人絶えた夜の山路をひとり行けば幾千人もの木霊さざめく


人絶ひとたえた よる山路やまじを ひとりけば 幾千人いくちたりもの 木霊こだまさざめく




陽が落ちる直前の夏山。前後に人のすがたはない。

峠を越えて、ライトを点け、足下を照らしながら麓を目指す。

じき陽が落ちると闇がひろがる。

鳥の叫びが闇をつんざく。

慰めるように虫の音が足下から湧きあがる。

細い光が頼りない。

どこも正しい道じゃない気がする。

よくわからない声が聞こえる気がする。

右も左も囲まれている気がする。

無数の、人ならぬものの気配。

足を速めながらふと思い出す。

木の霊がひときわ元気になるのもこの時季だった。


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