセージのようで、こう書かれていた。

『意味を教えて欲しいです。』

「そんなの、調べたらわかるだろ…。」

僕は何も返さず日課のポエムを三つほど投稿してそのまま寝てしまった。

次の朝に携帯を見てみると、5件ほどのメッセージが来ていた。

昨日メッセージをしてくれた韓国人からだった。

一つ一つの投稿を最新から順に見ているのだろうか。

僕は英語すら読めなくて自信ないのに韓国語なんかもっと不安で話したいなんて思えない。

また僕はそのメッセージを無視して呼吸をするだけの動かぬ肉塊となった。

が、次の日の朝もまた来ていたが、思ったよりメッセージがしつこいものだから読むだけ読むかと思い動く肉塊へ進化した。

『はじめまして。日本語を勉強しているのですが、分からないところがあるので質問します。』

『日本のことわざに興味があるのですが、それはどういった意味を持っていますか。』

『辞書に書いていないです。読み方が分からないです。教えてください。』

『好きな単語があったので、使い方を教えてください。』

『日本語をもっと知りたいです。』

日本語はそういう学校で学んでくれと心の中でツッコんだ。

でも、翻訳し終えて不思議と時間が経つのが早く感じた。

まだこれだけで10分ほどしか経っていないけど。

試しに返信してみようか。

でも、間違っていたら恥ずかしいし怒られたくないし困らせてしまうからやめておこう。

携帯の画面を閉じて、すぐに目を閉じた。

次の日もその次の日もまた次の日も、毎朝韓国人から来るメッセージの通知音は日常へ溶け込もうとしていた。


意外にも韓国人からのメッセージは毎日来るようになった。

ここまで1か月ほど経つというのに、さすがの僕も無視していられない。

何とかネットの翻訳機能を使って返信しようと思う。

でもなんて返したらいいのかな。

挨拶だけで済ましたいが質問に答えないと怒られそうだし、求めている答えを出せる自信はないし、これでお礼も何もメッセージが返ってこなかったら。

不安のあまりにトイレの中でもやもやと考えながら、日本語でなんとか文字を打ってみる。

「えっと、これで翻訳ボタンを。」

押すと最近見慣れた読めない文字が出てきた。

「この文をコピーして、貼り付けて、…って、本当に僕はいいのだろうか、ダメだ、いや、いいんだよな、ここまできて、ここで引き返すには、でも、ああ、間違っていたら、うう、ごめんなさい。」

トイレの中で覚悟して、人生最大級の勇気を振り絞って返信ボタンを押してみた。

画面に触れた指は話した瞬間から震え始めた。

暫くはトイレから出ることができなかった。

ふと目を開けると、僕はまだトイレの中にいたようだ。

どうやらトイレの中で少し寝てしまったらしい。

とりあえずトイレから出て携帯を確認する。

『ありがとうございます。』

返信した数だけお礼のメッセージが来ていた。

少し安心と達成感で嬉しい気持ちになった。

嬉しいというよりか、何かが満たされた気分になった。

『韓国のことわざに興味ありますか?』

お礼の文と違う文字列を翻訳したら、そう書かれていて少し気になってしまった。

韓国、そもそも海外の文化や地域、事件や流行りなどテレビのニュースでしか触れてこなかったから、聞かれるまでは興味なかった。

ことわざは好きだ。

僕の知らないことわざがここで知れるかもしれないという、好奇心で返信してしまった。

あ、ひらがなで興味ありますって打ってしまった。

相手も翻訳してくれたら嬉しいけど、これで返信来なかったら。

いや、考えるのはやめよう。

久しぶりに頭を使い、普段より長く液晶を覗いてにらめっこしてしまったから、疲れてしまった。

僕はそのまま寝ることにした。

明日が楽しみに思える夢の中は心地が良かった。


『쇠뿔도 단김에 빼랬다(ウシの門も息に貫けという)があります。』

韓国人からの返信で韓国語と混じって安心感のある見慣れた文字が見えた。

ウシの門も息に貫けという?

どういう意味があるのだろうか。

メッセージの韓国語の部分をコピーしてネットで調べてみた。

牛の角も一気に抜けと言う?

変換ミスをしたのか。

きっと頑張って打ってくれたのだろう。

こんな僕と話す事に真剣になって返してくれているんだって思うと素直に嬉しい。

意味は『あることをしようと思ったら迷わずすぐに行動に移せという意味。』らしい。

僕には何か刺さる言葉だなと感じた、いい意味で。

励まされている気分になっているのは、自意識過剰かな。

でも嫌な気持ちは湧かない。

代わりに興味が湧いてきた。

こちらも試しに翻訳機能を使って返信してみるか。

「他にもことわざを教えてくださいって、翻訳機能だと『다른 속담에 대해 말씀해 주세요』…読み方本当にわからない。合っているのかな。大丈夫だよね、翻訳したんだから、ああ、でも明日返ってこなかったら、いや、まさかね、大丈夫だよ、多分、ああ、期待してしまったら、ダメだダメだ、でも、楽しくなってるから、いやいやいや、楽しませたこの人が悪い…違う、楽しませてくれているのかもしれないし、こんなバカな僕の為にわざわざこの人は時間使ってるんだから、僕は何かを言う立場じゃないんだ、でも、返信、したい、どうしよう、押すか、返信ボタンを押すか、押す、押したら、うう、どうしよう、ああ、ダメだ。」

指が震え始めてしまった。

神様、どうか僕に勇気をください…。

そんな言葉は届かずベッドの上で力が抜けてしまったことにより、携帯が手から離れ落ちてしまった。

ゴツンと重い音が鳴ったが、まるで僕のしんどさを代わりに表現してくれているように聞こえた。

「割れてないかな、大丈b…。」

恐る恐る拾って画面の表面を確認した。

割れていなかったが画面の奥は大丈夫ではなかった。

滑り落ちた時、どこかしらの指が運悪く返信ボタンに触れてしまったようで、画面の上に返信しましたという通知バーが表示されていた。

「僕は、ああ、僕、ど、どうしよう、今取り消してもいやできないもう完了って、もう、これは、これ、ああ、もう、ああ、ああ…。」

返信内容に間違いがないかの確認をまだ最後までしていないのに送ってしまった、そこに後悔と不安で今殺されそうになっている。


言葉にならない悲痛の声を上げること体感10時間以上。

夜が明け、久しぶりに日の出を見てしまった。

まぶしい、きれい。

言葉のボキャブラリーのなさに泣きそうになる。

そもそも丑三つ時に返信考えているから頭が回らなくなるんだよ。

僕の大馬鹿者。

かれこれ2、3時間は懺悔タイムが入っていたのか。

はは、久しぶりの深夜テンションで何もかもどうでもよくなってしまった。

何かこう身体を動かしたい気持ちとベッドに埋もれてそのまま眠りたいの真ん中でうろうろしている状態だ。

ただ日の一筋の光をぼーっと見ていたら、通知音が鳴りだした。

『ありがとうございます。ワタシもたくさん教えたいです。』

そう書かれたメッセージだった。

あの韓国人が、日本語で頑張ってお話しようとしてくれているのではと期待した。

なら僕も頑張らないと。


改めて何度も言うが、僕は病弱で体も男の割には小さい方だ。


気付いたら入院していた。


しばらく外に出る機会もなかったせいで筋力はかなり衰え、食事もまともに取らずでかなり容態は最悪な状態までに陥ってしまったようで。

薬の配達員がインターホンを鳴らしても僕が出ないことを心配して、家の中に入ってみたら倒れていたそうな。

持病は悪化してしまったらしく、余命宣告ではないがこの生活が続けば長くは生きられないと言われてしまった。

悔しいことに、今までは「どうぞ、いつでも死んでくださいな。僕の体。」なんて思っていたのに、あの韓国人のせいで未練しか残りそうにない。

韓国人との交流を深めていったら韓国以外のことわざが知れるかもって、生き甲斐を見つけたのに。


生き甲斐。


ああ、そうか。

僕が死にたくて仕方がなかった日々を、あの韓国人をきっかけに楽しくできたんだ。

鬱陶しいなって思っていた最初の1か月、長かったのに短くて、でもやっぱり長かった。

きっと僕に興味のない話題だったら今もずっと無視していたんだろうな。

まだ無視していたら、見慣れた白い部屋の中で暮らさずに済んだのかな。

でも、自分の部屋から見た日の出、僕の部屋から日の出が見えるってこと自体が初めてだった。


きっかけは些細な事だった。

韓国人からたまたまメッセージが来た。

ただ、それだけだった。


きっかけはどうあれ、そこから繋がる生き甲斐って存在するんだ。

僕は生きたってしょうがないことは確かだと思う。

死んでも道に生えてる雑草の様に素通りされてしまう人生なのは分かっている。

でも、そんな僕という雑草を珍しそうに見てくれたのが韓国人だった。

こんな僕でも単なる暇つぶしになっても、都合の良い人であっても、見てくれる人はいたんだって今実感した。

思う。

こんなに弱い身体の僕を病院の先生は何かあれば見てくれる。

死んでもいいって僕の気持ちを無視して色々教えてくれる。

きっと仕事だから治さなくちゃ、診なくちゃってなっているだけだと思う。

それでも今、そう『今』僕を見てくれているのは先生だ。

どうでも良かったら僕自身病院に行かなければいい話だ。

なのに、今回は運ばれたとはいえ死ななかったのは、韓国人から与えられた生き甲斐のせいなのかもしれない。

生きていないとできない何かを見つけたから、僕は今死ぬには惜しいと思っているのかもしれない。

その生き甲斐を満足してしまったら。

それは考えるのをやめよう。

きっかけって、こうも予定通り訪れるものではないっぽい。

こういうのをみんなは運命だとか奇跡だとか言うのかな。




退院後、ずっと韓国人とお話をしている。

個人でのやり取りを重ねていく中、やっとの思いで日本に来れることを教えてくれた。

その時に日本語も多少は話せるようになったから実際に会ってお話してみたいと、言われた時は心臓が止まるかと思ってしまった。

僕は翻訳に頼ってばかりで何も喋れないし読み書きもできないってことを伝えたら、私がいるから何も怖くないと励まされて甘えたくなってしまった。

試しに会ってみるのはありかな。

もしかしたらこれで、無視するのも実際に会ってみるのも、運命の分かれ道ってことになるのかな。

生き甲斐って、その場で起こったイベントに対応することなのかな。

自分にとって楽しくて幸せで、でも実際触れてみたら悪い事ばかりで、それでもそれがきっかけで次に進む分岐が増える。

イベントに触れたことで、自分の中の新しいミッションが追加されて、そのタスクをこなしていく。

無くなれば、また何かしらのきっかけを手に入れて行動してミッションを追加していく。

これがリアル人生ゲームなのかな。

計画を立てて行動するより、僕はゲーム感覚でその場で行動して、それに合ったミッションをこなしていくのがいいのかもしれない。

ああ、自分の為に生きるのが嫌だったけど、この世界では僕を操作しているのは僕自身なんだ、他の誰でもない。

僕はミッションを消化するために生きている。

ゲームが好きな僕にとって、こういう風に人生を置き換えてみるとまだ生きていたいと思えてくる。

自分自身を不幸にしたって幸せにしたって、人生のセーブデータは一つしかないせいで巻き戻すことはできない。

イベントは多い方が楽しい。

韓国人と会ってみたい。

緊張はするけど、会った事によってどんなきっかけが生まれるのか楽しみで仕方がない。


僕は恵まれている。

優れていないのに。

行動しないと何も始まらない。

僕はそういうゲームキャラクターなんだ。

プレイヤーは僕で、キャラクターも僕自身なんだ。

案外、リアル人生ゲームっていうのは楽しいものかもしれない。

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