第10話 危機

Side:サムボデ


 ゴブリンが大量発生した。

 その数1000。

 上位種もいる。

 詰んでいる。


 ゴブリンは村を囲んだ。

 村の入口にバリケードを作って、柵を強化。

 籠城した。


 頼みの綱は従弟のサムワン。

 王都のギルドまで助けを呼びに行ってもらった。


 士気は高い。


「ゴブリンなんかに負けて堪るか」

「おう」


 農具を持って立ち上がる村人。

 最初は何とかやれてた。

 柵越しに攻撃するだけだから。

 ゴブリンアーチャーが矢を放って怪我人が増えた。

 投石もそれに追い打ちを掛ける。


「不味いぞ。ゴブリンマジシャンがいる」

「火を放たれたらどうにもならない」


 恐れていたことが起こった。

 バリケードに火球が激突。

 燃え上がった。


 もう柵はあてにはできない。

 みんな家に閉じこもった。


 ゴブリンは扉をぶち破れるのにそれをしない。

 扉を叩くだけだ。

 だが、家畜は軒並み殺されて奴らの胃袋に消えた。


 奴らがなんで俺達を殺さないのか分かった。

 ある家が窓から食料を投げたのだ。

 その家はしばらく攻撃されなくなった。


 食料を全て出させるつもりだ。

 くそっ、頭の良い奴らだ。


 備蓄されている食料がどんどん減っていく。

 これがなくなったら俺達はゴブリンに食われて死ぬのかな。

 食料を切り詰めて生活する毎日が始まった。


 水瓶の水も節約しないと。

 こうなったら、食料を盛大に食ってぶくぶく太ろうかとも思ったが。

 たぶんそれをするとゴブリンが喜ぶ。


 食っても地獄。

 食わなくても地獄。

 どっちにしても地獄。


 救いはないのか。

 サムワンは助けを呼べたのかな。

 金貨10枚ほどで依頼を受けてくれる冒険者が現れるだろうか。


「あなた、食料があと3日ぐらいしか持ちません」


 妻にそう言われてしまった。


「きっと助けはくる。サムワンは裏切ったりしない。とにかく何かしないと。合成スキルで食料を作り出せたらな。やってみるか」


 何を合成しよう。

 麦わらと塩かな。

 塩味の麦わら。


「合成」


 食ってみた。

 塩味は効いているが麦わらだ。

 失敗だな。

 牛でもない限りこんなのは食わん。


 子供が集めたどんぐりがある。


「合成」


 塩味のどんぐりができ上がった。

 皮をむいて食べる。

 くそっ、渋い。


「抽出スキルで渋を抜きます。抽出」


 妻が、渋を抜いてくれた。

 今度は食える。

 栗ほどじゃないが、まあまあの木の実だ。


「うん、なんとなく食料になった」


 窓から作った食料を投げ。

 ゴブリンの攻撃をやめさせる。

 その隙に各家を回ってどんぐりを集めた。

 どんぐりを家畜の餌にしている家もあるので大量に集まった。


 塩味渋抜きどんぐりを作って暮らした。

 塩味渋抜きどんぐりは俺達の食料にもなった。

 これでしばらくは暮らせる。


 だがそれもなくなった。

 もう食料はない。

 ゴブリンが扉を叩く音は激しさを増す。

 催促したって食料なんかない。

 限界点を越えたら、きっと食われるのだろうな。


 その時、サムワンが飛び込んできた。


「待たせた」

「それでその人が凄腕の冒険者さん?」

「分からん。逃げ足だけは1流だと思う」

「逃げられるのか?」

「どう?」


「そうだな。まずは村人の避難をしよう」


 冒険者は食料も持っていたのでゴブリンの攻撃は収まった。


「しっかり掴まれ」

「俺も飛んでここまで来たから、安全は保障する」

「逃げられるのなら多少の危険性は別に良い。よしやってくれ」


「【バリヤー、エクスプロージョン】、ロケットダッシュ。【バリヤー、エクスプロージョン】、バーニヤ」


 空を飛ぶのは爽快だな。

 世の中にはこんな面白いことをする人もいる。


 空の旅は一瞬で終わった。

 ゴブリンの件が終わったら、この冒険者と空を旅したい。

 いいや、そらを飛ぶ方法を教えてもらおう。


 空を飛んで、ゴブリンの包囲からひとりひとり逃がして行く。

 避難先は隣村だ。


「肝心のゴブリンの退治だが、ゴブリンを合成して一纏めにして倒す」

「サムワン、気が狂ったのか? モンスターの合成は禁忌だ。昔それで国が滅んだのを忘れたのか」

「いいや、大きくすればこの人が倒せるらしい」


「任せてくれ。でかぶつを倒すのはパイルバンカーの醍醐味。絶対に仕留める」


 空を飛んで助けてくれただけでも十分なんだが。


「このままという選択肢はないのか?」

「ない。パイルバンカーが巨悪を倒せと叫んでる」

「食料を買う金で依頼金は無くなる。この人を信じてみないか。詐欺師っぽいけど」

「あの村がからっぽだと知ったら、この隣村に来る」


 冒険者の一言に心が決まった。


「よしやろう。この一件が終わったら空を飛ぶ方法を教えてくれ」

「そんなことは容易い」


 何日もかけて、ゴブリンを合成しまくる。

 どんどん大きくなるゴブリン。

 これはやばいんじゃないか。

 噂に聞いたドラゴンよりでかい気がする。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る