第11話 巨人ゴブリン

Side:サムボデ


 こんなの勝てるわけないだろ。

 ゴブリンの大きさは丘よりでかい気がする。


「おっし、良い具合にでかぶつだ。良いねぇ。燃えるねぇ。胸熱だねぇ」


 こいつ、頭がおかしい。

 冒険者の男は怯えもせず丘ほどの大きさになったゴブリンの前に立った。

 結末はみないとな。

 きっとグシャって潰されて終わりだろう。

 そしたら逃げるぞ。

 村人はみんな避難して、村には俺しかいない。


 気兼ねなく逃げられる。

 隣村からも逃げよう。

 城壁のある都会に行くんだ。

 でもあのゴブリンの背は城壁より高い気がする。


 禁忌を犯した俺はきっと縛り首になる。

 いいや、もっと遠くに逃げるんだ。


「ほら、言わんこっちゃない一撃でグシャっとなった」

「【アラーム、シャープエッジ、バインド、バリヤー、ロール、エクスプロージョン、クールウォーター】」


 巨人ゴブリンの拳が緑色の血で染まった。


「グギャーー!!」


 鉄ノミで、拳を砕いたのか。

 俺達は勘違いしていたらしい。

 サムワンもこの人は詐欺師みたいだと言っていたが、確かに詐欺師だ。

 弱い感じをして、ドラゴンに匹敵する。

 スライムの皮を被ったドラゴン。


 巨人ゴブリンは砕かれていない手を突き出すと巨大な炎を生み出した。

 合成にはゴブリンマジシャンも混ざっている。


 魔法には敵わんだろ。

 火球が冒険者を襲う。


「【アラーム、シャープエッジ、バインド、バリヤー、ロール、エクスプロージョン、クールウォーター】。ミスリルパイルバンカー」


 銀色のノミが火球を打ち砕いた。

 なんということだ。

 ドラゴンの比ではない。

 神だ。


「くっくっくっ、足元がお留守だぜ。【バリヤー、エクスプロージョン】、ロケットダッシュ。【アラーム、シャープエッジ、バインド、バリヤー、ロール、エクスプロージョン、クールウォーター】」


 物凄い速さで近づくと、巨人ゴブリンの脛を砕いた。


「グギャーー!!」


 巨人ゴブリンが片膝を付く。


「丈夫な方の足もいっとけ。【アラーム、シャープエッジ、バインド、バリヤー、ロール、エクスプロージョン、クールウォーター】」


 両足を砕かれて巨人ゴブリンは横たわった。


「止めだ。【アラーム、シャープエッジ、バインド、バリヤー、ロール、エクスプロージョン、クールウォーター】」


 巨人ゴブリンの額を鉄の杭が砕いた。


 巨人ゴブリンは死んだ。

 あんなにあっけなく。


「勝てただろう。でかいだけのゴブリンなんてパイルバンカーの敵じゃねぇ。戦いは胸熱だったがな」


 緑色の血まみれで冒険者がニカっと笑う。


「ありがとう。あんたは神だ」

「そうだな。名人みたいに上手い奴を神と呼ぶ。この世界でもっともパイルバンカーが上手いのは俺だ。だから神だと言っていい」

「普通に偉業なんじゃ」


「素材は採らないのか?」

「えっ?」

「こんだけでかいと魔石もさぞでかいだろうな」


 巨人ゴブリンの魔石を採るのは大変だった。

 だがその甲斐はあった。

 おそらくSランクモンスターの魔石に匹敵するだろ。

 冒険者はその魔石を村に寄付するという。

 良い人だ。


「ああ、そうだ。空の飛び方を教えてくれ」

「簡単だよ。結界魔法を作って中で爆発魔法を起こす。一方向の結界を薄くしておくのがコツだ」

「【バリヤー、エクスプロージョン】、ぐべっ」


 俺は吹き飛ばされてゴロゴロと転がった。


「大丈夫か? まあちょっと慣れるまで危ないがな」

「ぺっぺっ、もうやらない」


「そういうなよ。それで杭を打ち込めばパイルバンカーだ。パイルバンカーは良いぞ。どんな硬い物も砕く。胸熱だろう」

「いや、安全に空を飛びたいだけなんだが」


「パイルバンカーの良さが分からないなんて人生の半分は損をしているぞ」

「そうか。ならやってみるか。【バリヤー、エクスプロージョン】」


 俺は地面に木の杭を打ち込んだ。

 爆発を小さくすればそれほど危なくないな。

 杭を打つ作業は農作業やっているとままある。

 それに柵とか作るのにもな。

 良い事を教わった。


「なに地面に杭を打ち込んで満足しているんだよ」

「便利だから」

「まあいいか。パイルバンカー最高だろう」

「ああ、最高だ。なんとなく気持ちいいしな」

「そうなんだ。エクスタシーなんだよ。次はモンスターに挑戦してみろ。そして最後はドラゴンだ。ドラゴンがやれたら免許皆伝だ」


 夢物語みたいなことを言う男だ。

 英雄はみんなこんな感じなのかな。

 玩具を与えられて、その良さを力説しているみたいだ。


「もう行くのか」

「ああ、村のみんなに謝っておいてくれ。今回の騒動は俺が原因だ」


 やはり頭がおかしいようだ。

 ゴブリンなんざ定期的に大発生するだろう。

 そんなの誰のせいでもない。

 やはり神にでもなった気でいるのかな。


「俺達は誰もあんたを恨んじゃいない」

「そうか。なら良い。もし打ち砕けないような硬い敵が現れたら連絡しろ。硬い岩でも良いぞ」

「おう、そうさせてもらうよ」


 冒険者は去って行った。

 巨大ゴブリンの皮をなめす作業が始まった。

 皮の盾や鎧が量産され、かなり儲かった。

 畑の作物と家畜は全部ゴブリンにやられたが、お釣りが来るぐらい儲かった。


 上手く事が収まって良かったよ。

 俺は従弟のサムワンと一緒にパイルバンカーを毎日練習している。

 そのうち空が飛べたらいいなと期待して。

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