第21話 冥府の王


 鎧が邪魔だな……

 ステータスを上げるために一度攻撃を食らっておくか?

 いや、ヘルナイトの連撃は危ない……

 痛みで意識が飛んでる間に致死部位や弱点部位に攻撃を食らったら……



 アッシュが次の手を考えている間も、ヘルナイトの槍での猛攻が続く。なんとか流水と瞬影を駆使して猛攻を凌いではいるが──



 一気に倒せってことならペインニードル連発で倒せそうだけど……

 今回はそういう訳にはいかないんだよな……



 実は今回のヘルナイトもニードルラットの時のように、一定体力以下で術技を使用するタイプ。ステータス画面の術技の欄、「冥府の王」がおそらくそれなのだが、詳細が不明なので本当に覚えたい能力なのかも分からない。



 くそっ……

 ちまちま削るのは面倒だ……

 やっぱりペインニードルを使うか?

 ……けどペインニードルは針の数が多過ぎて調整出来ないからな……

 確かアンデッドの致死部位は光る目の奥……

 ペインニードルだと致命の一撃クリティカルヒットで倒してしまう可能性が……

 せめてあっちの鎧や盾がなければ……


  

 アッシュがそこまで考えたところで、ハッとした表情になる。


「そうだ! あれがあったじゃないか!」


 そうである。

 人に使ったら間違いなく嫌われる、最凶最悪の能力。


「溶解液!」


 アッシュが溶解液を発動し、黒い霧が手から滲み出す。黒い霧はアッシュのイメージに合わせて動くのだが──

 鎧や盾を狙うのも面倒なので、ヘルナイトの全身を包み込む。そうしてヘルナイトを包み込んだ霧が消えるとそこには──

 鎧と盾だけではなく、槍までも消失したヘルナイトの姿。こうなってしまえばもはやただの骸骨だ。


 槍を失ったヘルナイトが殴りかかってくる。それもそうだ。もう殴るしかない。

 必死に殴りかかってはくるが、流水でいなされ無様に転ぶ。転んだところを魔人の爪で攻撃。





 ──数分後


 ヘルナイトの体力が残り一割となり、目の奥が光を増す。

 それと同時、ブンッ! と赤く輝く魔法陣が地面に現れ、突風が巻き起こる。完全に油断していたアッシュが突風によって吹き飛ばされ──


「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 ──背中を壁に強打。背骨が粉砕されたかのような激痛が走り、意識が遠のく。ヘルナイトによる直接攻撃ではないが、おそらくだと判定されたのだろう。


 凄まじい痛みで思考は停止し、立つこともままならない。目は霞み、耐え難い吐き気が込み上げる。 朦朧とする意識の中、なんとかアッシュが顔を上げると──


 そこには黒い馬に跨り、漆黒の鎧を身に纏ったヘルナイトの姿。槍や盾も復活しており、頭には禍々しい兜も装備。

 。そう、


 流水を覚えた際は、──。そうなれば「冥府の王」によって生成された槍の攻撃を受ることで、同じ原理で今回も覚えられるはず。


 先程の突風は冥府の王の影響下だったのだろうが、。壁への激突は冥府の王の影響下ではなかったが、痛みの増幅はあった。



 判定……が……色々と面倒……だ……な……

 ああ……くそ……

 だめ……だ……

 痛み……で意識……が……

 やば……い……


 ヘルナイトが槍を構え、アッシュに向かって馬を走らせた。馬は凄まじい速度で、一瞬で距離を詰める。溶解液で槍を消せればいいのだが、消してしまえば冥府の王を覚えられない。

 本来の考えていた作戦では、


 もちろん失敗すれば致命の一撃クリティカルヒットとなる可能性が高い。だがアッシュは聖者の加護で出来る。おそらくそうなった場合痛みで動けなくはなるが──


 という加護もある。一分もあれば、痛みの増幅による痛みは和らぐ。だが──

 意識の朦朧とした状態で、そんな刹那のタイミングでの作戦など出来るだろうか。


 そうこうしている間に、ヘルナイトが槍での神速の一撃を放つ。

 槍はアッシュの目──つまり致命の一撃クリティカルヒットとなる軌道を進む。

 意識の朦朧とするアッシュの目に迫る槍──

 槍の軌道がスローモーションに見え、ああこれは死ぬやつだ──とアッシュが思う。

 そうしてプツリと槍の先端がアッシュの目の表面に刺さり──


「瞬影──あ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙っ!!」


 なんとか致命の一撃クリティカルヒットとならずに瞬影を発動するが、発動と同時にアッシュの目を襲う激痛。目は焼けるように熱く、痛みで全ての思考が飛ぶ。瞬影の発動前、ヘルナイトの槍はアッシュの



 痛い……

 痛い痛い痛いぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!



 痛みで地面をのたうつアッシュ。瞬影の攻撃によってヘルナイトを倒せたのかも分からない。能力をコピーする画面が出ているのかも確認出来ない。とにかくという言葉が脳内を支配する。だがもし仮にヘルナイトを倒せていないのであればまずい。いや、ヘルナイトは冥府の王で凄まじい防御力の防具を身に纏っている。。そんな中──


「あ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙っ!!」


 アッシュの背中に激痛が走る。そう──


 ヘルナイトの槍で背中を貫かれたのだ。。どうやらアッシュが地面を転げ回っているので、致命部位を狙った攻撃を外して背中を貫いたようだ。聖者の加護で傷やダメージはすぐに回復するが、とにかく痛い。


 あまりの痛みでアッシュは地面をのたうちながら吐いた。



 痛い!

 嫌だ!

 殺される!

 痛い痛い痛いぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!



「ペイ……ン……ニードル……ペイン……ニードル……ペインニードル……ペインニードルペインニードルペインニードルペインニードルペインニードルペインニードルペインニードルペインニードルペインニードルペインニードルペインニードルペインニードルペインニードルペインニードルペインニードルペインニードルペインニードルペインニードルペインニードルペインニードルペインニードルペインニードルペインニードルペインニードルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!」


 アッシュが無我夢中でペインニードルを連続発動。


 ブン──

 ブブブブブン──

 ブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブン──


 極小の魔法陣がアッシュの全身に無数に、それこそ無数に現れる。そうして魔法陣全てからいびつゆがんだ漆黒の針が現れ──





 ──時間にして一分ほど、アッシュは「ペインニードル」と叫び続けた。短い時間だが、あまりの痛みでアッシュには永遠に感じられ、とにかく叫んだ。

 気付けば痛みは和らいでおり、アッシュが立ち上がって辺りを見渡す。そこには既にヘルナイトの姿はなく、目の前には見覚えのある術技記憶の画面が浮かんでいた。



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