第3話

 言われた通り屋上に向かうと、扉の目の前に葉月が腕を組んで立っていた。すごく険しい表情をしているので深刻な話なのかもしれないな。


「朝からごめんね、でも重大な話だから仕方なかったの」


「別にいいよ。一体どうしたんだ?」


「遠慮なく言わせてもらうけど、私たち別れましょう」


 今俺の聞き間違いじゃなかったら別れようと言われなかっただろうか。いや、たぶん聞き間違いなんてしていない。

 俺は難聴系主人公ではない。


「なんでか聞いてもいい?」


「私あんまり二次元好きじゃないの。なんだが陰キャって感じがして友達と話すときとか正直めっちゃ恥ずかしいから」


「そ、そうか…」


 じゃあ今まで嫌で付き合っててくれたんだな…とは口には出せなかった。出せるはずもない。


 今まで葉月は俺の映画鑑賞やアニメイベントにも着いてきてくれていた。笑顔で、楽しそうに、俺の腕をとって一緒にデートを楽しんでいた。


 でも…


「嘘だったんだな…」


「は?」


「いや、ごめん。気にしないで」


「意味わからないんだけど、まあいいわ。ようやく貴方と別れられるんだから。二度と話しかけないでよね」


「分かってるよ」


「じゃあ、さよなら」


 俺は屋上から去っていく葉月、いや佐藤さんの背中を見つめながらその場に崩れ落ちる。

 今まで弄ばれていたのだと、嫌に思われていたのだと知って絶望に陥ってしまった。


「あはは、あははははははははははははははは」


 ああ、俺はなんで泣いているのかな。







 教室に戻るとクラスはいつも通り、うるさく騒がしかった。このクラスには陽キャな部活の所属している奴が多い。

 具体的に言えば野球部とか、サッカー部とか、バスケ部とか。


 たいして俺は帰宅部で陰キャ筆頭。陰キャで二次元が好きだからと長年と彼女に振られてしまった哀れな男。


 ゆっくりと自分の席に腰を下ろして机の中からライトノベルを取り出した。好きだった人に趣味を否定されたからと言ってこれを捨てるなんて愚行、出来るわけがない。


 逆にプラスととらえるべきかもしれないな。これで俺のことを否定する人間は周りからいなくなったというわけだ。

 別に仲の良くもないクラスメイトから何を言われようともどうでもいい。


 啓太郎は俺と同じでアニメが大好きな男で隙あったらアニメの話をするような限界オタクである。顔はイケメンなのだから努力したらモテると思うんだけど、実際の本人は三次元の恋愛には興味がないらしい。


 それとあいつはブイチューバ―も好きなのである。ブイチューバ―には多くの事務所があるが、その中でもあいつは『キューティスト』という如何にも可愛いを爆発させてそうな事務所所属のブイを推している。


 あ、ちなみに椎名さんはキューティスト所属なのだ。ということは俺もキューティストの従業員ということになる。


 啓太郎に教えてやりたいといつも思う。椎名さんは実はキューティスト1、業界一のブイチューバ―なんだよと、ね。

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絶対零度の隣の席のお姫様、実は業界随一のVTuber。 minachi.湊近 @kaerubo3452

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