第9話 食事タイム

 ドブシュウッ!


 太い石の槍がピンクの毛が生えたオークの胸を貫いた。オークはそのまま体を二度、三度と震わせると、バタンと後ろに倒れた。


 倒した。


 僕の頭の上では、ハニワがダンスしている気配がした。もう大丈夫のようだ。


「ありがとう」


 僕は手を伸ばして頭の上のハニワを撫でると、ハニワのダンスが加速した。喜んでいるのかな?


<しかし、オーク一体だけとは珍しいですね。はぐれオークでしょうか?>

<そうじゃない? 他にモンスターの気配はないし>

「じゃあ、右耳回収しちゃうね」


 僕は腰のナイフを抜くと、オークの右耳を削ぎ落す。すると、オークの耳の切り口から煙が出た。火の精霊が血で汚れないように燃やしてくれたのだ。


「ありがとう」

<クア~>


 火の精霊であるトカゲの頭を撫でると、トカゲは目を閉じて気持ちよさそうに鳴いた。


<リュカ、こちらにどうぞ>

<ん……>

「うん」


 振り返ると、シーネとノアの間に黒い闇が浮いていた。僕もよくわからないけど、この中に荷物をしまっておけるらしい。もう僕の大きなリュックサックもしまってある。すごく便利な魔法だ。


「ありがとう、二人とも」


 僕は黒い闇の中にオークの耳をしまうと、闇はパッと消えてしまう。不思議な魔法だね。シーネとノアの二人が協力しないとできない魔法らしいし、実は僕の考えているよりすごい魔法なのかもしれない。シーネが人前では使わなかった魔法だ。なにか理由があるのだろう。


<わたくしたちは撫でてはくれないのですか?>

「え? 撫でていいの?」


 火の精霊は見た目がトカゲだし、ペットみたいな感じで撫でることができるけど、シーネもノアもお人形サイズとはいえ綺麗な女の子だし、なんだか気後れしてしまう。


<よろしいですよ。どうぞ存分に触ってください>

<ん……。撫でる……>

「じゃあ……」


 僕はシーネとノアの頭を左右の人差し指で丁寧に撫でる。二人は気持ちよさそうに目を閉じていた。


<もー! あたしも撫でてー!>

「え? でも、もう手は埋まっちゃってるし……」

<じゃあチューでいいよ!>

「ちゅ、チュー!?」


 チューってキスのことだよね!? え!? え!?


 バシンッ!!


<へぶっ!?>


 僕が混乱していると、いつの間にか移動していたシーネとノアにジルが叩き落とされていた。


 しかも、地面に墜落したジルをハニワとトカゲと水のムチがベシベシと叩いている。追撃まで入っちゃったよ……。


<バカなこと言ってないで行きますよ>

<ん……>

<あたしの扱いひどくない!?>

<あなたがバカなことを言うからです>

<ん……!>

「あはは……」


 精霊たちの言い争いを聞いて、僕は苦笑いを浮かべながら道なりに歩き出した。


 そんな僕たちを道行く人々が不思議そうに見ていた。



 ◇



<リュカ、そろそろ昼食の時間ではないですか?>


 お日様が真上に差しかかった頃、シーネの一言で僕たちは道の脇で昼食を取ることにした。


 まずは精霊たちのために名前も知らない緑色の果物をこの時のために買った果物ナイフで皮を剝いていく。精霊たちはその見た目通り少食だ。たぶん四分の一くらいでたりるかな?


<ありがとうございます、リュカ。リュカも好きなものを食べてください>

「うん!」


 僕はシーネとノアが創ってくれた闇の中に手を伸ばすと、屋台で買ったご飯を取り出した。こういうのは日持ちしないから早めに食べないとね。


「あれ、まだ温かい……?」


 取り出したホットドッグは、まだかすかに湯気を上げていた。ホットドッグは朝に街で買って、そして今は昼だ。普通ならとっくに冷めてるはずなのに、僕の手の中には確かに温もりを伝えてくるホットドッグがある。


 どうなってるんだろう?


<リュカ、この中にいれたものは時間の流れが止まるのです>


 きっと僕が不思議そうにホットドッグを見ていたからだろう。シーネが教えてくれた。


「時間の流れが止まるってどういうこと?」

<温かいものは温かいまま。冷たいものは冷たいまま。そして腐ることもありません>

「すごい! だからシーネはすぐ食べられるものを選んでくれたんだね?」

<はい。しばらくは急いだ方がいいので。食事も出来合いのものの方が時間をかけずに済みますから>

「なるほど」


 シーネはすごいなぁ。いろんなことを知ってるし、僕を導いてくれる。


<わたくし自身は料理というものに少し興味があるのですけど、それもバダンテール伯爵領を出るまでお預けですね。伯爵領を出れば、ひとまずは安心してもいいと思います>

<あたしも料理してみたーい!>

<ん……!>

<クア!>


 僕の足元ではハニワが両手を上げてアピールして、宙に浮いている水の精霊も水で器用に手を作って上げていた。


「え? みんな料理してみたいの?」


 なんだか意外だなぁ。あれかな? 初めて食事をしたから、料理にも興味が出てきたとか?


<ダーリンには、あたしの愛情たっぷりの料理食べさせてあげるね!>

「え!?」


 もしかして、みんな僕のために料理してくれようとしているの!?


<ジルがちゃんと人の食べられるものを作れるでしょうか?>

<それはシーネも同じじゃないの?>

「ほらほらケンカしないで。僕はみんなの気持ちだけで嬉しいから」

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