第6話 あのお方
Side:リリアンヌ・エングレイ
千里眼であの方の戦いを見守ります。
アイラは馬車の扉が壊れて、開いた穴から身を乗り出して戦いを見ています。
なぜに武器が鉄の杭なのでしょう。
たしかにザコオークに鉄の杭を打ち込めば死にます。
ですが、不思議です。
あれがあの方のスキルなのでしょうか。
杭を強化するスキル。
もしかして付与スキル系でしょうか。
それとも剛力系スキル。
よく見ると、杭は爆発で打ち込まれています。
爆発系のスキルでしょうか。
そうなら、直に爆発でダメージを与えた方が早いと思うのですが。
「【アラーム、バインド、バリヤー、エクスプロージョン、クールウォーター】」
あの方のお声が聞こえました。
これは魔法語。
ということは魔法です。
意味が分かりません。
警報の魔法は何のためにあるんでしょうか。
拘束の魔法は杭が空中に浮いていることから、このためなのでしょう。
結界に爆発、ここに謎がある気がします。
爆発を冷やすために冷水魔法?
冷却魔法じゃ駄目なんですか。
それにジャキンという金属音とプシューという謎の音。
それに白い煙。
意味が分かりません。
ザコオークはあの方の迫力に押されています。
オークキングは考えている素振りを見せた後に短く吠えました。
ザコオークが一斉にあの方に攻撃を加えます。
「【アラーム、バインド、バリヤー、エクスプロージョン、クールウォーター】。パイルバンカーは反動で窮地を脱することができるんだぜ。胸熱だろう」
杭を打ち込んだ反動で囲みから脱出したようです。
器用ですね。
胸熱、私も胸が熱いです。
そしてドキドキします。
この感情はなんでしょう。
「【バリヤー、エクスプロージョン】、ロケットダッシュだ」
あの方が爆発を使いオークキングに肉薄します。
「【アラーム、シャープエッジ、バインド、バリヤー、ロール、エクスプロージョン、クールウォーター】。パイルバンカー!」
「プギィイイ」
オークキングの腹に深々と鉄の杭が刺さりました。
しかし、オークキングはまだ死にません。
恐らく腹の肉で杭が止まったようです。
ザコオークがあの方を囲みます。
「【バリヤー、エクスプロージョン】猫騙し、ロケットダッシュ」
爆発でザコオークが目をつぶった隙に、ロケットダッシュというもので逃げました。
「おっと、弱点を攻めるんだったな」
オークキングはザコオークに守られています。
どうやって攻めるのでしょう。
「【バリヤー、エクスプロージョン】、目潰し」
地面が爆発してオークの目に土が入ったようです。
あの方がするりとオークキングに近寄ります。
ザコオークの中を悠々と歩いています。
まるで王者の風格。
オークキングもあっけに取られています。
「ほらよ、【アラーム、シャープエッジ、バインド、バリヤー、ロール、エクスプロージョン、クールウォーター】。関節をパイルバンカーで狙うのは定番。胸熱だよな」
杭がオークキングの膝に打ち込まれました。
「プギィイイ!!!」
オークキングの絶叫。
オークキングは片膝を付きました。
「止めだ。【アラーム、シャープエッジ、バインド、バリヤー、ロール、エクスプロージョン、クールウォーター】」
オークキングの額に杭が打ち込まれオークキングは崩れるように倒れました。
ザコオーク達が逃げて行きます。
「やった。勝ちましたわ」
「お嬢様、唾を飛ばして喋るなどはしたない」
「失礼いたしました」
なんという、勇猛果敢。
なんという、一騎当千。
ですが、スキルを使った感じがありません。
全て魔法です。
戦闘系のスキルではないのかしら。
「アイラ、あの方を王都の屋敷にご招待したいですわ」
「そうですね。いくばくかのお金を払って護衛して頂いて、屋敷に着いたら歓待するのがよろしいかと」
「そう致しましょう。アイラはあの方をどう思われますか」
「先ほどの戦闘を壊れた扉から身を乗り出して拝見しましたが、とても戦闘慣れしているお方とお見受けしました」
「ですよね。素敵ですよね」
「ああ、お嬢様。顔が赤いですよ」
「赤くなんかありませんわ」
「危険な香りがする男と見ました」
「危険ですか? 私の危機察知には反応してないですが」
「はい、死地に笑って飛び込むような男です。こういう男に女は弱いのも分かります。やめておいた方がよろしいかと」
「嫌ですわ。まるで私があの方に心を奪われたよう」
「鏡を見てからおっしゃって下さい」
「今日のアイラは辛らつですね」
「私は虫よけの役目も仰せつかってます」
「私が恋した前提はやめて下さいまし」
「仕方ないですね。恋は反対されればされるほど燃え上がる。分かりました。お嬢様の恋が悲恋にならないようにアドバイスして差し上げます。まず全てを許さないことです。釣った魚に餌はあげません」
「違いますのに」
「ああいう方はそれはもてます。女が群がってきます。その時にみっともない立ち振る舞いはいけません。別れても傷になります」
「違いますのに」
「聞いておいた方が良いですよ。それと追うと逃げられます」
「えっ」
「男なんてそんなものです。良い男はしつこくされると逃げるものです」
あの方はご自分が倒されたザコオークとオークキングを収納鞄に入れると立ち去ろうとしました。
「お待ちになって」
私はスカートの裾が大きく広がるのを気にせずあの方の下へ駆け寄りました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます