4 絶対に光堕ちする男vs絶対に闇から逃さない女神

 邪神教団本拠地。邪神の権能により維持されているこの場所は、この世の何処にでもあって、何処にもないという“世界のことわり”に反した特性を持っている。

 教団本拠地に入る為の入り口は、邪神の許可を得た者にしか開くことができないようになっているのだ。

 

 原作において、主人公はとある教団幹部ルクスの手によって邪神教団の本拠地に潜入し、邪神との最終決戦を行った。


 その邪神教団の拠点の名を、――アヴァロン。

 

 俺がこの名前を初めて知った時、「世界に災厄を振り撒こうとしている邪神の本拠地が最後に訪れる楽園アヴァロンなんて、皮肉がすぎるな」と笑った。

 

 だって、そうだろう? 原作で邪神はこう言っていた。

 

『いずれ己の邪悪が世界を覆い尽くす。闇に堕ちた世界では、邪神の我が膝元こそ楽園であり理想郷である』


 ――この世に存在する全ての楽園を塗りつぶせば、残った自分の座す場所こそが楽園に他ならない。


 何という暴論。何という邪悪。まさに、この世全ての邪悪を具現化した神そのもの。


「(もっとも、原作じゃアヴァロンここが邪神最期の棺桶かんおけになるんだけどな)」


 つまり、原作通りに事が進めば教団は滅び、邪神は死ぬ。というか、俺が死なせる。


 じゃないと、俺の光堕ち後の安全が保証されないからな。


 ――え? 仮にも自らの主神や同僚を死なせることに、心苦しく無いのかって?


 ほとんど二重人格サイコパス、リンリー。

 戦闘狂いバトルジャンキー、レグ。

 狂った才女マッドウーマン、エイラ。


 苦難を共にしてきた仲間達。

 思い起こすのは彼らがやってきた行い。

 

 ――血塗れになりながらも相手を切り刻み、笑い声を上げるリンリー。


 ――隠密行動と言いながら、高笑いでサーチアンド見敵デストロイ必殺するレグ。


 ――ニコニコ笑顔で他人の口を縫い合わせて、明らかに人につける物じゃない首輪をつけていくエイラ。

 

「(……うん。心苦しいが、彼女らがいなくなった方が世界の為になると思う。きっと、物語だったら泣きながら彼女達にトドメを差す、心優しい光堕ちキャラのシーンになるだろう。たぶん)」


 フェアラ? 彼女は良い子だよ。なんで邪神教団にいるのか分からないくらい常識人だ。



 

 さて、話を戻そうか。

 俺は現在、邪神教団の本拠地――アヴァロンの最下層にいる。


 拠点の地下にある大扉、この先にいる者こそ、教団拠点アヴァロンを維持する者にして、自らの信者達に加護を与える者。


 扉を開き、中へと足を進める。


 広い空間、幾本もの柱が天井へと伸び、独特な装飾がほどこされている。

 

 扉から見て空間の一番奥、赤いカーペットが真っ直ぐと敷かれた先、壇上だんじょうにある玉座の上にソレはいた。


 ――ソレはこの世で最も邪悪を愛す者。


 ――ソレは世界への反逆をうたう者。


 ――ソレは人を邪心でもてあそぶ者。


 ソレこそは――――


「……こほん、待っておったぞ、我が眷属よ! 扉の前で突っ立っておらずに、早くこっちに来るのじゃ!」


 ――腰に手を当て、俺の方へと声を上げる邪神“ちゃん”であった。


 そんな、主神の姿を前にして俺はとりあえず――――


「いつも言ってるだろう。危ないから玉座に立つな、愚かな主神よ」


「なら、おぬしもこうべを下げよ! いやじゃろ? 眷属けんぞくに見下されて舐められる、自分が崇める神様なんて! ほら! はやく! 我が邪悪の前にひざまずけ!」


 何らかの生物の骨で出来たであろう、趣味の悪い玉座。

 その上でピョンピョン跳ねるのじゃロリ邪神


 紫色の髪を振り乱し、子供のように駄々をこねるその姿を見て、この少女が世界を滅ぼそうとしている邪神だとは誰一人として考えないだろう。


「……分かったから、落ち着け。それで本当に俺の何倍も生きている神なのか?」


 仕方ないので俺は彼女の前で跪いた。


 彼女はその光景を見て「うむ!」と言い、満足したように頷く。

 そして、そのつつましやかな胸を張り、側頭部から生える2本の立派なツノを天に向けながら俺に告げた。


「……ふっ、今どんな気分じゃ、我が眷属よ。自分の半分にも満たなそうな幼子に見下される気分は。気持ち良いか? もっとののしってやっても良いぞ? それとも踏んでやった方がよいかの?」


 俺は無言で立ち上がり、鼻で笑いながら愉快な笑みを浮かべる彼女の方へと向かった。


「およ? なんじゃ、踏まれたいのか。今日は気分が良いからの、いつもより多めに踏んで、――ッアイタダダァァアア!」


「流石に調子に乗りすぎだ」


 ――あと、俺がお前に踏まれた事は一度もない。


 片手で彼女の頭を掴み、力を入れる。もちろん本気では無いし、人の握力で神を害せるわけがない。

 だから、目の前で痛みにのたうち回ろうとしている彼女の姿も邪神なりの演技だろう。

 

 おそらく、ちょっとらしめるつもりが必要以上に痛めつけてしまって狼狽うろたえる俺の姿を嘲笑あざわらおうとしているのだ。


「あ、やばい。チョット待って! ホントに死んじゃうぅ! 演技じゃなくて! 眷属に頭リンゴジュースにされて死んじゃうからぁ!」


 今も手をバタバタとさせ、宙に浮かんでいる。ひっくり返ったカメムシみたいだなと失礼ながら思った。

 あと、ツノが邪魔で頭を掴みにくい。


「え、聞こえてる? 我の声聞こえてる? え、我の死因、眷属死? ごめんなさい許して! 天然ボケ幹部とか頭の中であだ名付けてたのも謝ります! 跪いて命乞いするから、足でも何でも舐めるから!」


 ……流石に見てて可哀想になったので、手を離してあげた。

 地面に両手両膝をつき、息を荒げる女の子と、ソレを無言で眺める俺。


 こんなことをしている俺だが、別に彼女のことが嫌いなわけではない。

 なんなら、教団内で一番好きと言っても過言ではないだろう。

 なにせ彼女がいなければ、俺が光堕ちする事はなかったのだから。


 邪神がいたから邪神教団という悪が生まれた。

 邪神教団があったからルクス・テラーという悪役が生まれた。

 ルクス・テラーが悪役であったから光堕ちする事が出来た。

 

 つまり、ルクス・テラーの始まりは、邪神ちゃんであるとも言える。


「(邪神ちゃんは俺のママだった……?)」


「マジで危なかったのじゃ……あのままじゃと、推定年齢10歳前後の美少女の頭を握りつぶす黒ずくめの男の噂が教団内に広まるところじゃった……と、いうか! 確かに先にフザケタのは我じゃが! いくら何でもやり過ぎじゃバカ者ぉ!」


 目に涙を浮かべながら訴えてくる邪神教団の主神様。

 まあ、確かに俺もやり過ぎた気がしないでもないが、上位者権限で部下を跪かせる彼女の方が悪だろう。


「全くもう……それで、今日は何のようじゃ。まさか、我と遊ぶ為だけに来たわけがあるまい」


「……あぁ用件だったな。あまりの主神の酷さに言葉を失っていた。報告したい事は二つ。王都にある神器の回収に成功した。あと、エイラ曰く完全顕現けんげんに必要な魂が足りたらしいぞ。後は聖神の神器の回収だけだな」


「わざわざ口にせんでよいわ! じゃが我は今、気分がすこぶる良い! 特別に我の力が完全復活した時に褒め称える事で許してやろう!」


 俺の報告を聞いて、表情を輝かせる彼女。

 本当に気分が良いらしく、鼻歌を歌いながら踊り始めた。


 俺はそんな邪神ちゃんの姿を見ながら、これからの行動について考える。


「(今更だけど、ぶっちゃけ既に原作崩壊してね?)」


 ルクス・テラーが教団の幹部――最高幹部だけど――になっている。

 邪神教団と聖王国が敵対している。

 原作の開始地点である城塞都市襲撃も行われた。

 次なる襲撃――ルクス・テラーと主人公の初対面も計画した。


 言葉にすれば原作通りだ。だが、原作通りなのは額面がくめんだけで、それらの出来事の過程や経過状況は全く異なる。


 例えば、現在王国にいる邪神教団の幹部たちについて。

 ルクス・テラーが邪神の『使徒』などと呼ばれている現状も異常ではあるが、まだ許容範囲内。

 問題は他の幹部だ。

 

 リンリー、レグ、フェアラ、エイラ。

 

 この4人は原作のゲームには登場しない。もしかしたら、俺の知らない何らかの媒体で出演しているのかもしれないが、原作通りで無い事に変わりは無い。

 

 まあ、これの原因は邪神教団幹部になる為の手っ取り早い手段として、教団幹部全員の殲滅せんめつを選び、後の幹部陣含めて全員を再起不能にした俺のせいだと言える……気もする。

 

 挽回は十分可能。問題は原作の教団幹部陣よりも明らかに上方修正されている点なので、原作以上に力をつけたルクス君なら無問題。

 

 次の原作との相違点は、邪神復活について。

 実は原作において、ゲームスタート時点で邪神完全復活の為の生贄いけにえを、邪神教団は回収出来ていない。これは聖神の神器だけでなく、魂もだ。


 だが、この世界ではどうか。既にほとんど集まっている。


 昔は別の意味で原作通りにいくのか心配していた。俺の教団電撃加入によって、一時的に教団の全体戦力が低下。それに伴い、魂の回収スピードの減速も危ぶまれていたのだ。

 俺がどうしようかと頭を悩ませていると……いつの間にか幹部になっていたエイラの策略により、原作を遥かに超える勢いで人々の魂が集まってしまった! エイラェ、マジかよお前。

 

 これにより、原作では行われなかった邪神の完全顕現が行われる可能性がメチャクチャ高まった。

 ちなみに邪神の完全顕現について、俺は何も知らない。

 ただ原作陣曰く、『実は、一番ヤバい神って邪神様なんですよね。ほら、ボンキュッボンのグラマラスお姉様の。本来の姿のほとんどを取り戻してたら、主人公なんてワンパンだし、世界終わってましたね』とのこと。


 邪神教団が掲げる、『邪神による世界の破壊と再構築にて、新たな秩序と混沌の邪悪なる楽園を生み出す』という神意。

 これを絵空事じゃ無くす手段――ソレこそが完全顕現らしい。


「(なにソレ怖い。自分が原作以上に強くなる事で、邪神戦の前に殺される事を防ごうとしたのに、その邪神が原作の数段上を行こうとしてる件)」


 今も鼻歌を歌いながら舞っている邪神ちゃんを見る。

 本当に、彼女がルクス・テラーを殺した、あの邪神様なのだろうか。

 どう見てもファンの間で話題になったナイスバディな悪の女帝じゃなくて、背伸びして邪神の振る舞いを頑張っている女の子にしか見えない。


 あ、転んだ。

 彼女は立ち上がり、ゆっくりと振り返って俺を見た。

 目と目が合う。

 そして、顔を赤くしながら細い声でつぶやいた。


「見られた……? いや、そんなはずはないのじゃ。うん、そうじゃよ。そうに決まって――――」


「痛くないか? ほら、涙を拭いてあげるからこっちに来なさい」


「泣いてないもん! 我で遊ぶでないわ、この痴れ者しれものめ! 我の力が戻ればな、おぬしなんてイチコロなんじゃからな!」


 こちらに近寄り、ポコポコと殴ってくる。

 原作の邪神様と、ウチの邪神ちゃん違いすぎでは……?

 俺は疑った。もしや、この邪神教団はパチモンなのではないか、と。


「良いか? 我が完全復活すればな、それはもうビックリ仰天大変身でな、傾国どころか物理的に世界を傾かせる美女に早変わりよ。あと、我は偽物じゃないわ! 失礼なヤツめ!」

 

 頬を膨らませ、『我、怒ってるぞ』というアピールをする邪神ちゃん。見た目通りの振る舞いに、思わず笑いがこぼれた。


「笑うでないわ!」

 

 やはり、俺は彼女の事が嫌いでは無いのだろう。


 こんな気軽なやり取りをしてくれる存在は、俺の周りには邪神ちゃんしかいない。

 敵も味方も邪神教団最高幹部――邪神の『使徒』ルクス・テラーとしか見てくれないから。


 彼女のような存在は貴重なのだ。

 まあ、それはそれとして俺が光堕ちする時には全力で倒すけど。


「……そういえば、聖神の槍の担い手、『聖騎士』とやり合ったぞ」


「ウゲェ、あのアバズレ野郎の眷属じゃな? まだ生きておったのか」


 ふと、報告し忘れていた事を思い出した。

 邪神ちゃんは“聖神”の名を聞いた瞬間に、苦虫を噛み潰したような顔をした。


「ふむ。おぬし、何故我らが聖王国……ひいては聖神の一派と争っているか知っているか?」


 なぜ、聖王国と邪神教団がやり合っているか……?

 そういえば、今までは原作でもだったから、というひどく曖昧あいまいな理由で戦っていたが、何か理由があるのだろうか。


「これはおぬしが教団に入る前、なんなら教団が出来る前。我が一人で色んな神に喧嘩を売っていた時の話じゃ」


 それは、原作でも語られる事のなかった邪神の“黒”歴史。


「我は“邪悪なる”神じゃろ? だから、“聖なる”神とかいう存在が気に食わなくての。聖神にも喧嘩を売ったのじゃ。……今思うと、馬鹿な事をしたのぅ」


 彼女は過去の自分を心底うらめしいといった声色で続ける。


「我の前に現れた聖神はこう言ったのじゃ。『一目惚れした好きだ付き合ってくれ子を成そう』。

 あ、コイツやばいと、一瞬で理解した我は逃げた。聖神と対面して、当時の我の力じゃ勝てはしても、コイツを滅ぼし尽くす事はできないと悟ったのも大きかったな」


 ――それからじゃ。


「……ヤツは我の行く先々に現れた。我があやつの治める領域に入ると、急にやって来るのじゃ。ある時は老人の姿で、ある時は少女の姿で。我の好みに合わせるとか叫んでおったの。その時の因縁が巡り巡って、現在の教団と王国の対立になっておるのじゃ。我が対聖王国に一番力を入れている所以じゃな」


 俺は話を聞いて、結論を出した。


「――つまり、痴情のもつれ、だと」


「……まあ、あながち間違っておらぬな」


「そこからなぜ眷属同士、殺し殺されの戦争になったんだ?」


「……流石に鬱陶うっとうしすぎじゃから、大人しくさせる為に、ヤツが治めてた国を滅ぼしたのじゃ。我も当時は尖りまくり、ブイブイ言わせとったからの、国一つくらい朝飯前でな」


「なるほど。国を滅ぼされた怒りか」


「いやぁ……たぶん国よりも、ヤツの妻や夫だった神々や人々を殺された怒りが全てじゃな。聖神は色狂いじゃったが、どんな神々よりも愛が強い――もとい重い神じゃった」


 そして、そのまま彼女に向けられていた愛は、彼女を倒そうとする憎悪になった、という真相らしい。

 まるで神話のような、――いや、ある意味で神話の出来事か。


 だが、彼女の話が真実なら、気になる点がある。


「聖神は過去に囚われ、今いる自身の信仰者達に愛はないのか?」


 もし、聖神が愛に重い神ならば、現在の教団や魔獣による被害はどうでも良いのか。

 神は今いる眷属達を愛していないのか。


「知らぬよ。我は今のあやつを一切知らん。ただ一つだけ言えるのは、仮に、今の聖神が眷属達に愛を持っていたとしても、十分な加護を全員に与えられるほどの力は持っていないということだけじゃ。ま、原因はアレじゃな」


 ――なるほど。

 

『今の聖神は十分な力を持っていない』

 

 彼女の言葉でそれを思い出した。ある意味で、俺に最も関係があるとも言えるモノを。


 それは原作が、サーガシリーズが始まるずっとずっと昔の世界の出来事。

 地上が、八百万の神々とその眷属たちの楽園であった時。


 楽園を完全に壊し、魔獣という新たな脅威を生み出した“神物”。


 原作では語られるだけの存在であったその神の名を――――


「「――魔神」」


 俺と邪神ちゃんの声が被る。

 彼女はニヤリと笑った。


「そうじゃ。『全知全能の唯一神による絶対神政』を掲げて“世界”そのものに叛旗はんきひるがえした有史以来最強の神――魔神により、ほとんどの神はしいされ、生き残った神々も力の大部分を失っておる。

 ――この我も含めて、な」


 サーガシリーズにおける『神』とは、単なる偶像ではない。実際に存在し、人と共に歩む超越者。

 八百万の神々と称されるほど、数多の神が思うがままに君臨していた古き時代。

 その“神の時代”を終わらせ、現代の“神と人の時代”をもたらした魔神。


「現代に生きる神はみな、零落したのじゃ。聖神も例外ではあるまい?

 ――さて、そろそろ我は寝る。おぬしとのたわむれは楽しいが疲れるからの」


「……子供は寝る時間、か」


「うっさいわい! こういうやり取りが我を疲れさせると、はよう気づけ!」


 彼女は手を振り上げ、俺に抗議してくる。いい加減、そういう振る舞いが彼女を子供っぽくみせる原因だと気付くべきだろう。……俺から忠告するつもりはもちろんない。面白いから。

 それとも、子供ではなく、老人の方が良かったのだろうか。


 彼女は俺の背中を押して、無理やり部屋から追い出そうとしてくる。

 

「あぁそういえば、聖神がどうやって聖王国を監視してるのか知っておるか?」


「……知らないな」


 明日の天気の話でもするかのような気軽さで、彼女は聞いてきた。タイムリーな、否、まるで先程まで行われていた幹部会の内容を聞いていたかのような話題。


「ふむ……歳上らしく、昔話をしてやるかの。

『昔々、聖神の眷属が他神の眷属に襲われ袋小路に追い込まれました。絶体絶命の状況、眷属が必死に祈っているとどこからともなく現れた聖神様が救ってくださった。

 一度や二度ならまだしも、そんな話がたくさんの眷属から出てきます。

 そして、その話を知った眷属達は偉大なる主をこう讃えました』」


 

『聖神様は天上よりこの世全てを照らすお方、我ら眷属達の事もいつも“天の目”により見守ってくださっている』

 


 背中を押されているので、彼女の表情は見えない。

 彼女が何を考えているのかも分からない。

 今までも、彼女は全てを知っているかのような言動をする。

 これが神という存在特有なのかは知らない。

 だが、俺は自分の心の内を覗かれているかのような、知られ過ぎているその態度に不気味さを覚える。

 

「これが現代も多くの王国民達が信じている神話であり、実話じゃ。でも、断言してやろう。聖神にそんな眼はない。もしこの世全てが視えているのなら、あの日、我があやつの国に近づく前に止めに来るはずじゃ。

 されど、実際にあやつは多くの眷属を救ってきている。そう、んじゃよ。眷属が危機に陥る前に止める事はなかった。仮にも神じゃ、全てが視えるなら危険も予測できる。なのに、眷属が危機に陥る前に、眷属が危機だと気付く前に止めた事がない」


 タン、と背中を軽く押され、俺の足は部屋の外へと踏み出した。

 振り返る。

 そこにあるのは、不敵な笑みを浮かべる邪神ちゃんの姿。

 

「ここまで言えば分かるじゃろう。あとは自分で考えるが良い。……まあ、大大大ヒントじゃ。ほぼ答えじゃが、“天の眼”は――“一つ”ではない」


 彼女がパチンと指を鳴らすと、大扉が閉まっていく。


「ではな、我が眷属よ。全てが上手くいった暁には、我が寵愛ちょうあいをくれてやろう。そうじゃ、ねやを共にしてやっても良いぞ!」


 その言葉に俺は鼻で笑いながら答えた。


「フッ、あと10年経ってから出直してくれ」


 閉まる扉を背にし、その場から立ち去る。

 後ろから「ちょっと!? それどういう意味じゃっ!!」と叫び声が聞こえるが放っておいた。


 やはり、教団の中だと彼女が一番面白い。


 

 ――だからこそ、悲しい。

 俺が光堕ちするという事は、主人公陣営に合流するという事。

 即ち、教団と敵対する事に他ならず、その行き着く果ては邪神ちゃんの討伐だろう。


「……その時が来れば、全力で相手してやる」




 

 

 これは自称・絶対に光堕ちする男の物語。

 Q最強の眷属が全力で光に堕ちようとしている時はどうすればいいですか?

 Aフィジカルで勝てないなら精神的に堕としましょう。こう、足をグイッと引っ張る感じで!

 

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