#20 夕飯

 原生族げんせいぞく青年せいねん――天宮天あまみやあまはクラサと一緒いっしょあつめた小枝こえだかわいたみ、マッチでけると、機械仕掛きかいじかけのゆび一本いっぽん火種ひだねける。

 けたゆびさきあなひらくと、一瞬いっしゅんはげしいほのおへと姿すがたえた。


「すごーい!」


 それをていたリズが感嘆かんたんこえをあげ、拍手はくしゅしている。


「これもってやつ?」

『そうだよ〜。ぼく場合ばあいは時間をかければかみなりとかもせるよ』

「すごい!せてせて!」

「アペイロンはおもちゃじゃねぇぞ」

「わぷッ」


 ククがリズの襟元えりもとつかんでからすこはなれた椅子いすにリズをすわらせる。


『もう解体かいたいわったの?』

「そりゃな。四肢類ししるい解体かいたいらくたすかるぜ」

「ハハハ!オレに感謝するんだなククー!」

「うるせぇ、あつかましい」


(みんななかいな〜)


 リズはまわりで談笑だんしょうしているククらをていると、クラサがとなりることにがつく。

 リズがゆっくりとせると、クラサはリズのり、うでつたってリズのあたまうえまでのぼる。

 すると、両腕りょううではさみかかげ、ポーズをめた。


「みんなー!ごはん準備じゅんびできたよー!」


 カイおおきな鉄皿てつさらってあらわれる。


 そのさらうえには鵜鷹テイヨウとセイギがつかまえた草食獣類そうしょくじゅうるいにくられていた。


はやこうぜ!!」

て、セイギ。みんなわせていただきますしてからな」

『ククってなんかへんそだちがいよね』

「そのまえにみんな綺麗きれいにしてよー」


 十人十色組じゅうにんといろぐみ団員だんいんそろうと、かこい、わせる。


「それじゃ!リズちゃんが十人十色組じゅうにんといろぐみはいったおいわいもねて!いただきます!」

「いただきます」

「いただきます!」

「いただきまーす!」

「いただきます」

【|・-、-・、-・、・・、-・-・・、-・・-、---・-、《いただきます》】

「いただきまーす」

「いただきます」

『いただきます』

「いただきます!」


 合掌がっしょうえた各々おのおのはそれぞれきなサイズの骨付ほねつにくつかむと、く。


 勿論もちろんおなにくねらっていた者同士ものどうしでのちいさなあらそいもこる。


「おいリズ!それオレんのだぞ!」

さきったのはわたしだもん!」

「そもそもこのにくったのはオレだっての!」

「……いやアレ仕留しとめたのあたしなんだけど」


『ゆっくりべればいのにね〜』

「そうだね〜」


 一番いちばんサイズのおおきいにくうばうセイギとリズを横目よこめアマカイちいさなにくってきた野草やそう果実かじついている。


 その二体にたいとなりでは比嘉琉那ひよしるながずっとにくんでいる。


「どした?団長?」

「――しい……」

「は?」

「おこめしい!」

残念ざんねんながらこめぇ。我慢がまんしてくれ」


 「あと野草やそうえ」と、けた野草やそう果実かじつ琉那ルナざらける。


 琉那ルナはククがったあと、こっそりとカイさらうつした。


 満足気まんぞくげかおにくりにこうとした琉那ルナまえにククがた。


「なんであの二体にたいいかけっこしてんだ?」

「さぁねー。おっ!けてるもーらい」

「あっ!オレのそだてた肉!」

「こら!鵜鷹テイヨウ、ダメだよ。勝手かってっちゃ」

「……ごめんなさい」

「いやガキか!」


 セイギはそうツッコミつつも、かえってきたにく頬張ほおばる。


ふぁんきゅーサンキューな。カ――」

「はい、あーん」

「あーん」


 れいおうとするセイギのまえでユリがカイくちにくはこんでいた。


(ヤベェ、ちまいそうだよ……!ってよせ、恋路こいじ邪魔じゃまするほど、オレもちぶれちゃいねぇ!)


 セイギはいしばりながらえる。


「セイギちゃーん?そんなにくやしいならおねえさんと一緒いっしょに――」

「あ、おことわりします」

れないわねー」


 みなさわいでいるうちにく野草やそう果実かじつ次々つぎつぎ姿すがたしていく。


 そしてほのおちいさくなったころ


「フゥ〜ったった〜」


 セイギがよこたわりながらはらたたく。

 

「そんじゃ、るとするか」

「えー!もうるんですか!?」


 リズは完全かんぜんあそりないとわんばかりに残念ざんねんそうにう。


明日あしたはやいからな。団長だんちょう次第しだい出発しゅっぱつするぞ」


 リズが文句もんくく、テントにまれる。


「それで見張みはりはどうする?」

『それならぼくがやるよ。必要ひつよういし』

「たまにはやすめよ」

「そうだよーアマさきるね〜」


 琉那ルナはそういながらテントのなか姿すがたした。


「ワンチャン団長だんちょうのせいでリズがノンデリになってるせつ

「『あるとおもう』」


 あきれたかおでセイギとアマうなずく。


 その三体さんたいよこで、カイえだほうむ。


「灰はないのか?」

「うん。ひとりでテントにるよりもみんなと一緒いっしょたほうがたのしいし」

「……おまえ、それってる?」

「え?なにが?」

「いや、なんにも」


 会話かいわしているうちに、いつのにか十人十色組じゅうにんといろぐみ男性だんせい団員だんいん全員ぜんいんかこっていた。


 そのころ女子テントなかでは女子会女子会開催かいさいされていた。

 女子会じょしかい参加者さんかしゃはリズ、鵜鷹テイヨウだけである。

 アオイ琉那ルナはもうすでねむってしまっている。


「それでそれで!テイヨーさんのかれしさんってどんななの?」


 リズが興味津々きょうみしんしん鵜鷹テイヨウく。


「ギアはねー、はじめてあたしのことをおんなあつかいしてくれたんだよねー」


 鵜鷹テイヨウずかしがりながらも、リズに自身じしん恋仲こいなか説明せつめいをしている。


おんなあつかい……!ってどんなの?」

たとえば力仕事ちからしごと手伝てつだってくれたりとかー、着替きがえるときらしたりとか?」

「それって普通ふつうじゃ?」

「いやーそれがね、防衛省ぼうえいしょう軍事隊ぐんじたいとかだと普通ふつうじゃないよ。本物ほんもの男女平等だんじょびょうどうでしかなかったからね」


 とおかた鵜鷹テイヨウて、リズはなにかをさっしたのか、苦笑にがわらいでやりごした。


 そこで、リズの脳内のうないひとつの疑問ぎもんかびがった。


「そもそも恋仲こいなかになって、なにするんですか?」

「そりゃ一緒いっしょものってお洋服ようふくったり、外食がいしょくであーんしたりとか?」

「へー」


なにはなしてるんですか?」


 鵜鷹テイヨウ惚気話のろけばなしに、パジャマに着替きがえたユリがくわわる。


「いやーリズが恋仲こいなかのこときたがるからさー」

「あーギアさんのことですか」


 ユリはすでねむっている琉那るなとなりすわる。


恋仲こいなかか〜」


 リズがテントの天井てんじょうながらつぶやくと、きゅうにユリのほうく。


「ユリちゃんはカイくんとはどうしてるの?」

「へぇ?なんで?」

「え?恋仲こいなかじゃないの?」


 リズからの予想外よそうがい質問しつもんかたまる。


(こいなか?こいなか……恋仲こいなか?……恋仲こいなか!?)


 しばらくして、のう処理しょりえたのか、ユリのかおはじからはじへとまった。


「え!?いやいやいやちがう!」

「え?だってもの一緒いっしょってたじゃん」

「それは食材しょくざいいにっただけ!そ、そんなデートとかそんなんじゃ……」

「あーんしてなかった?」

「それは!……カイ両手りょうてふさがっていたから……!」


 ユリが必死ひっしわけかんがえ、あわてふためく。


 その反応はんのうて、リズのなかひとつの確信かくしんがうまれた。


「ユリちゃん……」

「な、なんですか?」

「もしかしてカイくんのことき?」

「――!!」


 リズに真実しんじつ見抜みぬかれたユリはかおまくらうずめながらこえにならないこえさけぶ。


 しばらくすると、まくらうずめていたかおげる。

 そのかおずかしさのあまり、涙目なみだめになっている。


「好き……ですけど……」


 ユリはかおあからめながら、本音ほんねはなす。

 それをて、鵜鷹テイヨウやさしくわらっている。


 しかし、リズはデリカシーがい。


「それだったらこくはく?したらいいのに」

「いやいやいやいや!!無理無理無理むりむりむり!!」

「いけるって!」

無理むりだって!」

「いける!!」

!」

二体にたいとも、あんまりおおきいこえさけぶとこのテントでもおとれちゃうから。あと団長だんちょうアオイきちゃう」


 鵜鷹テイヨウ白熱はくねつする二体にたいかせる。


「そもそも、なんで無理むりなんですか?」


 リズが単刀直入たんとうちょくにゅうくと、ユリはうつむいてその心情しんじょうかたはじめた。


「だってわないじゃん!」

「なにが?」

カイのスペックがたかすぎて、わたしが!」


 そうさけなげくユリの言葉ことばき、リズはユリのことをまわすようにる。


 フワフワとした綺麗きれいながかみ

 ながいまつ

 健康的けんこうてきしろはだ

 これらだけでも、ユリが美少女びしょうじょである証拠しょうこであるが、ユリの容姿ようしでリズのけたものがあった。

 それはユリの姿すがたときに、一二いちにあらそほど存在感そんざいかんはなっていた。


 それはまだ歳若としわか少女しょうじょにしてはおおきくそだったむねだった。


 まだ十歳じゅっさいのリズは勿論もちろん、リズやユリよりも歳上としうえである琉那ルナよりもおおきかった。


 その事実じじつに、そして自身じしん豊満ほうまんうつくしい身体しんたいったうえでのその発言はつげんに、リズの堪忍袋かんにんぶくろれた。


「なーにーがー……わないってぇー?」

「え?いや、だってカイってこえいし、それにかわいいし、それにくらべたらわたしなんか――」

「こんなにおむねおおきいのになにってるんですか!?」

「え、ちょ、リズちゃん!?」


 リズは躊躇ためらくユリのむねつかむ。


 その瞬間しゅんかん、リズの脳内のうない衝撃しょうげきはしる。


「や、やわ……あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!」


 リズはあまりの衝撃しょうげきにより、精神せいしん崩壊ほうかいした。


「リズちゃん大丈夫!?」

「うわーほんとだやわらかー。かたち綺麗きれー」

勝手かってまないで!」


 すきいてユリのむねまさぐ鵜鷹テイヨウはらい、おこりながらこえあらげる。


「そもそも!むねとかじゃなくて、種族的しゅぞくてき問題もんだいなんだってば!」


 ユリはかおあからめながら告白こくはくすると同時どうじにナイトキャップをると、かみなかから一対いっついねこみみあらわれる。


「セイギさんと同じ?」

「いや、セイギは狼族おおかみぞくわたしは……よくかんない。はねえてるし……」


 ユリはりたたんだ蝙蝠こうもりつばさひろげ、ねこてる。


「こんなにいろんな種族しゅぞく特徴とくちょうがあるなんて……そんなの、絶対ぜったいにおかしいって……その、んでくれたわたしのおかあさんにはわるいんだけど……綺麗きれい恋愛れんあいをしてまれたとはおもえなくって……それに――」

「それユリちゃんには関係かんけいなくない?」


 リズがユリの言葉ことばさえぎると、さらつづける。


「だってユリちゃんはユリちゃんだし、ユリちゃんのおかあさんはユリちゃんのおかあさんでしょ?べつにすることいとおもうなぁ」

「……」


 ユリはリズの言葉ことばいてだまんでしまう。


べつ関係かんけいない、か……)


 ユリは自身じしんおさなころおもしていた。


なんなんだあの小娘こむすめは?〕

二種族にしゅぞく混血こんけつか?〕

〔その何故なぜまえみたいなやつが……?〕

〔どうせ奴隷どれいでしょう?〕

けがらわしい……〕

何故なぜあのような菓子売かしうりなどしておるのだ?〕

のろりクッキーなんかうバカがいるわけねぇだろ!〕


 雪降ゆきふまちでは、純血じゅんけつおもんじ、混血こんけつきらうのが常識じょうしきだった。


 それが少女しょうじょにとってのたりまえだった。


〔このクッキー、ってくれますか?〕


〔ありがとう!〕


〔うん!美味おいしい!〕


〔またね!〕


 カイ出逢であう、そのときまでは。


「……ユリちゃん?」

「うん、たしかにそうかも」

「なにが?」

「ううん、なんでもない。ありがとうリズちゃん!」

「え?なにが?」


 清々すがすがしい表情ひょうじょうになったユリにたいして、リズは困惑こんわくしている。


 その様子ようすをにこやかにていた鵜鷹テイヨウがあることをおもしたのか、ユリにはなしかける。


「そういえば、リズがユリのはなしんだときの〔それに〕のあとなにおうとしたの?」

「えっとぉー……わないと――」

駄目だめ

「ですよねぇ……その、いろんな種族しゅぞくざってると、その……子供こども出来できづらいとかよくうじゃないですか」

「うん、そだね」

「だから……その……」


 ユリがナイトキャップで口元くちもとかくしながらかお紅潮こうちょうさせ、みをこぼす。


「か、カイと……その……子供こども何体なんたいしいの?とか……そういうやりりとか……えへへ」

「ユリって、意外いがいとむっつりだよね」

「え?」


 このあと、ユリが懸命けんめいにむっつりという事実じじつ否定ひていしようと努力どりょくしたが、無駄むだだった。


 一方いっぽう、リズがユリの身体からだについていかったころそとかこっていた。


『それにしてもものしたよねー』


 アマ防音ぼうおんテントの性能せいのう今現在いまげんざい体感たいかんしての感想かんそうべる。


「しょーじき、女子じょしこえはキツ――」


「――あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!」


何何何何なになになになに!?」

「うっるっせぇ!!」

ってるそばからかよ!」

『大丈夫かな?』


 リズのさけこえ反応はんのうするカイたちかまわず、ククが椅子いすからこしげ、女子じょしてんとにかう。


「ちょっと注意ちゅういしてくるわ」

「あ、うんわかった」

『お願いねー』

ってら――」


 このとき、セイギの直感ちょっかん警笛けいてきらす。


 このままククを女子じょしテントにかわせてはならないと。


 その直感ちょっかんとおりにセイギはククにかってした。


「ちょっとったぁー!!」

「あ?なに?」

「なぁクク、ちょっとガキんころもどってみようぜ」

「あ?なにってんだおまえ――ちょ、なにしやがんだ!はな――」

たかたかーい!!」


 セイギは片手かたてでククの胴体どうたいつかむとそのまま明後日あさって方向ほうこう投擲とうてきした。


おぼえてろよクソいぬゥゥー!!」


 くらもりなかにククの怒号どごうひびわたった。

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