第2話「使用」
志保が、ベッドの横に木刀を置いて寝ている。
木刀は、睡眠なんてとらなくてもいいのだが、志保の隣はとても居心地がよかった。
朝、志保が目を覚ますと、木刀があいさつをしてくれる。
志保は、なんだか、とても、嬉しかった。
でも、問題が一つある。
「ねえ、ヤクモさん。貴方を、昼間、家の中から出すわけにはいかないの。」
「どうして?」
「この国には、銃刀法違反っていうルールがあって、木刀は持ち運べるけど、周りの迷惑になりかねないの。もう少し小さくなれない?」
「小さくはなれないわ。」
「そうなんだ。だったら、小さくしていい?」
ヤクモは、身体を凍らせた。
「え?」
何か、怖い言葉を訊いたような気がした。
だから、もう一度聞き直す。
「だから、小さくしていい?」
「小さくとは?」
「こう、のこぎりとか使って…。」
「やめて。このサイズになるのに、どれくらいの訓練してきたと思っているの?」
「ダメなの?」
「ダメです。」
どうやら、刀の世界には、位があるらしい。
一番上が神剣で、続けて木刀、竹刀、割りばし、つまようじとなっている。
刀使いの近くにいて、刀とはこういう物だと、見て習う。
つまようじの時は、刀使いが、口にくわえている。
割りばしの時は、刀使いの見習いが、ハエを捕まえる練習に使用する。
竹刀に変化をすると、本格的に刀使いに使われる。
木刀に変化する時には、プロの刀使いの人に使われる。
そして、神剣に変化すると、物語になる位になり、神様が扱ってくれる。
そんな決まりがあるのを、説明された。
木刀ヤクモは、がんばって、このサイズになったのだ。
「小さくするのは、諦めましょう。では、折り畳みとかは出来ないのですか?」
「木刀の折り畳みなんて、訊いた事ないですよ。」
「こう、折り畳みだと、必要な時に伸ばして、ココンって音立てて伸びて、最後にキンってなって、構えた時にはジャーンみたいな感じだと、かっこいいなって思うんだけど、改造していけない?」
「やめてください。」
ヤクモは、改造されるのを想像しただけで、怖くなった。
少し震えている。
その様子を見て、志保は。
「そうですか。だったら、家に置いて行きます。それでいいですか?」
「はい…。」
「江戸時代位までなら、良かったのですけれどね。」
「はー、では、いってらっしゃい。志保。」
「はい、行ってきます。」
部屋の扉を開ける志保。
「そうそう、ヤクモさん。ヤクモさんが使える場所、見つけておきましたから、今日の夜、そこにいきましょう。」
「え?」
ヤクモは、喜んだ。
その姿を見ると、志保は、ニヤリとした。
家に帰って来て、夕ご飯を食べ、風呂に入る。
父が眠ったのを確認すると、ヤクモを持って、外に出た志保。
「持ち運ぶのはいけないんじゃなかったのですか?」
「本当は家に置いておきたいんだけど、夜だし、人通りが少ない道を通ればいいし、試しによ。」
「試しですか。………所で、どこへいくのですか?」
「ちょっとね。」
志保は、人通りが少ない道を走り、とある原っぱに来た。
見るからに、原っぱで、結構な範囲である。
「では、早速、準備しますね。」
取り出したのは、ロープであった。
ロープをヤクモに取り付け、もう一つの端には杭が付けてあった。
杭を原っぱのとある場所に刺すと。
「では、ミステリーサークルを作ります。」
「はあ?」
ヤクモは、疑問だらけであった。
「ちょっと、志保ちゃん、どういう事?」
「ミステリーサークルの作り方を見て、こうやって、杭を差し込み、そこを中心として木の棒で草を寝かせて行くの。」
「そうじゃない。どうして、私を、そんな風に扱うのかって事。」
「だって、使って欲しいんでしょ?」
「そういう方法ではない。って、ちょっと…。」
木刀を使って、草を寝かせていく。
色々言っているヤクモだが、それを無視して、ドンドンと草を寝かせていって、一つの円が出来た。
「はー、これって、結構、体力使うのね。」
「ちょっと……まって……くだ……。」
ヤクモは疲れていた。
「志保ちゃん、私は、こんなの作るために生まれたわけではないわ。」
すると、一つの声が聞こえて来た。
「こんなのとは失礼ね。」
その声は、下から聞こえて来た。
それは、今作ったミステリーサークルであった。
「生み出してくれてありがとうね。名前は?」
「有坂志保だよ。こっちは、貴方を作った木刀、ヤクモ。」
「志保ね。ねえ、あなたの木刀、失礼じゃない?」
「そうね。貴方を作ったのは、ヤクモなのにね。」
すると、ヤクモは、やるせない気持ちでいっぱいになった。
「私は、刀として振るってもらいたかったの。こんな草を寝かせる為に生まれたわけではないわ。」
「だけど、貴方がいたから、私は生まれたのよ。その事実を見ないつもり?」
「そうではなく、私は、刀として使ってもらいたいの。」
「長年、この地から世の中を見て来たけれど、貴方、刀として使ってもらえないわよ。」
「そんなの知っているわよ。」
そんな風に、ミステリーサークルと喧嘩を始めたヤクモ。
志保はっていうと、出来たミステリーサークルを、写真に収めていた。
この土地は、学園の敷地内であり、手入れをしていない位の場所だったから、利用できないかと、志保は常々思っていたのである。
そして、今、簡単に一晩で出来るミステリーサークルの作り方を見て以来、作って見たいと思っていた。
「さて、ミステリーサークルが人の手でも出来るってのを確認出来たので、ヤクモ帰りますよ。」
「ちょっと待ってください。それだけの為に私を使ったのですか?」
「そうですよ。この現代では、木刀を、しかも、一般の女子高校生がどうやって扱えと?」
「でも、刀として使ってほしいです。」
ミステリーサークルに別れを言って、帰る志保。
ヤクモは、時代を間違えたと思った。
家に帰った志保は、手を洗い、パジャマに着替えて、ヤクモを抱いて寝た。
次の日
「え?木刀の使い方?」
志保が相談したのは、定時制の高校から帰ってきた母、白水であった。
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