14 幕間・“光”と“闇”は踊り舞う

 ルクスとカレンの攻防により廃墟はいきょ同然となった聖堂にて、ラスタ・エトワールは考える。


 死にかけの師匠カレンと、その前に立つルーク――ルクス・テラーを見て、思わず飛び込んだその場所で、自分はどうすべきかを。


 ラスタの目に映るのは、口角を上げ、目を輝かせ、手解きの最中とは打って変わった表情を浮かべる友の姿。


 ――こんな状況になってまでルクスを敵とみなせない自分自身に、呆れより先に笑いがでる。


「(師匠を傷つけられた怒りがある。コイツが俺の故郷を壊した教団のトップだと分かった悲しさがある)」


 それでも――


「(……それでも、俺は嬉しかったんだよ。全部失った俺の横に並んで、一緒に進もうとしてくれて)」


 聖神大祭中の、短い期間での付き合い。

 長さで言えば『聖騎士』や師匠の方が長い。

 

 ――だが城塞都市の襲撃があってから、ラスタが一番心を開いたのは“ルーク”ルクスだった。


「(あの日の悲劇を、誰にも味合わせたくないと思った。あの日の恐怖を、もう味わいたくないと思った。“闇”の中でも一際輝ける、誰もが目指すべき“光”になると誓ったのも本心だ)」


 ラスタ・エトワールに、ルクス・テラーのような力はない。

 何を捨ててでも夢を叶えようとする、強い意志がない。

 どんな状況でも、自らの理想を押し通そうとする芯がない。


「(そんな俺がかたる“光”よりも、お前の語る“光”の方が、まぶしく見えた)」


 ――それは、はたから見ればマッチポンプと呼べるモノなのかもしれない。

 

「(きっと……俺は、お前に憧れたんだ。お前の言葉には熱が宿っていて、コイツの願いなら手伝ってやりたいと思える魔力があって、人を惹きつける実力があって。

 ――まるで、俺が目指すべき“光”の答えを見せつけられている気がした)」


 だから聖堂の屋根を消し飛ばし、大扉から入って来た“ルーク”を前にして、わめくしかできなかった。

 

 師匠から逃げろと言われた時も、口では『戦わないといけない』と叫びながら、心の奥底では安堵あんどした。

 

 水晶に飛ばされて、聖堂から逃げ出した先で、何も出来なくなった。

 

 ――ルクスと向き合っている今も、本当は逃げ出してしまいたい。


「結局、分かんなかったよ」


 声が震えているかもしれない。

 ルクスの口角が更に上がり、隠しきれない彼の戦意が場を包む。


「師匠の言葉も。ルークの態度も」


 本当に彼が邪神教団の最高幹部なのか。


「何かの間違いだと思った。お前にも何か事情があるんだと思いたかった」


 “ルーク”には城塞都市で感じた、深い“闇”の中でうごめく、狂気の如き邪悪さが無かったから。

 彼の剣はどこまでも真っ直ぐで、理想の為に突き進もうとする“ルーク”という男を、そのまま表しているように思えたから。


「師匠に飛ばされて、そのままフレイのとこまで逃げようと思ったんだ」

 

 迷った。『聖騎士』フレイに頼めば師匠も無事で、“ルーク”も捕まえられて、全てが丸く収まると思った。

 でも、自分がフレイを呼びに行っている間に師匠は倒されて、“ルーク”は去り、何も分からないまま終わる可能性もあると思えた。

 

 ――ともすれば、師匠が“ルーク”に殺される未来も思い描けた。

 師匠は彼を殺してでも倒そうとしていたから。

 “ルーク”は自分を殺そうとする相手に躊躇ためらいなく剣を振り下ろすと思うから。

 ……彼は、師匠よりも強いと感じたから。

 

「あの日、俺の選択は子供たちアイツらを死なせた。

 ――でも。今日、俺の選択は間に合った」


 悩みに悩んだ果てに、ラスタ・エトワールは『聖騎士』という絶対強者ワイルドカードを選ばなかった。

 

「俺の手の届く範囲で、誰も死なせない。師匠も、お前も。俺はまだ、何も分かってないから」

 

 あの日、ラスタは子供達を先に逃すという選択をとり、自分だけが生き残った。

 そして、今日。ラスタ・エトワールの選択は、師匠の死という最悪の未来を間一髪で先延ばしにした。


 それは彼の選択と、彼がまとっているからさずかった、癒しと強化の力を持ったのおかげ。

 

「師匠も言ってた。仲違いをしたなら殴りあえって。

 ――めちゃくちゃ早いが約束だからな。今からお前を倒す」


 ――なんで、お前は俺を鍛えたんだ。

 ――どうして、お前が邪神教団の最高幹部なんてモノをやっているんだ。

 ――あの時、お前が見せた輝きは本物だったのに、お前は何を目指して“闇”の中を進んでいるのか。


 分からない。

 ラスタ・エトワールは、“ルーク”ルクスの心を推察できるほど賢くもなければ、“ルーク”ルクスが歩んできた道を知らなすぎた。


 自分が“ルーク”を友として見ているのか、ルクスを敵として見ているのか、分からなくなっている。


 全てを失ったラスタの手を掴んだのも“ルーク”ルクスで。

 師匠をボロボロにしたのもルクス“ルーク”で。


 ――何も分からないからこそ、目の前のコイツを分かる為に剣をとる。


 ラスタがルクスに向けるのは、炎と同じく、授けられたばかりの


「(新しい力を手に入れた俺が、お前を相手にして勝てる……そんな訳がない。今の実力じゃ100回やっても、1回も勝てない。そんなこと、ここ数日で散々戦ってきた俺自身が一番理解してる。

 ――でも、ここでお前を逃したら何も残らない。何も分からないままだ)」


 師匠に分けた炎が、彼女がまだ生きていることを伝えてくれる。

 握った金色の剣は、これまで手にして来たどんな武器よりも頼もしく思える。


 肉体をいやし、強化する炎と、どんなモノでも斬れそうな最上級の黄金剣。


 ――そんなデタラメな力を手に入れても、目の前の男に勝てるイメージは一切湧かず。


「(それでも、引けない。ここで引いたら、俺はあの日のまま、何も進んでいないことになる)」


 故に、金色の剣をルクスに向けた。

 それは不退転の覚悟の現れか――あるいは、その身の震えを捨てる為か。

 手解きの時の未熟な意思でなく、何をしてでもお前を倒すという本物の戦意をもって、ラスタは叫ぶ。

 

「悪いが手加減はできねー。師匠の分まで死なない程度に……そうだな、半殺しだルーク――いいや、ルクス・テラーッ!」


「クク、フハハハッ! 御託ごたくはいい、来いッ! 主人公君――ラスタ・エトワールッ!」


 手解きの時とは全く違う、“ルーク”ではなく“ルクス・テラー”としての表情。

 

 笑みを浮かべながら突撃してくるルクスに対し、ラスタも前進して立ち向かう。


 禍々しいオーラをまとう黒剣と、ほのかに光輝く黄金剣。


「ラスタッ! どこで、いや、どうやってこの剣を手に入れた!? その炎も、この剣も、俺がカレンとやり合っている間に手に出来るはずが無いッ!」


 つばり合いの最中、ルクスが目を輝かせながら言った。


「お前に言う訳ないだ、ろッ!」


 その疑問を、ルクスを蹴り飛ばしながらラスタが一蹴いっしゅうする。


「それより、本気でやれよルクス・テラー。俺はお前を全力で倒す。お前が何を考えてるのかなんて分からないから、お前を倒してから考える」

 

 明らかに避けれたラスタの蹴りを、マトモに喰らったルクス。

 手解きの時に見た技も使わない彼に、ラスタは告げた。


「ああ、そうだ。悩んで立ち止まる暇があるのなら、何も考えずに進む方がお前に合っている! 俺もお前にならって、今は炎も剣も捨ておこうかッ!

 ――もっと、お前の輝きを魅せてみろッ! ただ、師匠諸共俺に倒されに来たわけではないのだろう!?」


 ――気に食わない。


 まるで手解きの延長線上のような、ラスタの技なら全て受け止められると言わんばかりの態度。


 半殺しにしてやると言ったが、実際に半殺しにされるのは自分の方だろうと考えていた。

 ちょっと回復力が上がって、力も上がって、武器も強くなった程度でルクスを上回れる程、彼我の実力差は小さくないと考えていた。


「(確かに、俺とお前じゃ強さに差がある。そんな事、お前を倒すと啖呵たんかを切った時点で分かってた)」


 ――だけど、気に食わない。

 

「そうだ、教えてやろうか? この黒剣は斬り傷から侵食し、相手を喰らって強くなる邪剣。傷一つが命取り。お前の師匠も、邪剣によって倒された」


 ラスタの剣撃をかわしながら、悠長に喋り続けるルクス。

 全ての攻撃を完璧に見切り、その上で紙一重の回避を見せている。

 ルクスを倒そうと剣を振り回すラスタを嘲笑うかのような振る舞い。


「つまりお前の師匠は、今なお邪剣に食われ続けているぞ?」


 ――ラスタはその言葉を耳にした瞬間、ここに来るまでで手に入れた、対ルクス用の手札の一つを切る事に決めた。


「サラ、上げろ」


 ラスタが身にまとっていた炎が激しく燃え上がる。同時に、カレンに分け与えていた炎の勢いも増す。


 ラスタ・エトワールに炎を授けた者曰く、その炎は味方には祝福を、敵には災いを与える加護。


 カレンの炎は、邪剣に侵食されていた黒い切り傷を焼いて癒した。


 そして、ラスタの炎は――


「らぁッ!」


 ――彼の身体能力を引き上げた。


 突如として上昇した身体能力は、ラスタの剣速を上げることに繋がり。


「ッ!」


 ――余裕こいてギリギリで回避を続けていたルクスの腕を斬り裂いた。


「熱いな、ラスタ。お前もそうは思わないか? 加護の効果を上げれば熱さも上がる。火傷ごと癒すのならともかく、許容範囲外の身体強化だけだと熱が残る。現に、顔も赤くなっているぞ」


「ハッ……熱いじゃなくて、痛いじゃないか?」


「ん、腕のかすり傷のことか? この程度、すぐに痛みも引く。ほら、既にご覧の通り……っ!」


 ラスタの言葉に、笑いながらルクスが答える。

 事実、斬られた腕の傷は浅い。

 

 そして、これ見よがしに腕を振ってみせたルクスは気づく。

 ――腕の痛みが引くどころか、どんどん増していっていることに。


「どうした? かすり傷なんだろ? 笑ってみせろよルクス・テラー」


 ルクスの笑みが消える。


「ああ、お前が教えてくれたんだから、俺も教えてやるよ。つっても、俺もよく分かってねーんだけどな」


 ラスタ・エトワールが授けられた黄金剣。

 ――それは、『原作主人公』の専用武器。


「なんでも、この剣をくれたヤツ曰く、コイツは『星を滅ぼす可能性のある邪悪な存在』を倒す為に、星が生み出した星のつるぎ


 原作において、邪悪なる神を滅ぼした聖なる剣であり剣である武器。

 人が神を殺すという、不可侵にして不可能な事象を引き起こした星造武器。


「相手によっちゃ、神すらも滅ぼせるらしい。半信半疑だったけど、その様子じゃマジみたいだな。

 ――本気で来いよ、ルクス。お前相手に加減はムリだ。別に、お喋りは自由だが……斬りどころが悪ければ、死ぬぞ」

 

「……クク、お前に殺されるなら、それも一興だが……流石に舐めプかました挙句に死ぬのは勘弁だ。まだ神器も回収できていないし、聖都には『聖騎士』も仲間もいる。

 ――加減せず、殺す気で来ると良い。俺はお前を殺しはしない。全てを出し切って負けろ」


「――勝手に言ってろ。足元すくってやるからよッ!」


「フッ、お前が俺を倒すのは、少なくともじゃあない」

 

 ルクスと斬り合いながら、ラスタは思考を回す。

 

 もう、加護の炎の許容限界突破という手札は切った。

 身にまとう炎には、癒しの力と強化の力が宿っている。

 師匠であるカレンの切り傷を焼いて癒す為、ルクスに一撃を与える為、二つの目的で使ったソレ。

 許容範囲内であれば熱を感じない強化の炎は、範囲外まで上げたラスタの肌を焼いている。

 

 今、強化倍率を下げればルクスの動きについていけず。

 このままであれば、ラスタ自身が炎に焼かれて死ぬ。


「(頼むぜ……一人でルクスと戦えるほど、俺には勇気も実力も足りてない)」


 待っているのは二つ目の手札。

 事前の話通りなら、その手札が完成すればこの熱さも消える。


「(熱い。痛い。串焼きにでもなった気分だ。今すぐ熱さや痛みから逃げてしまいたい)」


 でも。


 ――首を刈られた子供たちアイツらは、もっと怖かったはずだ。


 ――体を喰われながら戦った師匠カレンは、もっと痛かったはずだ。


 この剣も、この炎も、ラスタ自身の力ではない。


 この場でラスタ自身が積み上げたと言えるのは、この身体のみ。


「(俺だけが何も差し出していないなんて、フザケタ話だ。俺の体が焼かれるだけで、ルクスとちゃんと戦えるなら……それは安すぎるだろッ)」


 ルクスの邪剣が、ラスタの身を斬る。


「どうした。熱さで頭が回らなくなった――ッ」


「――もっと、燃え上がれ」


 邪剣の侵食が始まる前に、切り傷を焼く。

 傷だけでなく、肌も焼かれていくラスタを前に、さしものルクスもドン引いた。


「ッ! おい、それ以上はやめろッ! なぜ、今日はどいつもこいつも俺の前で、三途の川に全速力で突っ込もうとするんだ!」


 ルクスの叫び声が聞こえたが、ラスタは構わず身体を燃やし続ける。


「(まだだ。もっと熱く。もっと強く。じゃないと、俺はルクスの影も踏めな――――)」

 


『――おいおい、流石にそこまでしろなんて、ボクは言ってないぜ?』



 ラスタの耳に、鈴を転がしたような声が響く。

 その声の持ち主を認識した途端に、彼の身を包んでいた熱さと痛みが消えていく。


 しかしその炎の加護による身体強化は変わらずに、なんなら先ほどまでの許容限界をゆうに超えた力が湧いてくる。


『いやぁ、君に加護を適用するのに少しだけ手間取ってしまったよ。その限界突破はボクが加護の調整をして出れない間の為のモノ。君が倒されない為の力で、君が倒れるなんて本末転倒だろ?

 でも、もう大丈夫――』


 ラスタがまとう炎が動き出し、少しずつ形を成して行く。


「――君はボクの炎に適応した。契約に従い、これよりボクは君の加護として、君と共に進もうじゃないか。たとえ魔獣が相手でも、『聖騎士』が相手でも、神が相手だろうと、ボクは君を勝たせてあげよう!」


 炎から生まれたのは、一人の女。

 ラスタの燃えるような赤い髪とは違い、本当に燃えている紅髪を持ち。

 その身を飾る紅いドレスも、実際に燃えている。

 だがしかし、彼女のきめ細やかな肌には一切の火傷はない。


 その炎の女を見て、ルクスが呟く。


「――精霊……しかも、本体か。加護だけじゃなく、大本を連れて来たのか。……本当に、この短時間でどうやって剣と炎を持って来たんだ?」


「やあ、邪神の『使徒』。初めましてかな。ボクのラスタが世話になったね」


 ルクスの怪訝けげんな態度も意に返さず、ラスタに加護を授けた女――精霊は話しかける。


「しかしねぇ。世界を滅ぼしうる致命的な要因を排除する為に、星が生み出した“世界存続機構世界の理”の一つ――星剣が邪神や魔神みたいな神でもなく、君みたいな人間如きに、あそこまで特効を発揮するなんて……。

 ――なにか、自らの邪悪な行いに心当たりはあるかい?」


「……さて、な。俺もかすり傷一つで、ここまで痛みを感じたのは初めてだ。善人とは言わないが、中庸ちゅうような人間だと思うのだがな。道ゆく人100人に尋ねれば、誰一人として俺のことを邪悪とは呼ばない、その程度の凡人さ」


「ハハハ、それは道ゆく人100人全員、答えを聞く前に君が斬り捨ててるだけだろ? うん。まあ、君が邪悪かどうかはあまり重要じゃない。重要なのは『星を存続させる為には君を倒さないといけない』と、星剣を通じて“星”が訴えてるってことだよ」


 精霊はラスタの肩に手を回しながら告げる。


「さあ、ラスタ。反撃の時間だ。目の前のいけすかない男をボコボコにしてやろう。君の師匠は、ボクの炎が絶えない限り死にはしない。……もっとも、君が敗北し、彼が彼女を害そうとすれば、か弱いボク一人じゃ抵抗できないんだけどね」


「俺は、死にかけの人間を害するほど落ちぶれてはないぞ。人の悪評を吹き込まないでもらえるか?」


「おいおいおい、君はこれ以上落ちぶれる先がないほどの落ちぶれ具合だろ。君が近づいたラスタ君は、君の指揮のもと故郷を壊され、君に師匠を殺されてるんだぞ! ……おっと、師匠はまだ死んでなかったね。でも、そんな絶望を味わってなお! 彼は君を知ろうと歩み寄ってる!

 ――ああ、とっても健気で、……とっても反吐が出る」


 ニコリと笑いながら、精霊は歌う。


「お前みたいな男、敵とみなしてサッサと殺せば良いのに。まあ、君はゴキブリをも上回る生存力と、ハエの如き素早さで逃げ回るから、簡単に殺せないんだけどね。かわいそうなラスタ。こんなヤツに目をつけられて、君の“光”はずっと曇ったままだ」


「人のような肉体もなく、神のような権能もなく、人に加護を与えることでしか存在できない寄生虫が何か言ったか?」


「フフ。このゴミクズが。世界の為にサッサと死ね」


「サラ」


 ルクスと精霊の掛け合いを無視して、体の調子を確かめていたラスタが声を上げる。


「ああ! なんだいラスタ?」


「今できる動きは何となく分かった。たぶん、今の強化倍率じゃ、ルクスには届かない」


「まあ、このクズは歴戦のクズだからね。そう簡単には行かないさ」


「足りない分は動きで補う。……それでも、俺一人じゃ勝てない。お前は準備をしてくれ」


「任せたまえ。ボク達の切り札は、必ずこの男を倒せるよ」


 ラスタは星剣を構える。


 ルクスに対して、だいぶ毒のある彼女と出会ったのはつい先ほど。


 星の剣も、炎の加護も、全て彼女から授かったモノ。


 ルクスを倒したい彼女と、“ルーク”と話をしたいラスタ。


 両者の願いは奇跡的に噛み合い、対ルクス・テラー共同戦線が張られたのだ。


 最初の手札、加護の許容限界突破。


 次の手札、炎の加護への適応。


 思い起こすのは、彼女との出会い――そして、彼女が語ったのこと。


「少し力を抜くと良い。ボクの炎はすごいけど、使う人間次第で大きく変わる。ボクは君が戦う為の舞台を用意しただけ……ここから先は正真正銘、君の力で乗り越えるんだ」


「分かってる」


「分かってないさ。君はたまたま選ばれたんじゃない。君の言葉に、ボクは“光”を感じた。だから、力を渡した。君の実力で、君は選ばれたんだ。

 ――それに、君が引っ掛かっているのは降って湧いた力にではなく、相手に対してだろ?」


「……俺は」

 

「あれだけの絶望を味わってなお……いいや、味わったからこそ、一度でも心を許した相手を敵と見れない君の感性は間違ってない。とても優しくて、いつだって正しくあろうとする君の性根をよく表してる」

 


 ――お前は何を思っているのか。

 

 分からないから。

 

 知りたいから。

 

 ――だから、戦う。

 


「思う存分、ぶつけると良い。彼には君の激情を受け止める義務があり、彼もそれを望んでいる」



「――仕切り直しだ。来い、ラスタ」



「――ああ、行くぞルクス」

 


 ――ルクス・テラーとラスタ・エトワールの戦いダンスは加速する。


 

 

 これは、“光”を目指す男たちの物語。

 “光”と“闇”のワルツは続く――


 

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