第43話 ヴァンズブラッド─黒と白の英雄譚─


「嘘……だろ……?」


 『ヴァンズブラッド─黒と白の英雄譚─』を読み終えたアッシュが頭を抱える。そうして先程自身の腹部に浮かび上がった縦縞の痣を触り、「無詠唱特殊魔術……バーコード縦縞の痣……」と力無く呟いた。

 肝心の『ヴァンズブラッド─黒と白の英雄譚─』の概要だが──



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 舞台は地球と呼ばれる様々な技術が発展した世界。とりわけ「機械」や「電気」「ガス」「上下水道」などの技術水準が高く、人々の生活は安定している。※アッシュ達の暮らす世界、ルナヘイムにも「機械」「電気」「ガス」「水道」などはあるのだが、『ヴァンズブラッド─黒と白の英雄譚─』で描かれるそれらとは比べられないほどに技術水準は低い。


 そんな極めて技術水準の高い地球で、という技術を用いた人間の変異体、が誕生する。

 魔族はトカゲのような見た目のリザードマン、樹木と人間が混ざったようなドライアド、人間に翼の生えたような見た目のハルピュイアなど、ルナヘイムに存在する魔物と似たような姿で描かれていた。


 そこから人類と魔族による長い戦い、へと突入。激戦の末、これを人類軍が勝利。

 その後、人魔大戦によって死亡した多数の魔族の死体を研究中、


 融合した死体はドライアドを核にし、天高くそびえる大樹、へと変異。ユグドラシルは全人類を魔族へと変異させるを提唱。多様な進化を促すために、。人類軍には三大咎さんだいこうと呼ばれる強大な力を持った三人の眷属を。魔族軍にはアウルゲルミル、ヨルムンガンド、ムスペルと呼ばれる様々な巨大生物を。※三大咎さんだいこうの内の一人が、という名前である。


 この人類軍と魔族軍の争いは、後に神話大戦と呼ばれる。神話大戦は三大咎さんだいこう主導の元で誕生した、コードネーム『』『ヘル』『オーディン』と呼ばれる三人の英雄によって一応の収束をみせた。※ヴァンはバーコードと呼ばれる魔術刻印(縦縞の痣)を使用した無詠唱特殊魔術という強力な力を行使し、本名はである。


 そうして神話大戦から数千年後──


 舞台はへと移る。この世界はミズガルズと呼ばれ、神話大戦の英雄であるオーディンの子孫が作り上げた国が強い影響力を持っていた。


 そんな中、オーディンの末裔であるが暗躍を始め、騎士団を起こす。この騎士団の中には神話大戦の英雄ヴァンやヘルの末裔である、やジェシカという人物も所属していた。※ノヒンとは、ホープがと言っていた人物と同じ名前である。


 ラグナスはある目的のために騎士団を起こしたのだが、その目的というのが──

 騎士団の団員を生贄に捧げ、姿というものだ。これによってラグナスは騎士団の団員を皆殺しにし、生き残ったノヒンとジェシカの復讐劇が始まる。


 だが世界はラグナスの思惑通りに変貌を始め──

 蘇る神話大戦の巨人──

 再び活動を始めたユグドラシル──

 さらにはユグドラシルのアンチテーゼ、死穢霊しえれいと呼ばれる存在までもが蠢き始め、事態は混迷を極めていく。※ヴァン(アラン)やユーネ、シェーレの挿絵があるのだが、姿


 そんな流れの中、ラグナスはオーディンの呪いのような意思に支配されかけていた事が判明し、やり場のない怒りにノヒンが葛藤する。

 

 そうしてこの『ヴァンズブラッド─黒と白の英雄譚─』の結末は、結果としてヴァンの末裔ヴァンズブラッドであるノヒンが事態を収束させる。様々な人物の力を借りたノヒンがシェーレを打ち倒し、ユグドラシルの、そうしてユグドラシルの力を使って

 これによって犠牲になった騎士団の団員も生き返り、することになる。

 ラグナスは罪の意識からか、世界の再生成時にユグドラシルに干渉し、自身の肉体をへと変えてこの世を去った。


 新たな地球は第一樹上世界『地球』と呼ばれ、世界樹ユグドラシルが根を張る。ユグドラシルは今も尚、新たな次元や世界を生成し続けている。



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 どういうことだ……?

 知ってる名前が何人も出てくる……

 コードネーム『ヴァン』の本名はアランだし……

 ラスボス的な存在の名前がシェーレ……

 三大咎さんだいこうの一人はユーネって名前だし……

 三人とも挿絵がまんま本人だ……

 前に言ってたホープの父親の名前がノヒンだったはずだし……

 それにも出てきた……

 このラグナスが僕……なのか……?

 灰になって消えたって……

 事実……なのか……?

 しかもヴァンやノヒンが使った力が……



 アッシュが自身の腹部に現れた縦縞たてじまの痣を触る。そう、『ヴァンズブラッド─黒と白の英雄譚─』の中でヴァンとノヒンが使用する特殊な力。それはと呼ばれ、バーコードと呼ばれる縦縞の痣を触媒にして発動する力。


 本の中では様々な無詠唱特殊魔術が出てくるが、全て縦縞の痣に魔素──おそらくルナヘイムで言う魔力MPのようなもの──を通すことで発動する強力な力。触れたものを全て消し飛ばす力や、尋常ならざる速度で体の損傷を回復させる力。痛みによって身体能力が強化される力や、自動で攻撃を防ぐ力など、だ。



 しかも相手を魅了や発情させる無詠唱特殊魔術もあるみたいだな……

 もしかしてさっきターニャが興奮して僕を求めてきたのは、この無詠唱特殊魔術のせいなのか……?

 だとしたら本当に悪いことをしたな……

 ターニャだって初めては大切にしたかっただろうし……

 ああくそ……

 この本が事実だとして……

 ますます意味が分からなくなってきた……



 アッシュが頭を抱えていると、ターニャが目を覚ましてアッシュに抱きつく。


「ごめんなターニャ」

「なんで謝るんですか……?」

「いや、悪いことしたなって」

「……いいんです。アッシュって……私を助けてくれた時に一緒にいた、あの銀髪の女の子が好き……なんですよね?」

「え?」

「ちゃんと気付いてましたよ? でも……」


 「それでもいいんです」と言って、ターニャがアッシュの前に来て、ゆっくりと唇を重ね、アッシュの服を脱がしていく。

 外では雨が降り始め、薄暗くなった部屋の中には──


 ギシギシとベッドの軋む音がしばらく響いていた。

 

 

 

 

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