3 教団のゆかいな仲間たち!
我が人生、それ即ち光堕ちなり。
どうも、原作が始まってウッキウッキ。たぶん光堕ちまで秒読みのルクス君だよ!
待ちに待った原作が始まり、改めてルクス君の行動基準を確認しようと思うんだ。
一つ目は光堕ち!
これは、何が何でも叶えなければいけないルクス君の夢だよ!
ちなみに『“光”堕ち』なんだから、堕ちる前は光じゃなくて闇にいなければならないと思うんだよね。
それも、闇がとびきり深ければ深いほど、“光”に堕ちた時の感動も
だから今日これまで、ルクス君は全力で邪神教団の活動を行ってきて……気付けば最も深い闇、教団の最高幹部になっていたってわけなのさ!
あ、行動基準の二つ目や三つ目はないよ。ルクス君にとって光堕ちさえあれば、ぶっちゃけ後はどうでも良いからねー。
それでね、今日は原作最初に登場する悪役集団――邪神教団の愉快な仲間たちを紹介しようと思うよ!
まずは、――あ、このノリキッツイ。やめよやめよ。
でも、これくらいフザケないと、邪神教団の幹部会とかやってられんし……ドイツもコイツもイカれすぎなんだよクソが。
俺は心の中での一人茶番劇もそこそこに、定期的に行なわれるイカれた茶会への悪態をついていた。
現在。城塞都市襲撃から数日後、教団の本拠地にて幹部会が行われている。
幹部連中の中には聖王国以外で活動しているヤツもいるので、全員が集まった訳じゃない――なんなら半分くらいいない気もするが、ともかく邪神を信仰するイカれ共のトップが“普通”な訳がないのだ。
全体的に見ればリンリーでマシな方だというのだからコイツらは救えない。
――光堕ちしたら真っ先に引導を渡してあげよう。
俺は静かに決意した。
「どうしたルクス。考え事か?」
さて、妄想に囚われるのもこれくらいにして、ちゃんと幹部会に参加するか。
なにせ、原作開始前と違って、これからの教団の活動次第では俺の光堕ちフラグが消えてしまうかもしれない。
「何でもないさ。ただ、想定以上に『聖騎士』が強くてな」
「む、済まない。私達の作戦がもっと完璧だったらルクスとフレイが出会うことはなかったのだが……」
そう語るのは、邪神教団幹部の一人、元聖王国軍所属のフェアラ・クロード。
長身で、水色のボブの髪が特徴的な麗人。
ボディラインが強調された黒いミニスカと白いワイシャツ。いかにも悪の女幹部ですと言わんばかりの格好。
元は王国軍、それも暗部に所属していたらしく、情報収集に拷問尋問何でもござれの万能な大人の女性だ。
戦闘能力自体は幹部の中でも下の方だが、奇襲夜襲何でもアリの暗殺能力は目を見張るものがある。
幹部の中で一番頼りになる、メチャクチャ良い人。リンリーがスッポンだとしたら、フェアラは太陽だ。それぐらい違う。
そんな彼女は申し訳なさそうに眉を下げていた。
「ハッ、別に作戦は失敗してねーだろ。ただフレイが思ってたよりブッ飛んでたのと、どっかのバカが正直に正面からやり合って、余計な手間かけさせただけだ」
俺とフェアラの会話に、鼻で笑いながら入って来た彼女の名をレグ。
幹部随一の武闘派で、リンリーが速度と手数と回復力で押し切るタイプだとすれば、レグは純粋なフィジカルで叩き潰すタイプ。
それを可能とするのが、彼女に流れる獅子の獣人の血だ。
純粋な人間を超える身体能力に五感、そして野生の勘から繰り出される暴力は、大抵の相手を屈服させる。
彼女は金色の獅子の耳を立てながら、とある幹部に向けて挑発を行う。
「ん〜? そのバカってリンリーちゃんのことだったりする〜?」
「お前以外にいる訳ねーだろ、バーカ! そんなんだからアタシにいつまでも経っても勝てねーんだよ」
「……今ここで勝ってあげても良いんだけど?」
「なんだぁ? 愛しのルクス様の前で自分から恥を晒すのか、泣き虫リンリーちゃん?」
「殺すッ!」
「ハッハーッ! 口より先に手を動かしやがれッ!」
獅子獣人レグ。趣味を戦闘。格上に挑むのも、格下をなぶるのも大好きなバトルジャンキー。
教団幹部の中で簡単にキレやすいリンリーを煽って、いっつも戦ってる教団本拠地破壊率第二位。
本日の幹部会でも、いつものようにリンリーと戦闘を始めやがった。
「……止めようか?」
「いや、いい。いつもの事だ」
ここで止めると俺の方に襲いかかってくるんだよね。
倒したら倒したで顔を赤らめてハアハア言い出して怖いし、放置で。
触らぬ獅子に祟りなし。
それよりも大事なのは、原作の流れにどれだけ沿っているのか、だ。
「レグ曰く作戦は成功したようだが、目的の物は確保できたのか、――エイラ?」
「……ええ、こちらは万事うまくいきました。城塞都市に住まう人々の魂の回収と、かの聖槍と同じ起源をもつ聖なる盾の奪取」
俺の視線の先、幹部会など関係無いと言わんばかりにやり合っている
その女――エイラは髪も肌もドレスも、紅い瞳を除いた全てが白かった。
そして、華奢な体。椅子に座り、茶を
彼女からは、リンリーやレグ、フェアラなどの教団の幹部連中のほとんどが持つ、荒事を行う者固有の雰囲気が一切しない。
白状しよう。俺は彼女が怖い。
実力主義の教団で幹部にまで上り詰め、俺が頼んだアイテムをすぐに作って渡してくれる教団の発明家であり技術者。
俺は彼女が一般人を攫ってきて実験しているのを知っている。
俺は彼女が
俺は彼女が底知れない“強さ”を持っているのを知っている。
教団の
「魂の量は今回の襲撃で足りました。あとは王国各地に保管されている聖神の神器だけですね」
今回の城塞都市襲撃には、二つの目的があった。
一つは都市に住まう人々を殺し、その魂が聖神の下に行く前に回収すること。
もう一つは
フレイは西方の町村から報告された、明らかに人為的な魔物の群れの討伐、その後すぐに起きた東の城塞都市襲撃が本命であると考えた。
故に、彼は一人速攻で王都を離れて城塞都市の救援に向かった。
――それが
今回の教団の作戦、第一目標を王都にて保管されている聖神の神器――聖なる盾の略奪。
次の目標が城塞都市の市民の殺害。
つまり、町村の魔物の群れはフレイを疲れさせるのと、城塞都市襲撃完了までの時間稼ぎ。
城塞都市襲撃は邪神への捧げ物――人々の魂の回収もついででしかなく、フレイの意識を王都に向けさせないようにするのが主目的だったというわけだ。
まあ、『聖騎士』フレイの強さが想像以上だったせいで、作戦の流れはだいぶズレてしまったが、第一目標も第二目標も達成できた。
「実は、ルクス様と『聖騎士』が出会ったことはファインプレーだったのです。本来の作戦ではルクス様とリンリーの二人による城塞都市の瞬殺が目標でしたが、そのルートだと『聖騎士』がすぐに王都に戻る可能性を排除できませんでしたからね」
――だから、『聖騎士』に教団の襲撃を撃退した、もう襲撃は終わりだ、という思考を与えれたのは大きかった。
と、彼女は微笑みを浮かべながら語った。
ちなみに襲撃部隊を編成したのも彼女だ。
たしか、「『聖騎士』が襲撃者を殺した後に、彼らが被害者だと知ったらどんな顔をするか知りたいんです」と、普段通りのニコニコ笑顔で、物理的に口を縫い合わせていたのを覚えている。
「(……俺が邪神の『使徒』呼ばわりされるのは間違ってるんじゃないか?)」
――今からでも最高幹部を交代するか?
――本当に俺みたいに邪悪扱いされている人間が、“
「(――いや、違う。ブレるな。思い出せ)」
俺は、必ず光堕ちする。
この体に転生した時に誓ったはずだ。
――共に歩みたいと思った。
――ルクスに手を伸ばす暖かい声を聞きたいと思った。
――転生しても恋焦がれ続けた輝きを手にしたいと思った。
ルクス・テラーが果たせなかったことを、俺が成し遂げる。
「(もうすぐだ。もうすぐ俺の光堕ちへの最初の一歩……主人公との初
「――い……おい! ルクス!」
「あ、あぁ、何だ?」
「……ルクス、本当に大丈夫か? さっきも、どこか遠くを見ていたし、フレイとの戦いの傷が癒えてないんじゃないか?」
「あの、疲れているようでしたら、会議はまた後日でも……」
「本当に問題ない。目的への道が見えてきたからな、感慨深く思っていただけだ」
急いで気を取り直して、二人からの心配に無難な受け応えをする。
二人とも優秀な人間だ。決して本心を悟らせるわけにはいかない。
もし、俺が光堕ちを目指していることがバレれば、どうなるか想像できないからな。
殺された後に『邪神教団最終兵器、操り人形ルクス君』とかになってても驚かないぞ俺。
「え!? ルクス様に傷が!? や、やっぱりリンリーちゃん、ガ――ッ!」
「クハッ、これでアタシの200? 2000? ――まあ、幾億連勝だなッ。それとルクス! 悩んでんのか知らねーけど、アタシとやり合えば心も晴れるぞ。一発どうだ!?」
俺達の会話に気を取られたリンリーが、ぶっ飛ばされて壁に埋まる。
それをやった張本人――レグが自分とヤラナイカ(戦闘)と誘ってくるが、ノーセンキューだ。
「遠慮しておこう」
「おい! どうして、お前たちは拠点を壊しまくるのだ! 戦うなら外でやれ!」
「そうですよ、レグ。いつも拠点を直してくれるフェアラの事も考えましょう」
「実験とやらで、一番拠点を壊してるのはお前だ、エイラ!! 自分のことを棚に上げるんじゃあないっ!」
「私のは必要な犠牲ですので」
「アタシのは喧嘩を買ってくる負け犬リンリーちゃんが悪い。よって全部リンリーのせいでよろしく」
「……二人ともそこへなおれ、その性根から叩き直してやるッ!」
案の定、いつも通りに拠点を破壊したレグ、そして悪びれることのない不動の拠点破壊率第一位のエイラ。
そんな二人の態度にキレた拠点の掃除屋さん――フェアラが、席を立って彼女らを捕まえようとする。
「ハッ、アタシが捕まるわけないだろ。じゃあなルクス!
次の作戦は前回の会議で言われた通りに襲撃しとくぜ!」
そう叫んだ後、レグは壁を打ち抜いて部屋を後にした。
――フェアラの怒気が100上がった!
「――あぁ、以前から議題に上がっていたあの仮説の確信も得ましたよ。聖神は何らかの方法で聖王国全土を監視しているようです。そして、その情報を『聖騎士』アダムス・フレイに流しているのは確定かと。それに何らかの制限があるのも確定です……おそらく情報共有は王都内限定とかでしょう」
――それでは、何か用があればお呼びくださいね!
いつのまにか部屋の出口付近にいたエイラが新たな情報を教えてくれた後、退出した。
脱兎の如き速さだった。事前にフェアラが怒る事を予想していたかのような、鮮やかな脱出だった。
――フェアラの怒気が100上がった!
「……では、ルクス。私はバカどもと話してくる」
――本当に話してくるだけなの?
「あぁ、もちろん穏健な会話になるとも。彼女たちがちゃんと私の話を聞いてくれれば、な」
見惚れるような笑みだった。尖りまくった殺気がなければ完璧な笑顔だった。
普段、彼女の美貌に鼻の下を伸ばす男達も、今の彼女を見れば裸足で逃げ出していくだろう。
「(威嚇が笑顔の起源ってマジだったんだなぁ……)」
フェアラは明らかに穏やかな対話をしにいく者が出すはずのない雰囲気で、部屋を去っていった。
こうして幹部会は、いつも通りの流れを辿って解散となった。
「(やっぱり教団の幹部イカれたヤツしかいねぇッ!)」
さっさと光堕ちすべきだと再確認した俺は、部屋を後にして教団本拠地の地下――主神の座す場所へと向かった。
これは光堕ちを目指すイカれた男の物語。
さすが邪神の加護を受けし者達、誰一人として壁に埋まった彼女を助けてあげないとは……っ!
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