第6話 パンツ、パンツです!

 俺はどこにでもいるような冒険者をやっている者だ。クエストを終えて今日は休み。冒険者ギルドでゆっくり酒でも飲もうと思ったのだが……。


「ブフーッ!?」


 そんな俺は今、口に含んだ酒を盛大に噴き出していた。


 なんと、今まで奇行ばっかりすると有名だった小汚い奴隷が、短時間のうちに信じられないくらいの数のゴブリンを討伐してきたというのだ。


 普通ならそんな話は信じないが、今回はちゃんと討伐の証であるゴブリンの右耳付きだ。嘘じゃねえのが嫌でもわかる。


 それでも俺は信じきれなくて、奴隷に近づいて麻袋の中身を確認したのだが、そこにはギッシリとゴブリンの右耳が詰まっていた。しかも、袋が汚れないようにか、ゴブリンの右耳の切り口が焼かれているオマケ付きだ。


 信じられねえ……。


「おい、奴隷! お前どんな手品使いやがった?」

「え?」


 振り向いた奴隷は、何を言われたのかわからないみたいな顔をしていた。


「あれか? 『虹の翼』の連中で手あたり次第狩ったのか?」


 ゴブリンはそんなに強いモンスターじゃねえ。全員が精霊と契約してる『虹の翼』の連中なら楽に狩れるだろう。だが、狩るのは簡単だろうが、見つけるのは難しいはずだが……。


「あの、今日は僕一人で……。それと、僕はもう奴隷じゃないんです」

「はあ!?」


 よく見れば、奴隷の首には奴隷の証である首輪が無かった。いや、奴隷から解放されたってんならそりゃよかったな。だが、一人だってんならこの量のゴブリンを狩るのは無理があるだろ。


 どうなってやがる?


「あの、僕一人というのは違いました」

「なんだ? 新しくパーティでも組んだのか?」

「いえ、精霊たちに手伝ってもらったんです」

「はえ……?」


 精霊たち……? まさか!?


「お前も精霊と契約してるのかよ!?」

「はい」


 どうなってるんだよ!? 精霊と契約できる奴なんて、ほんの一握りのはずだぞ? そのはずなのに、この街では領主様とその奥様、その息子や娘とか、精霊と契約している奴が多すぎだろ! 普通は精霊と契約できたってだけで一代限りの貴族になれるくらいの偉業だぞ!?


 本当にどうなってるんだよ!?


「今あいつ、精霊と契約してるって……」

「マジかよ!?」

「ほら吹いてるんじゃねえか?

「でも、あのゴブリンの右耳の量は……」

「マジかー……。俺も精霊と契約してー!」

「精霊様の御心はわからん……」


 背後で冒険者どもが騒いでるのが聞こえた。そうだよな。普通はそんな反応だ。それだけ精霊と契約するってのは偉業なんだ。


 ん? 今こいつ、一人って言ってたよな?


「お前、名前はあるのか?」

「リュカって言います」

「じゃあリュカ、俺のパーティに入らねえか?」

「え!?」


 相手がゴブリンとはいえ、これだけの数を倒せるのは尋常じゃねえ。こいつは凄腕の精霊使いで、しかもソロだ。元奴隷だろうが構うもんか。こいつを味方に付ければ、俺たちのパーティは飛躍する!


「ズリーぞてめえ!」

「おい、リュカって言ったか? そいつよりも俺のパーティに入れよ! 強い精霊使いは歓迎するぜ!」

「お前らは黙ってろ! 今はオレが交渉してるんだ!」

「えっと……」


 リュカが申し訳なさそうに眉を下げた。


「僕、これから街を出なくちゃいけなくて……。誘ってくれるのは嬉しいですけど、ごめんなさい!」


 ダメかぁ。



 ◇



<リュカモテモテだったねー!>

「うん……」


 あれからいろんな冒険者の人からパーティに誘われて断るのがたいへんだったよ。


 なぜかジルは機嫌よさそうに僕の顔の前でダンスしながら空を飛んでいた。フェアリーのような見た目のジルのアクロバティックなダンスはとても綺麗だ。でも……。


「ぁ…………」


 ジルは短いスカートの若葉色のドレスを着ているんだけど、その……。見えちゃってる。これは指摘した方がいいのかな? でも、ジルも女の子だし、男の僕が指摘したらかわいそうかもしれない。僕は助けを求めるように僕の肩に止まっているシーネに視線を送った。


<ジル、はしたないマネはおやめなさいな>

<あたしのダンスのどこがはしたないってのよ!>

<あなたの下着がリュカにも丸見えです。痴女のようなマネはおやめなさい>

<…………え……?>


 瞬間、ジルの動きが固まった。そして、ギギギと音が鳴りそうな動きで僕を振り返る。


<……見た?>

「え、あの……。うん……」


 僕は嘘が付けずに頷いてしまった。ジルの顔が見ていてかわいそうになるくらい真っ赤になる。


<べ、べつにいいし! でも、ちゃんと責任は取ってよね!>

「え? 責任!?」

<ジル、あなたが勝手に下着を見せておいて、責任を取れというのはさすがにひどいのでは?>


 僕はシーネの言葉に高速で頷いた。


<それに、下着を見せるだけで責任を取ってもらえるのなら、わたくしだって喜んで見せます>

「うん?」


 なんか話がおかしな方向行ってない?


<女の子のパンツはそんな簡単に見せるものじゃないから!>

<最初に見せたのはあなたでしょうに>


 僕の右肩で言い争いを始めてしまったジルとシーネ。どうしようかと思っていると、ふよふよと僕の顔の前にノアが浮いていた。


<パンツ、見たい……?>

「え、遠慮しておくよ……」

<そう……>




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る