第11話 詐欺パーティー


「もういいもん……二人して私のことバカにして……」


 月光が照らす丘の上、銀髪の美しい女神様がしゃがみこんでいじけていた。


「どーせセンスないもん……私なんてダサ女神だもん……」

「そんなこと思ってないって……」


 あの三人での話し合いの後「渡したい物があるから──」と、シェーレは一度孤児院に戻ったのだが、ユーネの機嫌がすこぶる悪い。

 ネーミングセンスをいじられたのが恥ずかしかったようなのだが、だからといって少し様子がおかしい。

 と言えばいいのか──

 素を出しているというよりも、と言った方がしっくりくる。



 明らかに雰囲気が変わったんだよな……

 口調のせいで顔まで幼く見える気がするし……

 とりあえずこのまま機嫌悪いのも困るな……



 ひとまずアッシュがユーネの機嫌を取ろうと試みる。


「やっぱりさすが女神様だよ。ユーネのおかげでこれからの旅が楽になるな。まさかステータス画面の表示を書き換えられるなんて思わなかった。まあ考えてみれば、加護の名前とかをユーネが決めてるんだから、それもそうなんだろうけど……」


 ユーネの様子を伺いながら、アッシュがステータス画面を出す。ユーネは相変わらず「いいもん……どーせ私なんて……」とむくれていた。



【名 前】アッシュ

【職 業】魔徒

【H P】▅▅▅▅▅▅▅▅▅▅

【M P】▅▅▅▅▅▅▅▅▅▅

【レベル】5

【体 力】SS

【魔 力】SS

【攻撃力】S

【防御力】B

【知 力】A

【素早さ】S


・術技

 魔人の目/広範囲の索敵、一度ターゲットした相手の位置を把握、サーチ効果

 魔人の爪/攻撃のリーチ上昇、防御貫通

 魔人の耳/魔人の目により補足した相手の声を聞ける

 ロックランス/無数の石の槍で攻撃、槍の数は知力依存

 瞬影/瞬時に攻撃を加えながら相手の背後に移動、発動可能距離は素早さ依存。クールタイム30秒

 流水/相手の攻撃を受け流し、返すことも可能。ジャストタイミングで威力を上げて返せる



 ユーネの力で職業欄を魔徒に書き換えてもらった。

 ロックパンサーを倒した際にレベルが上がり、魔人の耳を習得。魔人の目を発動中に使うと、離れた場所にいる相手の声も聞けるようになる力。耳が少し尖り、黒い線が入る。


 アッシュだけではなく、ユーネのステータス画面も変更した。ユーネの元のステータス画面は──



【名 前】ビューネス

【職 業】神/聖

【H P】▅▅▅▅▅▅▅▅▅▅

【M P】▅▅▅▅▅▅▅▅▅▅

【レベル】-

【体 力】∞/A

【魔 力】∞/A

【攻撃力】∞/C

【防御力】∞/A

【知 力】∞/A

【素早さ】∞/C


・加護

 女神の奇跡/現在から過去50年までの任意の日まで時間を戻す。任意の対象のみ記憶を残すことが可能。一度発動すると100年のクールタイム。(100/100)



 ──となっていた。


 無限という表記に関してだが、正確には無限にある訳ではないらしい。神やそれに近しい存在が到達する領域で、とんでもなく高い値が∞。

 ビューネスが現れてからはどんどん弱っているらしく、右の値が今の状態になる。術技や加護に関しても、女神の奇跡を残してなくなってしまったようだ。


 変更後のユーネのステータス画面は──



【名 前】ユーネ

【職 業】聖女

【H P】▅▅▅▅▅▅▅▅▅▅

【M P】▅▅▅▅▅▅▅▅▅▅

【レベル】5

【体 力】S

【魔 力】S

【攻撃力】B

【防御力】B

【知 力】S

【素早さ】C


・加護

 聖女の契約/契約した魔徒を従属できる。従属した魔徒は魔人化できないが、魔人の力を使用することは可能。



 ──である。


 表示自体を全て変更。表示は変えたが、内容が変わった訳ではない。容器の中身はそのままで、ラベルを変えたようなもの。加護の名前も説明文も変わっているが、発動できるのは女神の奇跡ということになる。

 

 魔人化を抑えることの出来る聖女ユーネと、魔人の力を行使することの出来る魔徒アッシュ──

 という設定である。



 もう完全に詐欺だな。

 ユーネはバレる心配はないって言ってたけど……



 ユーネが言うには聖女という職業はないらしく、バレる心配はないだろうということだ。この世界は連絡手段が発達していないこともあって、そもそも全ての職業を知っているのは神以外はいない。


 ただ困ったことに、ユーネは自分の職業名を「魔神」にしたかったようだ。「アッシュとお揃いな感じにしたい」と駄々をこねてみせた。

 それに対して「ネーミングセンス以前の問題ですよ?」とシェーレに窘められてからいじけている。


 さすがにシェーレもユーネの様子がおかしいことに気付いたのか、「ユーネ様の状態が少しおかしいわね。こっちで色々と調べてみるから、ひとまずアッシュは普通に接してあげて。おそらく本人が一番不安だろうから──」と、アッシュにそっと耳打ちした。


「……聖女にしたのにはちゃんと意味があるんだ。『ユーネは魔徒を抑えられるレアな職業で、各地を回っている。今は魔徒一人を従属するだけで精一杯だけど、修行をして力を付けたら魔徒や魔人を正常に戻せるかもしれない──』って設定で旅してることにしたら動きやすい。それとユーネの声だ。祝福の儀のために各地の教会の神官に語りかけてたんだろ? それに気付く神官がいたら、聖女の名前と相まって『神の御使いだ──』って勝手に誤解してくれそうだろ?」


 アッシュがそう言いながらチラりとユーネの様子を伺うが、「ネーミングセンス以前の問題だって……センス悪いって思ってたんだ……」と、相変わらずいじけている。


 正直子供っぽくいじけているユーネをかわいいと思うアッシュだったが、このままの調子でいられるのも困る。



 困ったな……

 なんとか機嫌を直してもらわないと……

 こうなったら……



「……じゃあユーネ。一緒にステータス画面を出そう」

「なんで?」

「いいから出して」


 アッシュがステータス画面を出すと、ユーネもしぶしぶ「これでいい?」と、ステータス画面を出す。


「じゃあここにお互いの名前を入れて」

「こう?」


 ユーネに指示を出し、ステータス画面を書き換えてもらう。



【名 前】アッシュ〘ユーネ〙

【職 業】魔徒

【H P】▅▅▅▅▅▅▅▅▅▅

【M P】▅▅▅▅▅▅▅▅▅▅

【レベル】5

【体 力】SS

【魔 力】SS

【攻撃力】S

【防御力】B

【知 力】A

【素早さ】S


【名 前】ユーネ〘アッシュ〙

【職 業】聖女

【H P】▅▅▅▅▅▅▅▅▅▅

【M P】▅▅▅▅▅▅▅▅▅▅

【レベル】5

【体 力】S

【魔 力】S

【攻撃力】B

【防御力】B

【知 力】S

【素早さ】C



 お互いの名前の横に相手の名前を表示し、契約感を演出。アッシュが「どうだ? 契約してるっぽいだろ?」とユーネに問いかけると──


 ちょろい女神様は信じられないくらい嬉しそうな顔で、「こ、これで許してあげる! べ、別に喜んでないんだからね!」と言って興奮していた。


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