第8話 強化パーツ

Side:スルース


 ええと、今まで貯めたお金もあるし、これからズンドコお金が入って来る。


「何に使おうか?」

「まあ、私もスルース様が何をお買いになるのか興味がありますわ」

「鉄の杭を1000本」

「えっ」

「俺の鉄の杭は特注なんだよ。でっぱりを結界に引っ掛けて飛ばないように作ってある。杭を飛ばしてしまったらパイルバンカーとは言えない」

「どうせこだわるのでしたらミスリルでお作りになられたらいかがです」

「いいね」


「普通はミスリルの剣とかお求めになられる方がばかりですが、ミスリルのノミは個性的で素敵です」

「ミスリルの杭な。パイルは杭の意味だから。鉄ノミとか呼ばれると違うって訂正したくなる。まあしないけど」

「それにしてもスルース様の魔法の多重起動は見事ですね」

「頑張ったからな。幼いうちから訓練すると伸びるらしいぞ。ロックワームとミスリルワームの戦闘も良かったのかな」

「そう言えば、熟練度なる物があってモンスターの戦闘で上がると言われています。スキルだけでなく魔法にもそれがあるとされてます」

「へぇ」


「結界で爆発は自爆魔法ですよね。本に出てました」

「そうかもな。一方向を薄くするとコントロールできる」

「危険ではありませんの」

「そうは言っても、所詮魔法だから。あーあ、魔法の威力上げられたらな」


「上げられますわよ。私の魔法増幅スキルで可能です」


 うわっ、それは凄い。

 これはリリアンヌをゲットしなければ、パイルバンカーに彼女を組み込むのだ。


「君が欲しい。俺の物になってくれるかい」


 俺はリリアンヌの手を握って懇願した。


「私で良ければ喜んで」

「お嬢様、それはいけません。結婚の約束などお父様から許可を得て正式な手続きを踏まないと」


「結婚? なに言っているんだ。俺はパイルバンカー強化のために力を貸してほしいだけだ」

「いいえ、スキルの力を貸すのは親族や家族か、婚約者と決まっております」

「そうか。俺はパイルバンカーのためならどんな困難も打ち砕く、熱き杭でな」

「まあ、素敵」


 別に婚約して、力を貸してもらっても結婚する必要はないだろう。

 偽装婚約をやって手を汚すのも厭わない。


「婚約するには何をすれば良い?」

「まず、勘当を解いてもらうことですわね。それとしかるべき人を立てて、婚約の仲介をしてもらうですわ」

「勘当か。まあなんとかなるだろう。パイルバンカーで全て打ち砕くのみ」


「こいつ、大丈夫か?」

「アイラ!」

「失礼しました。つい心の声が漏れてしまいました」


「心配するな。ミスリル鉱山で得た金を蓄えて、一気に爆発、敵にマネーの杭を打ち込むのだ。マネーパイルバンカーだ。ちまちまなどやらない。圧倒的財力で、一気に一撃必殺を叩き込む」

「まあ、素敵」


「それにしても馬車の旅は暇だな。うずうずする」

「ミスリル鉱石はお持ちでしょうか?」

「そんなにはないが10袋ぐらいはある」

「ではミスリルの杭を作ってみては。兵士の一人が、確か精錬と形成スキルが使えます」

「馬車を停めろ。今すぐ作れ」

「まあ、強引な所も素敵。馬車を停めてあげて下さいまし」


 馬車が停まった。

 兵士がなんだと集まる。


 馬車から降りて体をほぐす。

 収納鞄から、ミスリル鉱石を10袋出した。


「さあ作れ。形はこの鉄の杭だ」


 作れるという兵士が鉄の杭を観察する。


「何というか。ちょっと卑猥ですね」


 神聖な杭に対してなんてことを言うんだ。

 確かに根元にでっぱりが二つあるが。


「でっぱり、これ必要なんですか」


 いやこれがないと、キャノンになっちまう。

 パイルバンカーの杭が飛んで行くなど認めん。


「腰のホルダーに入れるのもでっぱりがあれば引っ掛かって落ちない」

「まあそんなに手間じゃないんですが。なんというかあれをあまりにも連想させるので」

「とっととやれ」

「精錬、形成、できました」


 銀色に輝く杭ができ上がった。

 ミスリルの杭は虹色の燐光を放っている。

 うん、恰好良い。


「おお、これでパイルバンカーが最強に近づいた」

「余ったミスリルはどうしましょう」

「リリアンヌに指輪を作ってやれ」

「お嬢様にですか。作りますけど。形成」


 できた指輪を持ってリリアンヌの隣に座った。


「手付金代わりだ。サイズが合わなかったら兵士に直させろ」

「まあ、着けて下さる」


 左手人差し指に着けようとしたら、薬指に誘導された。

 まあいいか。

 薬指に指輪をはめる。


 リリアンヌはうっとりと指輪を眺めた。

 そんなに嬉しいならこれからも指輪を贈ろう。

 俺は装備は大切にする男だ。


 そして、何事もなく馬車は王都に着いた。

 この街はなんか覚えがあるぞ。

 実家の屋敷があった所じゃないか。

 王都だったんだな。

 そうか、領地でもなければ屋敷は王都だよな。


 出身が王都だって忘れてた。

 ここを出発してだいぶ経つからな。


「王都よ俺は帰ってきた。硬い敵よ、掛かってこい。まずはミスリル杭の試し撃ちとして城壁をやるか」


「こいつ、本当に大丈夫か」

「アイラ」

「失礼しました」


「冗談だよ。いくら俺でも城壁は砕かない」

「どうだか」

「アイラ」

「失礼しました」


 マネーパイルバンカーを打つのにはまだ金という爆発力が足りない。

 ミスリル鉱山は開山してないからな。

 ゆっくりやるか。


 依頼でもこなして時間を潰していれば、金なんかすぐに貯まる。

 マネーパイルバンカーを打つにしても弱点を狙わねば。

 色々と忙しくなる。


 リリアンヌを絶対にゲットして、最強のパイルバンカーを作るのだ。

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