第9話 奇妙な詐欺師

Side:サムワン


 くっ、ゴブリンが大量発生した。

 俺は王都に報せに荷馬車を走らせた。

 そして、依頼を出したが誰も受けてくれない。

 依頼金が安すぎたからだ。


 でもどうにもならない。

 冒険者ギルドの依頼掲示板の前に立っている日々。


「あー、もしかしてこれって俺のせい」


 そんなことを言って依頼を手に取った男がいる。

 ゴブリンの大発生が人のせいなわけないだろ。

 でも贖罪だと思ってくれているのなら別に良い。

 たぶん命を懸けてことに当たってくれるからだ。


「サムワンさん」


 呼ばれたのでカウンターに行く。


「この方が依頼を受けてくれるようです」

「スルースだ」

「サムワンです」


「急ぐんだよな」

「はい」


 何、当たり前な事を聞くんだ。

 大丈夫かこいつ。

 ぶら下げている武器は鉄ノミ。

 ひとつ高そうな金属の鉄ノミがあるが、メッキだろう。


「食料を仕入れたら出発だ」


 ピットマイン商会という所に連れて来られた。


「これはこれは、スルース様ではありませんか。いつ王都に?」

「昨日だ。最後の収納鞄は回収したか?」

「ええ、手紙と共に」


「ミスリル鉱山を開くことになった。エングレイ家が取り仕切る。紹介状を書くから、上手くやれ」

「それはありがたいことです」

「鉄の杭、1000本とミスリルの杭を9本注文したい」

「豪勢ですね」

「金は後払いだが構わないだろう」

「ええ、信用しておりますとも」


 この人、大物なのか。

 いや詐欺師の匂いがする。

 こういう商店と取引があって、でかい話をして信用させる。

 よくある手口だ。


「食料を、馬車10台分ぐらいかな」

「在庫をかき集めればすぐ揃います」


 商人の顔がもう笑いが止まらないといった感じだ。

 俺を騙してしてやったりか。


 小さなポーチを渡されて終了。

 へっ、これが10台分の食料。

 馬鹿にするな。

 詐欺にもほどがある。


「お前、詐欺師だろう」

「えっ、何か気にいらないことがあるのか」

「そのポーチに馬車10台分だって」

「ああ、収納鞄を初めて見るのか。そうなんだよな。俺も初めて見た時は詐欺だと思った。やってみても良いぞ」


 ポーチを渡された。

 手を入れれば良いんだよな。

 手を入れると頭の中に目録が浮かぶ。

 干し肉と念じると、干し肉が出て来た。


「ほへぇ」

「なっ、驚くよな」

「凄い。こんな道具があるなんて。欲しい。いくらするんだ?」

「金貨1000枚ぐらいかな」

「へっ、き、金貨1000枚」

「ああ、そうだな。全然凄くないぞ」


 まだ詐欺だと疑っている自分がいる。

 だけど、ここまで小道具があったら騙されてもいいかなと思う。


「ひとりで1000はいるゴブリンを相手にするのか」

「うーん、籠城戦ならいけるけど、相手も馬鹿じゃないよな。何か作戦を考えないと」


 どんな詐欺の手を考えたのか聞かせて貰おうか。


「どんな作戦で行くのか? それによっては依頼はキャンセルしてもらう」

「パイルバンカーって、多数の敵には相性が悪い。特に小さい奴にはな。敵を一纏めに出来ないかな」

「できないかなって。ゴブリンを合成して巨人ゴブリンにするのか」

「おおそれだ。合成スキル持ちが必要だな」

「モンスターの合成は禁忌だぞ。どうしてもやるのか」

「ああ、ちまちまやってやれるか。たかが10倍の大きさだよな。120メートルゴブリン。軽い軽い」


 こいつ、ゴブリンを一纏めにして逃げるつもりじゃ。

 いや大きくすれば殺しやすいのか。

 なんか泥沼にはまりそうな気がするんだが。

 もうどうにでもなれ。


「合成スキル持ちは村にいる。植物の合成をしている奴だ」

「よし、作戦は決まった。ロケットダッシュで向かうぞ」


 王都を出たら掴まれというのでしがみ付く。


「【バリヤー、エクスプロージョン】、ロケットダッシュ」

「うひょう。何だよこれ」

「喋っていると舌を噛むぞ。どんどん加速行ってみよう。【バリヤー、エクスプロージョン】【バリヤー、エクスプロージョン】【バリヤー、エクスプロージョン】【バリヤー、エクスプロージョン】、ロケットダッシュ」


 もう必死だ。

 手を放したら恐らく死ぬ。

 これって止まる時はどうするんだ。


「【バリヤー、エクスプロージョン】、バーニヤ」


 ロケットダッシュとやらで飛ぶと地面と接触しそうになる。

 それをバーニヤでちょこちょこ修正。

 器用なもんだ。

 来る時は3日掛かった道程が1時間だ。


 着いた村はゴブリンに占拠されていた。

 詐欺師だと思っていたが、逃げ足の速い詐欺師に変更。

 きっと、ゴブリンを合成して巨大化したら逃げるつもりだな。

 巨大化したゴブリンは餓死させて殺すのかな。

 餓死するまでに村は壊滅だ。


 そんなのは許さん。

 見張っていて、逃げる兆候が見えたら、絶対に殺す。

 相打ちになってもだ。


 ロケットダッシュで扉をぶち破り、合成スキル持ちの従弟のサムボデの家に転がり込む。

 俺とサムボデは壊れた扉の所に家具を積んで塞いだ。

 サムボデは生きていた。

 ガリガリだが、生きていてくれて嬉しい。

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