第5話 ゴブリン狩りにいこうよ

<そうですね。グリフォンの居場所は遠いですし、今回は止めておきましょう>

<えー?>

<今回は手早くお金を稼いで移動したいですから>

<そっかー>


 シーネがいてくれて助かった。グリフォンを倒したいと言い出したジルもシーネの言葉に頷いている。


 やっぱりグリフォンなんて強力な魔物の討伐は怖いからね。僕としても一安心だ。


<あまりいいクエストがありませんね……>

「わりのいいクエストは朝早くに来ないと他の冒険者に取られちゃうから……」


 僕もいいクエストを勝ち取るために何度早起きさせられて冒険者ギルドに走らされたことか……。いいクエストを取らないと怒られるから必死だった。


<仕方ありません。この恒常クエストで稼ぎましょう>


 シーネが指差したのは、いつも貼り出されているゴブリン退治のクエストだった。


<じゃあそれで決定! ぱぱっと稼いじゃお!>

<リュカは汚れてもいい袋は持っていますか?>

「うん。テオドール様に呼ばれた時はだいたい冒険の時だったから、ちゃんと荷物は持ってきたよ」


 僕の『虹の翼』での仕事は、主に荷物持ちだった。だから、僕の背中には大きなリュックサックが背負わされていた。もちろん中には汚れてもいい麻袋がいくつか入っている。


 いつも荷物持ちでたいへんな思いをしたけど、これから旅に出ると考えればこの大きなリュックサックは頼もしい。


<ジル、ゴブリンのいる場所はわかりますか?>

<ばっちり! あたしにかかれば一網打尽よ!>

<頼もしいですね。ではリュカ、行きましょうか>

「うん……」


 なんだかシーネやジルに頼りっぱなしだなぁ……。これからのゴブリン戦では僕は役立たずだし……。僕もなにかみんなのためにがんばらないと!



 ◇



 街の近くの森の中。僕たちはゴブリンを退治しに森の中に潜っていた。


<あっちに三匹いる! こっちこっち!>


 ゴブリンの居場所がわかるらしいジルに続いて暗い森の中を歩いていくと、本当にゴブリンが三匹いた。


 すごい。方向だけじゃなくて、数もピッタリだ。


<では、やってしまいなさい。討伐の証である右耳は残すように>

<クア!>


 シーネの号令で初級精霊たちが魔法を使う。ストーンランスが、ウォーターショットが、ファイアボールがそれぞれゴブリンを倒していく。精霊の使う強力な魔法の前には、ゴブリンなんて簡単な相手だ。


 そういえば、テオドール様たちは精霊に魔法を使ってもらうのに魔力を捧げていたけど、僕はいいのかな?


「ねえ、シーネ。どうしよう? 僕は生まれつき魔力がないんだ。このまま初級精霊たちに魔法使ってもらってたら、魔力切れになっちゃわないかな?」


 魔力切れになると、全身がだるくなって、すごく辛いみたいなんだよね。中には気絶しちゃう人もいるくらいだ。僕は初級精霊たちにそんな辛い思いはしてほしくない。


 だけど、僕の心配をよそに、シーネはコテンとかわいらしく首をかしげた。


<? リュカは魔力を持っていますよ?>

「え!? そうなの!?」

<おそらくですが、リュカは魔力を溜め込めない性質なのですね。リュカの魔力は、常に体から溢れています。その魔力を吸収していますので、初級精霊たちも魔力切れにはなりませんよ。リュカの魔力は質が最高で、芳醇な魔力なのです。わたくしたち六人が全力で魔法を使っても使い切れないくらいですよ>

「そうなんだ!」


 芳醇な魔力というのはよくわからないけど、僕から溢れ出る魔力があれば、魔力切れを起こさないというのはわかった。それなら安心だね。


 魔術が使えない不自由な体だと思ったけど、精霊たちの為になっているのならよかったよ。


<あっちにもゴブリンいるよー!>

「ちょっと待って、その前にゴブリン討伐の証を手に入れないと」


 僕は焼け焦げてるゴブリンの傍らにしゃがむと、その右耳をナイフで切って回収する。他のゴブリンの右耳も回収して、僕たちは次のゴブリンに向けて森の中を歩き出した。



 ◇



 もう持ちきれないほどのゴブリンの右耳を持って冒険者ギルドに帰ると、また冒険者たちの視線が突き刺さる。やっぱり怖いなぁ。というか、この人たちはこんな朝から飲んだくれてていいのかな?


「いらっしゃいませ。なにか忘れ物ですか?」


 受付カウンターに行くと、受付嬢さんがニコニコと対応してくれる。


「いえ、ゴブリンを討伐してきました」

「もうですか? 早いですね」


 ジルのおかげでゴブリンを探す手間が省けたからね。それはもう次から次へとゴブリンを狩れたよ。


「では、こちらのトレイにゴブリンの右耳を出してください」

「えっと……。これじゃ足りないかも……です」

「この短時間でたくさん狩られたんですね」


 受付嬢さんがもう一つ金属トレイを出してくれるけど、これでも足りないんじゃないかな?


 そう思いながら僕は背負ったリュックサックを下ろして、中からゴブリンの右耳がギッシリ詰まった麻袋を取り出した。


「ブーッ!?」

「おま、きたねえな! 酒は吐くんじゃなくて飲め!」

「いやいやいや! あれ見ろよ!」

「奴隷が麻袋出してるな。それがどうした?」

「あれ全部ゴブリンの右耳だってよ!」

「はあ!?」

「バカは休み休み言えよ」

「マジだって! ほら! ゴブリンの右耳がはみ出てやがる!」

「マジかよ……。だって、さっき出ていったところだぞ? そんな大量に狩れるわけが……」


 なんだか冒険者たちが騒いでるけど、なんでだろう?


 そう思いながら、僕はリュックサックから二つ目の麻袋を取り出すと、ドンッと金属トレイの上に置いた。


「い、いっぱい狩られたんですね……!?」


 なんでだろう? なんだか受付嬢さんの顔色が悪い気がする。


「あと三袋ありますけど、次のトレイってありますか?」

「「「「「ブーッ!?」」」」」

「まだあるんですか!?」




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