第4話 修行完了

Side:スルース


 修行に入って、それから9年。

 16歳だ。

 さあ、今日こそはミスリルワームを一撃で倒すぞ。

 派手に採掘していると、地面から振動が伝わってきた。

 掛かったな。


「シギャー」

「【アラーム、シャープエッジ、バインド、バリヤー、ロール、エクスプロージョン、クールウォーター】」


 ジャキンという音が洞窟に響き渡る。

 鋭刃の魔法で鉄の杭の先端が、青い光を帯びる。

 その杭が空中に固定される。

 杭の後ろに結界ができた。

 杭が回転魔法で回転し始める。

 爆発。

 杭はミスリルワームの脳天に突き刺さった。

 プシューという音がして水蒸気が立ち込める。


「くー、堪らん」


 あの硬い、ミスリルワームの脳天をぶち抜いたぞ。


 ようやく、ミスリルワームを1撃で倒せるようになった。

 まず、ジャキンという音は、アラームの魔法で再現した。

 アラームの魔法は本来の使い方は、襲われた時などに味方に音で知らせるものだ。

 『敵だ!』みたいな音声から、ピーっという甲高い笛の音まで可能だ。

 ならジャキンという金属音も出来るだろう。


 回転魔法を適用するのは簡単だった。

 杭を―保持するバインドの魔法をわざと少し緩くするのがコツだ。

 ちなみに回転魔法は何に使うかと言えば、本来は石臼を惹くのに使う。


 だがそれでもミスリルワームには届かなかった。

 連打も無意味だった。

 決め手は鋭刃という包丁の切れ味をよくする魔法。

 これでなんとかなった。


 今日で修行は最後になった。

 祝杯を上げよう。

 酒は商人から買った。

 そうそう、ミスリルワームの素材は1匹で金貨100枚を超えた。

 何であんなミミズが高いんだろう。

 分からんがまあ良い。


 収納鞄という金貨1000枚する魔道具も二つ買った。

 これは、小さいのにたくさん入るという便利道具だ。

 ミスリルワームの死骸をやり取りするために使っている。


 あの木の洞の地面を掘ると収納鞄が現れた。

 俺は今日仕留めたミスリルワームが入った収納鞄を手紙と一緒に埋めた。

 採掘を終えるという内容と、今回の代金はいずれ店に貰いに行くと手紙に書いた。

 収納鞄から金貨を取り出すと、俺にしか分からないであろう石の下に埋めた。


 収納鞄に身の回り品を全て入れる。

 あとは洞窟の入口を塞ぐだけだ。

 石を積んで土で間を埋める。

 苔や草を植えたら完成だ。

 目印に墓石みたいなのを置く。

 その墓石にはパイルパンガーで穴を開けた。


 よしこれで良いな。


 石に手を合わせた。

 お世話になりました。


 これからどうするって?

 決まっている。

 パイルバンカー最強を証明するのだ。


 ミミズに勝ったぐらいで、いい気にはなれない。

 きっと世界には強敵がたくさんいるに違いない。


 地図も商人から貰っているが、とりあえず街道を西に行くか、東に行くかの2択しかない。

 東に行こう。

 何となく都会と言えば東京というイメージだからだ。

 東の方が良い事がありそうな気がする。


 とりあえず、Cランクから上のモンスターは全部やろう。

 村に着いた。

 村人の視線が険しい。


「泊めてほしい。金ならある」

「お前、山賊だろう」

「えっ」


 ええと、収納鞄から一番良い服を取り出して着替える。


「服じゃ騙されないぞ」


 ええと。

 手鏡で顔を見ると、髭とざんばらな髪。

 ああ、山賊ルックだな。


「誰でも良い、ここで散髪してくれ。金貨1枚やる」


 俺は金貨を出してチラつかせた。

 金貨で村人の目つきが変わった。

 瞬く間に俺の髪が整えられ、髭が剃られた。


 さっぱりした。


「収納鞄をお持ちなら、どこかの没落貴族様ですか?」


 村長が揉み手して尋ねた。


「勘当された貴族の息子だ」

「ほう、それは大変でございました。今日は我が家にお泊り下さい」


 村長が気を許したのは、俺が腰からぶら下げていたのが鉄の杭だったからだろう。

 ハンマーがあれば立派な鉱夫だ。

 きっと山師だと思われたんだな。

 あながち間違っていない。

 鉱山は発見してウハウハだからな。


 夜、足音で目が覚めた。

 俺は鉄の杭を抜くと、人影の後ろに回り杭の先端を喉に押し付けた。


「ひぃ」


 声は若い女だった。

 ええと、夜這いか。


 貴族の血は色々と凄いからな。

 まず、魔力量が多い。

 俺は調べてないがやはり多いのだろう。

 魔力切れになったことがない。


 それと、魔法の才能もか。

 魔法の多重起動は難しいらしい。

 俺は最初からできてたが。


「悪いことは言わない。血を盗むとこの村を壊滅させるぞ。パイルバンカーでな」

「はい、しません」

「分かれば良い」


 女は足早に去って行った。

 ふう、油断も隙もないな。

 俺は子供を置いて武者修行に出れるほど冷血ではない。

 きっと子供を残して行くと、パイルバンカーが鈍る。


 それは困る。

 我が技に一点の曇りがあってもいけないのだ。

 きっとそれが生死を分ける。


 俺が愛するとすれば、背中を預けられる戦友みたいな女だ。

 だが、本来の俺は常に守っていなければいけないような弱い女が好みだ。

 たぶんこの相反した条件に合致する女は現れないだろう。

 結婚するなら、パイルバンカーを極めてからだ。


 そんな日が来るのだろうか。

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