#21 旧時代の片鱗

 [龍道りゅうどうもり]の中。


 すで太陽たいようとなったソルナが木々きぎらし、木漏こもひく草花くさばならしている。


 長閑のどかもり木々きぎ合間あいまをクラサがける。


 そのクラサのうえで、カイがセイギのあたまにできたきず治療ちりょうしていた。


「イデッ!」

「あともうちょっとだから我慢がまんしてね」

「というか、なんでセイギはそんなボロボロなの?」

『それならぼくが説明しよう!』


 琉那ルナカイうと、アマあいだむ。


昨日きのうばんにセイギがククのこととおくにげて、もどってきたときなんだけど――」




 昨日きのう夜中よなか女性陣じょせいじんおよび、カイとクラサが就寝しゅうしんしたあとのこと。


「ふあぁ〜……そんじゃオレもるわぁ〜……」

『おやすー』


 セイギがようとしたそのとき

 くさむらからククがあらわれた。


 セイギの全身ぜんしん逆立さかだつ。


「よぉ?」

「あ、ども。そんじゃおやすみなさい」

「まぁてや」

「いえ結構けっこうです。そんじゃ」


 げようとするセイギをのがすまいと、ククはセイギの尻尾しっぽつかむ。


「おまえ、ガキのころもどるだのなんだのってたよな」

「き、キオクニゴザイマセン……」

「そんじゃ、おまえあかぼうからやりなおしな」

「え?ちょま――」

「フンッ!」


 ククは巨体きょたいであるセイギにバックドロップをらわす。


「ガッ゙ハァ゙……!!」


 あたまから地面じめんたたきつけられたセイギは気絶きぜつしてしまった。


 ククは清々すがすがしい表情ひょうじょう男子だんしテントへかう。


「そんじゃおやすみ」

『いやってってって!』

「どした?」

『どした?じゃないよ!なに普通ふつうにテントにもどろうとしてんのさ!?』

「だってたかたかいされたし」

『セイギは他界たかい他界たかいしそうなんだけど……ってもういいや』




『――ってことがあってね』

「おまえなにさらっと放置ほうちしてくれてんの?」

『おーどうどうどうどう』


 セイギがアマむなぐらをつかんでげている。


「セイギうごかないで。つよ?」

「そのまえ医療免許いりょうめんきょちとしてコイツからなぐれや――」


 いかさけぶセイギの言葉ことば無視むししてカイあごにアッパーカットをらわせ、だまらせる。


なぐったー!?」

「もう、手間掛てまかけさせないでよね、まったく」


 カイ脳震盪のうしんとううごけなくなったセイギのきず消毒液しょうどくえきませたガーゼでぬぐう。


「その……カイくんっておもったよりこわかったりする……?」

「えーっとね――」


 リズは琉那ルナふくすそりながらくと、琉那ルナ笑顔えがおこたえた。


「――カイはすぐに怪我けがとかなおせるけど、なおすのを邪魔じゃましたら気絶きぜつさせてくるだけだよ♪」

(こわ……)


 これからカイ失礼しつれいなことをしないようにと、こころうちちかうリズだった。


 カイはガーゼで傷口きずぐちいたよごれやかたまったると、傷口きずぐちかざす。

 じ、呼吸こきゅうととのえる。


 リズが一体いったいなにをしているのかとこうとした瞬間しゅんかんアオイがリズのくちびるゆびて、ささやく。


しずかにね」


 リズは自身じしん好奇心こうきしんおさえつつ、カイ凝視ぎょうししていると、カイがゆっくりとひらいた。


「ふぅ……これで大丈夫だいじょうぶ。……なんでみんなそんなにしずかなの?」


 カイがセイギの傷口きずぐちがあった部分ぶぶんからはなすと、そこにはもとからきずかったかのように、綺麗きれいなおっていた。


「だって集中しゅうちゅうしなきゃダメでしょ?」

「ううん、最近さいきんだとざつにしても大丈夫だいじょうぶなくらいにはなってきたから」


 カイ気絶きぜつしているセイギのほほたたきながらたいしたことではいかのようにうが、はじめてカイ治療ちりょうたりにしたリズからしては、すさまじいものだった。


カイくんのあぺいろんってなんなんですか?」

「うーん、よくわかんない」


 リズがいに、カイくびひねる。


 リズも一緒いっしょくびひねる。


「よくわかんないってどういう――アプッ!」


 リズがさらに質問しつもんかさねようとした瞬間しゅんかんに、クラサが急停止きゅうていしした。


 リズはなににもつかまっていなかったため、そのまま前方ぜんぽうへとばされる。


「リズ大丈夫だいじょうぶ?」

ふぁんとかなんとか……いててて……」

「あといたぞ」

「え?」 


 リズがいたひたいおさえながらかおげると、そこには不自然ふしぜんなガラスとびらがあった。


 それはリズが海龍商会タラッタ・カンパニーやシシュウ総合そうごうセンターの出入口でいりぐち自動じどうドアと類似るいじしていた。


いたって、コレが……」

「そうそう!コレがダンジョンの入口いりぐち!」

「なんか……おもってたのとちがう……」

「まぁ最初さいしょだれでもそうなるわな」


 クラサは自身じしんうえから全員ぜんいんりると、巨大化きょだいかした肉体にくたいて、もとおおきさの状態じょうたい姿すがたあらわす。


「どうなってるんですかそれ?」

【|-・・、・・、・・・-、-・・-・、--、・・・-、-・-、・-・・、・-・-・、・-・、・-、《ぼくもよくわかんない》】


 クラサの言葉ことば理解りかいすることができないリズは必死ひっし交流こうりゅうはかっているすきに、鵜鷹テイヨウはた地面じめんした。


「コレなに?」

あたしたちはた間違まちがってべつ冒険者ぼうけんしゃとかがはいらないようにするためにすの」

「へぇ〜」


「地図は?」

『ちゃんとコピーしてきたよそれに今回はなんと!』

「なんと?」


 ククにけてアマ自慢じまんげに自身じしんあたま指差ゆびさす。


『なんと!カメラけてちゃいましたー!』

「へぇー」

「「おーー!!」」


 めたこえかえすククだったが、その会話かいわいていたカイとセイギがをキラキラとかがやかせていた。


 そんな二体にたい気付きづいたアマあたまのカメラの画角がかくにセイギとカイおさめると、録画ろくがボタンをした。


『はい撮影さつえいまでさん……』

「ウェーイ!」

「ダンジョンけい配信者はいしんしゃでーす!」

今回こんかい企画きかくは〜?あたらしくあらわれたダンジョンに一番乗いちばんのりで探索たんさくしてみたー!」

『「いぇーーい!!」』

なに馬鹿ばかなことやってんだおまえら?」

「お?早速さっそくらんください。コチラ、ここ周辺しゅうへん生息せいそくするモンスターのようで――イデデデデッ!!やめ、みみ千切ちぎれるぅう!!」


 ククは青筋あおすじて、ふざけたおすセイギの両耳りょうみみ片手かたてつかんでる。


「テメェ昨日きのうといい今日きょうといい、どうやらほんとうにたいらしいなァ!?」

「ちょ!カメラめてめて!」

『オンエアーできないよコレじゃ……』


 それをカイアマめにはいり、ことくと同時どうじにククによる説教せっきょうはじまった。


 アオイ鵜鷹テイヨウいきをつきながらその様子ようすていた。


おとこって、本当ほんとう馬鹿ばかよね〜」

「でも男子だんし馬鹿ばかやってるときってなんか可愛かわいくない?」

「わかる〜」


 そして五分後ごふんご


 ククがセイギ、カイアマ鉄拳制裁てっけんせいさいらわせた直後ちょくご


「そんじゃ早速さっそく準備じゅんびかかるぞ。……どうした?」

「い、いえ、なんにもありませんです……」


 リズはククのうしろでよこたわっているカイたちて、機嫌きげんそこねないようにらす。


「そうか。それじゃあまず最初さいしょに――」


 ククはにもめず、説明せつめい開始かいしした。


「――順番じゅんばんつたえる。リズがあたらしくはいったからな」

「はーい」

先頭せんとうから、ククアマ、ユリ、琉那団長カイアオイ、リズ、鵜鷹テイヨウ、セイギのじゅんく。質問しつもんあるか?」


 ククの配置はいちに、リズ以外いがい納得なっとくしている。


「はいはーい!」

「はい、リズ」

「なんでそんな順番じゅんばんなんですかー?」

「おまえ説明せつめいするのつかれるからいやなんだよな……まず、ダンジョンってっても、なかはどうなってるのか、だれらねぇ。もしかしたらありえないほどほそみちがあるかもしれねぇから、そのために一列いちれつになる前提ぜんてい順番じゅんばんめる。かるな?」

『……ほそみちになってまらないようにするためだよ』

「はい!わかりました!」


 ククの説明せつめいアマくだいて説明せつめいなおす。


「それじゃ、なんでそういう順番じゅんばんになるんですか?」

「さっきもったとおり、ダンジョンのなかはどうなってるか、だれらねぇ。だからまんいちわなやモンスターが不意打ふいうちであらわれたら最初さいしょおそわれるのは先頭せんとうってるやつになる。おれぬことはぇからおれ先頭せんとうになる。かるか?」

『……危険きけんなものが沢山たくさんあるから、最初さいしょにククがたしかめてくれるってこと』

「わかりました!それじゃ、なんでそのつぎアマくんなんですか?」

「それはな――」


 その、ククは十五分じゅうごふん以上いじょう時間じかん使つかってリズに何故なぜこの配置はいちなのかをひとひとつ、丁寧ていねいにリズにおしえた。


 そしてそのたびアマ言葉ことばなおしてリズにつたえ、なんとか理解りかいさせることに成功せいこうした。


『――ってことだよ』

「なるほど!!」

理解りかいできたならさっさと準備じゅんびませろ」

「はーい!」


 リズが荷物にもつほう元気げんきよくす。


 ククも準備じゅんびととのえようと、かえると、そこにはジトでククのことをつめるクラサの姿すがたがあった。


「どうした?」

【|・-、・--、・---・、・--・、-・・・-、・-、・、-・、・・・-、---・、-・、・・、・-・、・-・--、《いや、説明下手くそだなって》】

「……マジで?」

【|-・・-、--・-・、・・、・-・--、・・、《マジで》】


 クラサは項垂うなだれるククのかたたたいてなぐさめていた。


 そのころ、ククとクラサ以外いがい者達ものたち装備そうびととのえていた。


 リズは琉那ルナってきたネフリティスの甲殻こうかく使用しようしたチェストプレート、膝当ひざあて、肘当ひじあて、脛当すねあて籠手こてける。


 ネフリティスは天龍類てんりゅうるいのため、頑丈がんじょうなのは勿論もちろん普通ふつう金属きんぞくよりもかるい。


 リズはまさに冒険者ぼうけんしゃらしいことをしている実感じっかんとこれからのダンジョンの探検たんけん心躍こころおどらせていた。


 すべての装備そうび装着そうちゃくすると、格好かっこつけてポーズをる。


「フフン♪」

「おー!リズちゃんカッコイイね!」


 琉那ルナがリズの装備そうびをじっくりとながらうと、リズは仁王立におうだちでドヤがおをきめる。


 たいする琉那ルナすで装備そうびととのえていた。


 上下共じょうげとも黒色くろいろのロングインナーのうえからツギハギのおお白色しろいろのフードきマントを羽織はおり、こしにもマントをけている。


 防具ぼうぐかんしては、胸部きょうぶ左腕ひだりうで両足りょうあし西洋風せいようふうよろいを装備している。


 さらにこし左側ひだりがわいつつの冷却れいきゃくファンがいたさやおさめられたかたな――[ウェポン・ディケイ]をたずさえ、背中せなか太刀たち――[名刀めいとう波切なみきり]を背負せおっている。


「ルナさんもカッコイイ!!」

「ふふふん!でしょでしょー?」

わたしもカッコイイけんしい!」

「それじゃあわたし打刀うちがたなあげ――」

なにやってんだ?」


 琉那ルナとリズの会話かいわにククがってはいる。


「リズちゃんが武器ぶきしいって」

「いや刃物はものわたすなよ。怪我けがするだろ」

「それじゃあなんだったらい?」

「ちょっとてよ……」


 ククはそういながら荷物にもつあさると、木刀ぼくとう一本いっぽんし、リズにわたす。


稽古用けいこよう木刀ぼくとうだ。しばらくそれで我慢がまんしろ」

「え〜」

「あと鉄棒てつぼうはいってっから仲間なかまるなよ」


 リズは鉄棒てつぼう木刀ぼくとうれたその瞬間しゅんかん、ククの武器ぶきわれる。


 ククが武器ぶきふたつ。

 ひとつは腰鉈こしなた

 昨日きのう夕飯ゆうはんとなった草食類そうしょくるいにくをブツりにするとき使用しようした。

 そしてもうひとつ、琉那ルナおなじく、背負せおっている両刃りょうば大剣たいけん――[ケルビム]。


 リズは[ケルビム]のほうかれた。


「それしい!」

「いや駄目だめまってんだろ」


 いきをつくククのところカイってきた。


「クク〜!」

準備じゅんびわったか?」

「うん!バッチリ!」


 カイもまた背中せなか武器ぶきたずさえている。


カイくんも武器ぶきってるの?せてせて!」

「いいよ〜」


 カイはリズからのたのみをこころよけると、革製かわせいさやからけんこうとする。


「ふん!んんんんん!!……っこいしょっと」


 カイ必死ひっし表情ひょうじょうけんくが、カイ華奢きゃしゃ肉体にくたいではけんおもみにえられず、バランスをとれずにけんろす。


「ハァ……ハァ……ふぅ、どう?ぼくけん格好かっこういいでしょ?」


 呼吸こきゅうらげながらカイにリズは心配しんぱい眼差まなざしをける。


けんはカッコイイよ……」

けんほかにはいの?」

「うーん……………………………………………………いとおもう」


 カイ撃沈げきちんした。


 ダンジョンの入口いりぐち付近ふきんまるくなっているカイをユリがなぐさめようと背中せなかさすっている。


カイつよいよー大丈夫だいじょうぶだよー」


 その光景こうけいたククがリズに一言ひとこと


「あーあ」

「あーあってなんですか!?」


「おいこらーオメーらさっさとくぞー」


 セイギのこえがククとリズのみみとどく。


 リズがククと口論こうろんしているあいだほかみな準備じゅんびえていた。


「まぁ、族様ぞくさま気持きもちをかんがえて言葉ことばえらべよ」


 ククはそううと、みなほうへとあるいていった。

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