第5話 聖者の力/クラスチェンジ


 ひと通り話し終えた後で、「それで僕はこれからどうすればいいんだ?」とアッシュがユーネに問いかける。


「まずは魔人の力を使いこなせるようになりましょうか。強力な力なのは確かですけど、不確定要素が多すぎて……」

「ユーネも魔人の力のことはあまり分からないのか?」

「私が与えた力ではないですからね。本当に制御不能じゃないのか確認しないといけないわ。ステータスを出せる?」

「了解。これでいいか?」


 アッシュがステータスを意識して念じると、目の前に様々な情報が書かれた画面が現れる。ステータスとは職業を与えられた際に自然と出せるようになるもので、自分の職業、レベル、術技、加護などを確認出来るものだ。体力、魔力はゲージで表示され、ダメージを受けたり術技を使ったりで減っていく。


 通常は自分にしか見えないのだが、特殊な水晶を使用するか、またはサーチという能力を覚えれば誰でも確認出来る。

 どうやら女神であるユーネには見えているようで、小さく頷いた。

 現れたステータス画面には──



【名 前】アッシュ

【職 業】聖者

【H P】▅▅▅▅▅▅▅▅▅▅

【M P】▅▅▅▅▅▅▅▅▅▅

【レベル】1

【体 力】S

【魔 力】S  

【攻撃力】E

【防御力】SS

【知 力】S

【素早さ】A


・術技

 ヒール/単体の回復

 キュア/単体の状態異常解除

 セイントベール/単体を被ダメージ半減のベールで覆う

 光の御手/知力を攻撃力に変換、防御貫通、攻撃力依存の光球で遠距離攻撃も可能、解除するまで自身の魔法封印


・加護

 女神の寵愛/自身の被ダメージ半減、回避行動でステータス上昇、状態異常無効、一定時間ごとに体力回復、日に一度体力を一割残して死亡を回避

 女神の祝福/全ての技や魔法を広範囲効果に変換、精神汚染無効、一定時間ごとに魔力回復、日に一度全ての攻撃を一分間無効化する女神の盾を発動できる



 ──と表示されていた。


 我ながらすごい性能だなとアッシュが思う。聖者はこの魔法以外はリザレクションしか覚えないのだが、圧倒的な魔力と知力。加護による技や魔法の広範囲変換のおかげで、これで事足りるのだ。

 リザレクションに関してはレベル30で覚え、聖者以外は使えないもはや奇跡のような魔法だ。


 聖者の基本は守りと回復なのだが、光の御手を使うことで物理攻撃もできる。アッシュの知力はSなので、変換されて攻撃力もSになる。時間を戻す前はレベルが52あり、知力はSSSだった。


 加護により体力、魔力は回復し続け、状態異常、精神汚染も無効。※体力と魔力はステータス上部にHP体力MP魔力としてゲージで表示。

 アッシュ一人でなら魔法封印もデメリットにならない。一定時間ごとの回復も、凄まじい勢いで回復する。むしろ一人で戦った方が強いくらいだ。


「アランが嫌味を言うのも分かるな……」

「聖者は元から知力が高いんだけど、本人の資質によるところも大きいの。前の聖者は初期知力がAだったわ。初期知力Sのアッシュだからこそ、光の御手が凄まじい効果になるのね」

「その資質? のせいでアラン達を殺してしまったんだけどな……」


 攻撃力の低いアッシュが普通に攻撃したとしても、聖騎士のアランを一撃で殺すことは出来ない。嫌味で言ったつもりではなかったのだが、ユーネを見るとハッとした表情をした後で「はわわ……やってしもた……」と変な口調で呟いていた。



 え……?

 はわわ……?

 聞き間違いじゃなければ今「はわわ」って言ったよな……?

 いや、僕が飛びかかった時も言ってたような……

 しかも「」ってなんだよ……

 聞き間違い……だよな……?



「ご、ごめんなさい……。そういうつもりで言ったんじゃないの……」

「いやいいんだ。僕の方こそ感じの悪い言い方してごめん……」


 空気が重くなってしまい、二人が少し沈黙する。


「……そういえば気になったんだけど……魔法の名前や加護の名前はユーネが決めているのか? それとも力を与えられた昔の人が考えたとか?」

「魔法や技に関しては元からあるものよ?」

「元から? ユーネの前にも別の神様がいたとか?」

「そんなことはないはずだけど……」


 女神に職業を与えられ、特殊な力が発現する世界。アッシュは何となく気になった事を質問したつもりだったのだが、なにか少し引っかかるものを感じていた。


「……でも加護の名前は私が付けたの。加護の内容は職業によって決まってるけど、名前を付けないと分かりづらいからね」

「……ってことは女神の寵愛とか女神の祝福って自分で付けたのか?」

「そうよ」

「僕だったらアッシュの寵愛とかアッシュの祝福とか恥ずかしくて付けられないな」


 アッシュが少し意地悪そうに言う。


「えっ! 嘘!? 頑張って考えたのに! は、恥ずかしいの? は、はわわ……」


 ユーネがあからさまに狼狽え、少し顔を赤らめて急にモジモジしだした。しかもやはり「はわわ」と言っている。焦ると出てしまう口癖なのだろうか。


「冗談だよ。すごくいい名前だと思う」

「ほ、ほんとに?」


 今度は嬉しそうな顔でモジモジする。


「ははっ、そんな顔もできるのか。いい笑顔だよ。あんなやつ相手に長い間戦ってたんだから暗くもなるだろうけど……笑顔の方がいい。今までありがとうユーネ」

「……わざと茶化したでしょ?」

「さあどうかな?」

「ふふっ、時間を戻す前にずっと見てたけど……アッシュは本当に優しいね。聖者って感じ。それにちょっと懐かしい感じもする」

「懐かしい?」

「うん。なんだか胸の奥が暖かくなる感じ」

「なんだそれ」

「ふふ、私もよく分からないけど……なんだか落ち着くの」


 先程までの重い空気がなくなり、二人で少しの間笑い合う。


「それより口調変わってないか?」

「アッシュが茶化すからだよ。女神様らしくしようと思って頑張ってたのに……」


 ユーネはそこまで言うと、今度は不満げな顔で「台無しよ」とモジモジしだした。


「モジモジしてるほうが話しやすくて好きかな」

「また茶化す!」

「はは。これからあいつを倒すまで長い付き合いになりそうだし、お互い気を使わずにいけたらいいかな?」

「聖者のくせに神様を敬いなさいよ!」

「あいにくビューネスのせいで神様不信なもんでね」

「私のことも信じられない?」

「そんなことはないよ。色々あったせいで頭の整理は大変だけど……ユーネのことは信じてるかな」

「よろしい」


 ユーネが腕を組んで「うんうん」と得意気にしている。


「私も気を使わないからこれからよろしくね!」

「了解」

「とまあ……まだまだアッシュと話してたいところだけど……」


 「そろそろ魔人の力を見てみましょうか」と、ユーネが真剣な表情に変わる。


「そうだな……」


 正直お互いに不安だった。これで魔人の力を実際に使い、制御不能だったとしたら──


 何もかもが終わりだからだ。


「クラスチェンジの仕方は分かる?」


 クラスチェンジとは、職業の切り替えである。通常一人につき一つの職業なのだが、稀に魔徒のように違う職業が発生することがある。その場合はクラスチェンジで使い分けることができる。


 クラスチェンジしない限りはサーチでも情報は見れないので、アッシュが魔人だと気づく者はなかった。


「ああ。ステータスの右下のクラスチェンジって書いてあるところを触ればいいんだよな? いくぞ……」


 アッシュがクラスチェンジの文字に触れる。それと同時──


 どんな光さえ届かないような、真っ黒な球体状のものにアッシュが覆われた。

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