第15話 オーガ討伐

Side:パーチェス


 スルースのオーガ退治を見届ける。

 スルースが死んだら、遺体は必ず家族の元へ届ける。

 それが今まで良くしてくれたスルースへのせめてもの恩返しだ。

 ただ、ローラースケートを使った移動は速い。

 オーガを翻弄できるはずだ。


 街道のオーガの縄張りで待ち受ける。

 ズシンズシンという音が聞こえてきた。

 オーガの背丈は人間の2.5倍ぐらいだが、10倍はあるような錯覚を感じる。


 行きの時に出会わなくて良かった。

 出会っていたら硬直して何も出来なかっただろう。


 オーガが街道に出て来た。


「見てろ。これこそがパイルバンカーだ。【バリヤー、エクスプロージョン】、ローラーダッシュ。【アラーム、シャープエッジ、バインド、バリヤー、ロール、エクスプロージョン、クールウォーター】」


 スールスがオーガに肉薄。

 ジャキンと音がしてから爆発。

 オーガの脛から真っ赤な血が噴き出した。


 オーガの絶叫が響き渡る。

 あの黒い杭はアマダンタイト。

 なんていう高価な物を使っているんだ。

 だが、そのぐらいでないとオーガの硬い皮膚を突破することはできない。


「【アラーム、シャープエッジ、バインド、バリヤー、ロール、エクスプロージョン、クールウォーター】」


 オーガの股間から血が噴き出した。

 オーガは絶叫して倒れた。


「【アラーム、シャープエッジ、バインド、バリヤー、ロール、エクスプロージョン、クールウォーター】」


 そして額に止め。

 凄いのは分かるが、なんという金の無駄遣い。

 これにさらに魔石の粉の無駄遣いが加わるのか。

 商人の俺としては、狂人の所業だ。


「どうだ。パイルバンカーは恰好良いだろう」

「アダマンタイトを使うなら剣の方が格好いい」

「ちっちっちっ、素人はこれだから。黒光りする杭は恰好良い。剣など足元にも及びつかない」


 やっぱり変人だ。

 天才なんだろうな。

 一人でサクっとオーガ瞬殺だからな。


 アダマンタイトの杭を作るなら。

 その金で冒険者を100人雇った方が良い。

 その方が確実だ。


 収納鞄にオーガを入れて終わりだ。

 収納鞄が羨ましい。

 変人だが金持ちだ。


 街にオーガ討伐成功の報を持ち帰ると、宴会騒ぎになった。


「パイルバンカーの良さは分からないが、あんたに敬意を表して、パイルバンカーの技を伝えようと思う」

「そうか」


 スルースがとっても嬉しそう。

 オーガの死骸と鉄の杭100本を置いて、スルースは立ち去った。


「【バインド、バリヤー、エクスプロージョン】。うん、こんな感じか」


 飛ばしたら駄目なんだな。

 杭の根元にでっぱりがあるのに引っ掛けるんだったな。

 スルースの威力とは程遠い。

 きっと使ったら相手は打撲で済むだろう。


 やっぱり分からん。

 先が尖っていない杭もあるが、それじゃ攻撃力ダウンだろう。

 意味が分からん。


「パイルバンカーという技の訓練ですか」


 修練場で訓練していたら、兵士が寄って来た。


「そうだが。的も満足に破壊できない」

「この平らな杭は、殺さないようにするのには良いかも知れません」

「そうか、非殺傷用なのだな。訓練用かも知れないな。ちょっと謎が解けたよ」

「俺もやってみていいですか」

「ああ、杭は何本もあるやっていいよ。パイルバンカーの訓練するなら、杭はあげよう」

「では、先の尖ったのと平なのを一本ずつ」


 兵士がパイルバンカーに興味を示し始めた。


「何が良いんだ?」


 疑問をぶつけてみた。


「これって魔法で殴っているようなものなんですよ。殴るとすかっとするでしょう。それが良いんです」


 なるほど、そう考えたら良かったのか。

 殴ってスカっと爽快ね。

 さしずめ大振りの全力パンチなんだろうな。


 そうなると杭は拳か。

 アダマンタイトの杭は極限まで拳を鍛えたってわけだな。

 金の力でだが、ロマンを感じる。


 兵士は木の杭を作って先にわたを付けた。

 これなら、目にでも当たらなければ危なくない。

 パイルバンカーを使った戦闘訓練が始まった。


 確かに殴り合いだ。

 見物している兵士も熱狂する。

 急所に食らって身もだえしたり、ふらついたり。

 外して大笑いされたり。


 野蛮だがこういうのが好きな男の気持ちも分かる。

 飛びナイフよりは実用的ではないが、ロマンに文句を言っても仕方ない。


 やがてわたが付いた木の杭は兵士の武器として正式採用された。

 そして、街の犯罪が減った。

 性質の悪い酔っ払いなども木の杭をみると大人しくなる。


 剣では相手を殺してしまうからな。

 そういう意味では平和的な武器だ。

 優しさがある武器とも言える。


 俺はスルースに手紙を書いた。

 パイルバンカーの魅力を分かってあげられなくて済まなかった。

 あれは拳の殴り合いみたいな物なのだな。

 やっと意味が分かったよ。

 男のプライドなんだな。

 優しさが詰まった武器でもあると書いた。


 スルースから返事が来た。

 パイルバンカーが流行ってくれて嬉しいが、あれは一撃必殺の武器なんだよ。

 戦場で生まれた紛れもない武器だ。

 ただ、男のプライドという意味は共感できると書いてあった。


 やはり天才の言うことは分からん。

 あれを一撃必殺にするまで磨くのなら、もっと別の方法があるだろう。

 金と労力を考えたら、俺ならやってられない。

 ロマンの産物か。

 そう思った。

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