第3話 修行
Side:スルース
そんなこんなで一ヶ月。
「坊主、頼みがある。硬い岩盤にぶち当たった。俺の勘ではその向こうに鉱脈がありそうなんだよ。いっちょやってくれ」
「はいよ」
お安い御用だ。
パイルバンカーに打ち抜けない壁などない。
「【バインド、バリヤー、エクスプロージョン、クールウォーター】、とうりゃ」
パイルバンカーが打ち込まれ、鉄の杭がひしゃげて、水蒸気がモクモクと上がった。
プシュー音もする。
良い感じだ。
我ながら良いパイルバンカーだった。
だが、岩盤は崩れていない。
パイルバンカーが負けたのか。
いや負けじゃない。
敵を舐めてただけだ。
もう油断しない。
岩の目というかひびが入りそうな場所と角度を聞いた。
「【バインド、バリヤー、エクスプロージョン、クールウォーター】、ぐぬぬ」
ガラガラと岩が崩れる音がした。
やった。
やはりパイルバンカーは無敵だ。
弱点にパイルバンカーを打ち込むのも醍醐味なんだよな。
プシュー音が心地いい。
一年が経った。
7歳だ。
金もだいぶ貯まった。
考えていることがある。
誰もいない山でひとり修行したい。
だってもう鉱山の生活ではパイルバンカーが発展しない気がする。
ロックワームも楽勝だし、硬い岩盤もへっちゃらだ。
岩の目を読む技術も習得した。
さあ、どこで修行しよう。
良さそうな岩場を街道脇に見つけた。
硬そうな岩で実に良い。
さあ、掘るぞ。
掘りまくった。
あれっ、これは鉱石じゃないのか。
食料が尽きる前に何か鉱石が出た。
街道まで出て商人を捕まえる。
「鉱石なんだが買うか?」
「鉄鉱石は御免ですね。手間賃にもならない」
なんか正直者という商人だな。
「これだが」
「ええと、こ、これはミスリル鉱石じゃないですか。どこでこれを」
「秘密だ」
「一袋、金貨10枚で買わせて頂きます。まだ欲しいですから。受け渡し場所を決めておきましょう。あなたがそこに鉱石を置くと私がお金を置く」
「よし、作ろう」
木の洞に場所を決めた。
調味料や食料品を仕入れた。
肉は動物を殺せば良い。
猪のでかいのなんか食いきれないほど肉が採れる。
鳥とかパイルバンカーで獲れないかな。
試してみよう。
「【バリヤー、エクスプロージョン、クールウォーター】」
爆発が起き、衝撃波が空に向かって放たれる。
鳥が落ちた。
うん、やはりパイルバンカーは最強だ。
今回のは空砲だが。
1年の鉱山暮らしで獲物の捌き方は覚えた。
俺って何がしたいのかな。
ふと考えた。
決まっている、パイルバンカーを極めるのだ。
そしてありとあらゆる物に一撃必殺をかます。
パイルバンカー最強を証明するのだ。
ミスリル鉱石は堅くて修行にちょうど良い。
鉄の杭だと負けるが、岩の目に攻撃を加えればなんとか勝てる。
金の使い道はないが、あって困ることもない。
隠して置けば問題ないからな。
そして、奴に遭った。
この振動はロックワーム。
出て来たのは銀色に輝く胴回りが2メートルはある、ロックワーム。
いやこいつは噂に聞く、ミスリルワームか。
「【バインド、バリヤー、エクスプロージョン、クールウォーター】」
パイルバンカーを打ち込むも、ミスリルワームに当たって火花を散らしただけだ。
鉄の杭もひしゃげている。
ミスリルワームは体を震わせると、拘束の魔法を振り払った。
「ギシャー」
くそっ、パイルバンカーが負けるのか?
いいや、危機一髪からの逆転。
それが醍醐味ってものだろうが。
絶対に勝つ。
所詮ミミズ。
「掛かって来い。ミミズ野郎」
突進を避ける。
ロックワームの弱点なら知っている。
脳みそと、腹の一部分。
脳みそのところの皮は堅い。
腹の一部分はそこが柔らかいのだ。
だだ、それは土の中にあって、普通攻撃できない。
突進してから裏返せば、腹を攻撃できる。
ミスリルワームは胴体を土の中に入れて頭だけになった。
また突進してくるだろうな。
「へいへい。ミスリルワーム、ビビってるよ。打ち返してホームランだ」
挑発が効いたのか、ミスリルワームが突進してきた。
ここっ。
「【バインド、バリヤー、エクスプロージョン、クールウォーター】」
ミスリルワームの後頭部の部分、その下には脳みそがあるそこにパイルバンカーを打ち込んだ。
尖った杭ではない平らな奴だ。
ミスリルワームにはもろ衝撃が伝わったはず。
どうだ。
ミスリルワームは動かない。
「【バリヤー、エクスプロージョン】」
弱点の腹部分で爆発を起こす。
ミスリルワームが持ち上がった。
「【バインド、バリヤー、エクスプロージョン、クールウォーター】」
鉄の杭を素早く差し込んで、パイルバンカー。
ミスリルワームは銀色の血を流した。
どうやら勝てたようだ。
やはりパイルバンカーは最強。
危機に陥ってからの逆転。
爽快というほかない。
これこそがパイルバンカーだ。
ここでの修行はミスリルワームを一撃で倒せるようになったら卒業だな。
脳天をぶち抜いて一撃。
それが理想だ。
どうやればそれが可能か。
時間ならある、ゆっくり考えよう。
俺のパイルバンカーはまだまだ進化する。
邪道だが。
パイルバンカー連打という手もある。
回転を加えることも可能だ。
ふふふ、楽しみだ。
それにセットする時のガシャンという薬莢装填音もほしい。
あれがあるとぐっと盛り上がる。
プシュー音だって、結界の形を試行錯誤してできたのだから、できるはずだ。
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