6 幕間・かくして役者は舞台に揃う

 聖王国王都。騎士団の訓練場の一つにて、一人の青年が剣を振るっていた。


「フッ、4998……!」


 集中しているのだろう、額から流れる汗も意に返さず。

 彼は熱心に剣の素振りを行なっている。


「4999……5000っ!」

 

 歴戦の騎士から見れば、その姿はまだまだ未熟。

 さりとて、青年が剣を手にしてから一月も経過してない事を考慮すれば、多くの人が彼の才能と努力を褒め称えるに違いない程度の実力は身についている。


「ハァハァ……」


「やあ青年。鍛錬たんれんはかどっているかな……と言っても、その姿を見れば一目瞭然いちもくりょうぜんだけどね」


 ひとまずのノルマを達成し、素振りをやめて休憩し始めた青年に、一人の騎士が話しかけた。

 青年の鍛錬がひと段落したタイミングを見計らっていたその男は、ほがらかな笑みを浮かべて訓練場に入ってくる。


 青年はその騎士に気づくと、すぐさま姿勢を正した。


「あ、フレイ……さん!」


 現れた男こそ――聖王国の最高戦力、『聖騎士』アダムス・フレイ。


「や、久しぶり。にしても見違えたじゃないか。最初は剣を振り上げて下ろす事すらままならなかったのにね。今なら、下級騎士ぐらいだったらマトモにやり合えるんじゃないかな」

 

 つい先日まで凡百の市民であった彼の成長速度は、かの『聖騎士』ですら舌を巻くものだった。

 青年はフレイからの賞賛を受け、気恥ずかしそうにしながら言った。

 

「ありがとう。でも、凄いのは俺……じゃなかった。凄いのは僕じゃなくて、教え方ですよ。僕なんてまだまだ全然足りない……です。もっと、強くならないといけない」


「ハハハ、確かに教え方も良いんだろうね。そこは彼女に感謝だ。それでも、君の努力がなければ成長はできない。素直に僕――『聖騎士』からの賞賛は受け取るものだよ」


 それに、と青年の謙遜けんそんに対してフレイは続ける。


「君が自分を下げると、間接的にその君をスカウトした僕自身も下げることになる。ここはアレだ、僕の顔を立てる意味でも喜んでおくべきなのさ。『僕は偉大なるイケメン聖騎士に選ばれた、偉大なる騎士見習いだぞ! もっと褒めろ!』ってね」


 フレイはニヤリと笑いながら、バツの悪そうな顔をする青年の肩を叩いた。


「ごめん、じゃねーか。すいませ――」


「それも、さ」


「あ?」


「僕が言ったことだから、悪いのは僕だけど……わざわざ言葉を取り繕わなくて良いよ。騎士が紳士的な言葉を使うべき……って言うのは古い考え方だ。今はほら、多様性の時代だからね。多少言葉づかいが荒くても文句は言われないさ」


 フレイは「あ、敬語は良いのかって? 僕は敬語で壁を建てられるよりも、フランクに話しかけて欲しいからさ」と述べた。


「あー、分かりま……、いや、分かった」


「うんうん。それで、ここでの暮らしはどうだい? ないとは思うけど、イジメられてたりする?」


 青年が王都での暮らしを始めてから、あまり時間は経っていない。

 新しい暮らしに慣れたかどうかと聞かれれば、あまり慣れてはない……と答えるしかないが、それは急に環境が変わったのだから当たり前と言えば当たり前だ。

 故に、彼は無難に返答することにした。


「あー、特に問題はないな。師匠は良くしてくれてるし、他の騎士の人たちも構ってくれる。うん。充実した毎日ってヤツだな」


「そうかい! なら良かったよ。僕が連れてきた手前、君に何かあったら申し訳ないからね。それに、あの日の事もあるし」


「……フレイさん……いや、フレイ。何度も言ってるが、俺が王都に来たのはあんたの責任じゃなくて、俺の選択だ」


 青年はフレイの目を見つめて告げる。


「あの日、俺は何も出来なかった。なんでか? 力が無かったからだ。弱かったからだ。だから子供たちを自分で守るという選択を出来なかった。だから、俺だけが生き残っちまった」


 そう語る彼の言葉には、深い悔恨の情がこもっていた。


「! いや、それは僕が間に合わなかったから――」


「ちげーよ。あの場にいたのは、なんでもできる『聖騎士』じゃなくて、何も出来ない愚者だった。俺はあの時、あの女に一度殺された。心を折られちまった」


 目をつぶる。

 まぶたに浮かび上がるのは、あの日の光景。

 ――ナイフを持って襲いかかる、悲しい襲撃者被害者

 

 ――こちらを睨みつけるような、子供達の空っぽの眼孔がんこう


 ――死神と見間違えた、頭のおかしい怪物リンリー


 ――そして、手から全てをこぼれ落としながら逃げ去った、弱すぎる愚者自分自身


「全部あんたの責任だと……フザケルなよ。何も出来なかった俺が、多くを救ってきた『聖騎士』あんたを責めるなんて、あっちゃならない。そんな事をすれば、今度こそ俺は本当に死ぬ。自分の弱さに殺される。

 ――だから、アイツらが死んだのも、俺が生き残ったのも、全部俺の選択で、俺の責任なんだよ」


「……僕じゃくて、邪神教団のせいではあるだろう。彼らがいなければ悲劇は起こらなかった。それでも、君は自分を責めるのかい」


「分かってる。あのイカれた女がいなければ、俺は今でも笑って暮らしてたのかもな。でも、現実は違う。

 ――俺は知ったんだよ。教団のヤツらを恨むのは簡単だ。俺がこれまで選んできた“簡単な道”だ。ヤツらを憎んで、どっかの街でのうのうと生きるのか? そんで、また襲われるのか?」


「それは……」


「あーコレ、前にも言った気がすんな。……世界は悲劇であふれてる。悲劇を覆すには、弱い自分を捨てなければならない。だから俺は選んだ。あんたの手を取り、王都ここにきた。剣をとって、力を求めた。

 ――二度と、あんな思いをしない為に。あんな悲劇を、誰にも味合わせない為に」


 まだ、青年は覚えている。彼には自覚はないが、夜中にうなされる程に魂に焼き付いている。

 

 のぼる火の手。響く悲鳴。子供を逃した時の決意。襲撃者を殴った感触。フードの下を見た衝撃。イカれた女を見た時の絶望。自身を呼ぶ死神の腕。聖槍の輝き。前に立つ騎士の背。醜い嫉妬の心。


 あの日、彼は絶望を知った。どん底を見た。深い闇に溺れた。

 

 そして闇の中で、彼は目指すべき“光”を見つけた。


 いや、見つけたのではない。

 

 ――誰もが目指すべき“光”になることを、誓ったのだ。








 


*――*――*


 ――時はさかのぼる。

 

 邪神教団幹部たちによる、何の生産性もない――なんなら、壁の修繕費などから見ればマイナスですらある――幹部会が行われる数日前。

 つまり、邪神教団による城塞都市襲撃が行われた数時間後にて。


 一人の青年が、青すぎる空を見上げていた。

 周囲は瓦礫がれきばかり。ここが、昨日まで活気ある明るい街だったなんて、誰に言っても信じないだろう。


 既に襲撃者たちはリンリーとルクス主犯を除いた全員が捕らえられ――その全員の死亡が確認されたらしい。

 

 街の生き残り――数えられる程度になった市民を集めて行われた説明で、襲撃を耐え切った領主の騎士から教えられた事だ。

 もっとも、その騎士が主としていた領主一家は、一人残らず首をっ斬られ、無惨に殺されていたようだが。

 そしてその犯人が、青年が領主の城へと逃した子供たちを殺したイカれた女リンリーと同じだという事も、青年は否応にも察した。


 彼が殴った襲撃者と同じように、街の襲撃者全員に『顔を見られると死ぬ』、『人を殺さないと死ぬ』、二つの効果を保持した首輪が付けられていたのだとか。

 彼らは邪神教団の者により、人を殺す事しか出来ぬ身体にされていたようだ。


 襲撃前の、人並みの正義感を持っていた青年であれば、邪悪なる教団の行いにいきどおったであろう。


 しかし、今の青年には何も無かった。

 故郷も。家族も。友人も。子供たちも。

 街を襲った教団に対する、怒りすらも無かった。


 見るも無惨な街の中を、一人で歩く。


 死体などは既に集められたらしいが、血や死の匂いは残っている。


「……あそこのパン屋は美味しかった。……鍛冶屋のじっちゃんはコッソリ剣を握らせてくれた。……空き地に行けば、遊びに誘われたっけな」


 ――美味しそうな焼きたてのパンを入り口付近に飾り、城塞都市の主婦の間で評判だった店は、ガラスが割られボロボロになっていた。


 ――自慢の武具を街の腕っぷしに分け与え、店主自身も大剣を片手で持ち上げて襲撃者に立ち向かった鍛冶屋の辺りは、他の場所よりも傷が多く、血の匂いが濃い気がした。


 変わり果てた通りを抜けて、都市の外周に辿り着く。

 魔獣などの外敵から、市民を守り抜いてきた城壁は、完全に崩されていた。


 そして、もはや壁とは呼べない崩れた城壁の向こうから集団がやってくる。


「――やっぱり、周囲に魔獣の気配はない。魔獣を呼び寄せる煙っていうのは、彼のブラフで間違ってなかったみたいだね。してやられたよ。ただ、万が一もある。君達には都市の中で警戒を頼んだ」


『聖騎士』アダムス・フレイ。

 城塞都市にいる数少ない騎士を連れて、都市周辺の探索から帰ってきたようだ。

 

 周りの騎士に指示を出した彼は自身を見つめる青年に気づき、青年の方へとやってくる。


「やあ青年。無事で何よりだよ!」

 

 フレイは人を安心させる笑みを浮かべながら、青年に話しかける。


「あぁ、あんたのお陰でなんとかな。ありがとう、助かった」


 青年は感謝の言葉を伝えるが、空元気のような、中身の伴ってない返事だった。


 そんな青年に対して何を思ったのか、フレイが提案する。


「……うん、そうかい。ちょうど良い。君に用があってね、邪神教団幹部――リンリーについて、対面した君の話を聞きたいんだ。構わないかい?」


「良いぜ。何でも聞いてくれ」


 ――構うものなんて、全部失ったばかりだからな。

 青年は心の中で吐き捨てた。





 崩れた城壁の上。

 フレイと横並びになりながら、青年は当時の状況を話す。


 彼の言葉を聞き、気になった部分をフレイが尋ねる。

 

 そして話は淡々と、比較的早くに終わった。


「なるほどね。辛い事を話してくれてありがとう」


「ハッ……もう終わったことだろ」


 口ではそう言うが、そんなはずがなかった。

 ただ現実を受け止められてないだけだと、青年自身もわかっていた。


 たったの数時間、短い時間の間に彼の現実は大きく歪み果てた。


「ハハハ……そうかい」


「そうだぜ。んじゃ終わったなら、どっか行っていいか?」


「いや、まだ用はあってね」


 もう話は終わったのだから、去って良いかと聞いた青年を、フレイは引きとめる。


「あ? もう話すことはな――――」


「すまなかった」


「は」


「この惨状は、僕のせいだ。僕がもっと速ければ、子供達もみんな無事だっただろう」


「何を言って……」


 青年の前で、偉大なる『聖騎士』が頭を下げていた。

 全てが自分のせいだと、謝っていた。


「だから、君が悔やむ必要はない」


 ――恨むなら、全てを救えなかった自分を恨んでくれ。君自身を恨まないでくれ。


 フレイの表情は青年には分からない。


「……それ、俺以外にもやる気か?」


「ああ。僕は君たちを救える力があったのに、僕はその場にいなかった。僕が助けられなかった人々には、僕が死んでからでも頭を下げよう」


 ふざけているのかと思った。

 その場に居なかったから助けられなかった。だから謝ろう?

 イカれた女を思いだす。いや、イカれ具合はこっちの騎士様の方が上かもしれない。


「……いらねーよ。そんな謝罪。アンタに、この悲劇の責任なんて――――」


「本当に? 一切思わなかったのかい? 『もっと早く来てくれれば、子供たちは助かったのに』……あるいは、『なんで自分だけ救ってくれたんだ』、とか」


 思わず、手が出かけた。

 棍棒で頭を殴られたかのような、剣で心を斬られたかのような衝撃だった。


 図星を突かれたことに恥を感じる。

 だが、それ以上に――――


「恥じることはない。君の気持ちは正しいものだ。君の怒りは正当なものだ。君には、僕を恨む権利が――」


「思ったよ。アンタが俺を女から守った時、アンタの強さを見せつけられた時、思っちまったよッ! どうしてもっと早く来れなかった! どうしてアイツらを救えなかった! どうして、……俺を死なせてくれなかった!」


 声を荒げる。

 抑えていた、忘れていた、麻痺していた感情が溢れ出す。


「……あぁ、いくらでも責めてくれ。僕は――」


「だけどなッ! それで、アンタを責めるのは断じて違う! 聞いてたぜ、他の村を救ってたんだろ? いや、『聖騎士』の名声は王国中に広がってる。これまでも多くの人々を救ってきたんだろ? そんなアンタがなんで謝る必要がある!?」


 ――怒り。

 目の前で頭を下げるフレイへの――ではない。


「なんだ? 自分を恨ませることで街は救えずとも、心は楽にしてやろってか!? 俺みたいな人間が思ったんだ、他のヤツらもアンタの事を責めたのかもな、それで気が楽になったのかもな!

 ――クソ喰らえ。アンタを八つ当たりで恨むのも、イカれた狂信者を恨むのも、どっちも簡単だろうよ。だがな、それをしたら、俺は戻れない。闇から、邪悪から出られない」


 あの時、思ってしまった。

 なんで俺を救ったと、考えてしまった。

 心が、折れてしまった。


 本当にフザケタ話だ。

 何が『故郷も、家族も、友人も、子供たちも、何も残っていない』だ。


 怒りが湧いてくる。

 それが向けられるのは、愚かで、弱くて、邪悪な自分自身。


 ――まだこの体が、思いが、命が残っている。

 

「俺はあの時、知ったんだよ。悲劇から目を逸らすのも、逃げ出すのも簡単だ。他人を恨むのは、もっと簡単だ。だけど、――それじゃあダメなんだ。俺はダメなヤツだ。闇の中にいれば、底なし沼のようにどんどん堕ちていく」


 ――だからこそ。


「俺は“光”を目指さなければならない。“光”にならなければならない。俺が闇に惹かれても引っ張り上げてくれる、“光”を持った仲間を集めなければならない」


 息を吸う。目の前の騎士を見つめる。


「たぶん、アンタは自分を恨むように仕向けてる。それで犠牲者の気が楽になるのなら、と自分の感情を殺してる。――そんな慈悲は要らない。俺は分かってる。全部、俺の弱さのせいだ。アンタなんか、恨まない」


 ――ま、全部違ってんなら笑い流してくれ。偉大なる『聖騎士』様の大きな器でな。


 青年の本音を受けて、固まっていたフレイが動き出す。


「……君は、強いな」


「あ? 喧嘩売ってんのか」


「いや、強いさ。確かに君の言うような意図があったことは認めるよ。でもね、人はみんながみんな強い訳じゃない。弱い人の方がずっと多い。彼らが救われるなら、僕はいくらでも手を伸ばすだろう。

 ――君は、本当に僕を恨まないのかい?」


「何度も言ってるだろ。俺は、アンタを恨まない。じゃあな、『聖騎士』様。アンタと話さなきゃ、俺はずっと暗闇の中を進んでた気がする。助かったよ」


 片手を振り、今度こそ立ち去ろうとする青年。


 その背に、ふと思った事をフレイは投げかけた。


「青年! 君はこれからどうするんだい!」


「んー? さあな。特に決まってねーよ」


「そうか……なら、これは慈悲じゃなくて、対等な提案だ。

 ――王都に来ないかい?」


 青年が立ち止まり、フレイを見る。

 その目は提案に対する驚きよりも、『コイツ、正気か?』という頭のおかしい人間を見る目であった。


「ハハハ……そんな目で見ないでくれ。本気だよ。邪神教団だけでなく、魔獣たちの動きも活発になってきていてね。騎士団は人手不足なんだ」


「だとして、俺を誘うことはねーだろ」


「僕が気に入った。それだけで十分だ。僕を誰だと思ってるんだい?」


「誰ってそりゃ……」


『聖騎士』アダムス・フレイ。

 彼の称号は数あれど。


 ――『王国の最高戦力、聖神騎士団を率いる団長』


「思い出してくれたかな。僕は『聖騎士』で“団長”なんだよ。ふふ、僕のお眼鏡にかなった人間を反対する騎士はいないだろうね」


「うっわ。今流行りの職権濫用上司ってヤツか? アンタの二つ名に“節穴団長のフレイ”とか追加されても知らねーぞ」


「それはそれで面白そうだね。うん」


 青年は思い出す。

 彼が気軽に話してるこの男は王国の最高戦力であり、青年の態度を他の騎士が知れば、首を刎ねられてもおかしくないということを。


 まあ、今更態度を変える気はさらさらないが。


「それで、どうだい? ならない、騎士? 衣食住完備だよ?」


「そんな気軽に進めてくんなよ」


「いや、君は自分の弱さを恨んでいたからね。騎士になれば嫌でも強くなる」


 魅力的ではある。

 今の自分は衣食住全てが危うい一般人。

 それに、散々嘆いてきた力を手に入れられる。


 考えに考えて――大体3秒くらい――青年は、フレイに差し出された手をとった。


「良いんだな? これで『ドッキリでした〜!!』とかだったら死ぬぞ? 舌噛み切って死ぬぜ?」


「ハハハ、そんなことないよ! たぶんね「は?」……って冗談はおいといて。ようこそ、騎士団へ。まあ、試験とかあるから、まだ君は見習い騎士みたいなモンだけどね」


 ――なんなら手続きすら終わってないから、見習いですら無いけど。


「そういえば、やりたいこととか無いのかい?」


「……強くなりたい」


「いやいや、そうじゃなくて。うーん、夢、的な?」


「なんで、疑問系なんだよ。そんで、失ったばかりの人間に夢ねぇ……あぁ旅がしてみたいな。俺の両親の夢だったんだよ、世界旅行。旅のついでに、俺みたいなヤツを救ってやる……って夢はどうだ?」


「良いね。復讐に明け暮れるとかよりも、よっぽど健全で前進的だ。それに騎士団で鍛えられれば、一人旅でも安心な強さをつけられる。せいね…………ん」


 フレイが言葉を詰まらせる。

 青年は疑問に思って、彼の顔を見た。


「……そういえば、君の名前は?」


 申し訳なさそうな顔で、恐る恐るフレイが聞いてくる。


「あぁ、そういや名乗ってなかったか? 俺の名前は――――」






 


*――*――*


「あ! ここにいましたか。全く、いつまでも鍛錬ばか……ふふふふ」


「「ふふふふ?」」


「ふふふ、フレイ様! 何で、こんな薄汚い木端の見習い騎士「おい」の訓練場に!?」


「ハハハ、彼を連れてきたのは僕だからね。様子を見に来たのさ。そしたら、師匠である君の教えが良いと盛り上がってね」


「もう、フレイ様。この子が私の事を褒める訳ないじゃないですか、いっつも鍛錬ばかりで私の話を聞かないバカ弟子がそんな事……え? ホントに!?」


「……ハッ悪かったな。鍛錬バカで」


「おお!! デレです! 見てくださいフレイ様! これが古の書物に伝わるツンデレってヤツですよ! すごい、このカレン、胸が熱くなります!」


「ハハハ……ほどほどにね!」


「――お前、俺を辱めるために来たのか?」


「ふぅ。え、なんですか? あぁ、要件? フレイ様もいますし、ちょうど良い……ごほん、本部からの通達です。見習い騎士、あなたに次の任務――聖なる神器の警備が言い渡されました。任務には私も同伴します……というより、あなたは私のオマケです」


「それ、ちなみに僕も参加するよ」


「まあ? 私の教えが良いようなので、下手な騎士よりもあなたの方が役に立つでしょう。私の教えが良いので!」


「……そうかい。んじゃ、見習い騎士ラスタ・エトワール。拝命した」

 



 


 光堕ちを目指し続けるイカれた男――『使徒』ルクス・テラー。

 

 自らの眷属を闇から逃がさないようにする女神――『邪悪を振り撒く者』邪神ちゃん。

 

 神に愛されし最強の体現者――『聖騎士』アダムス・フレイ。

 

 陰りなき光を目指す者――『』ラスタ・エトワール。


 かくして物語の役者は揃い、舞台運命は幕を開ける。


 既に“原作”とはかけ離れ、道行先は誰知れず。

 

 

 これは、光に惑わされた者たちの物語。

 ――その結末は、神すらも知らない。

 

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