#16 帰宅

「ただいまー!」


 リズの明るく元気な声が壁外街の廃ビルを改装した建物の中に響き渡る。


 リビングにはセイギと天宮天あまみやあまがパソコンに向かって睨みつけている。


 確実にリズの声が聞こえているであろう距離だというのに、その声に返事をする者は居なかった。


「おい、返事くらい返――」

「待て、静かに」

「あ?……あ〜なるほどね」


 ククも天のやり取りにリズが不思議に思っていると、机に置いてあるアラームが急に鳴り始めた。

 そしてそれとほぼ同時にセイギと天はマウスの左クリックを連打し始める。


「『うおぉぉぉぉぉぉおおぉ!!』」

(……怖)


 リズは急に叫び出したセイギらを冷めた目で見ている。


 しばらくすると、セイギらは力果てたかのように呼吸を乱しながらソファにもたれ掛かる。


「それで、取れたか?」

「モチの……ロンよ……ゼェ……ゼェ……」

「何を取ったんですか?」


 何も分からないリズから見てみれば、急に発狂しながら見知らぬ機械を連打しているだけの光景でしかなかったのか、恐怖を感じながらもククに質問を投げかける。


 それに対し、ククは少し悩んでから返した。


「うーんとな、まず冒険者って仕事、分かるか?」

「名前の感じからして冒険する仕事ですか?」

「まぁそんなもんだが、ただ冒険するだけじゃ金は手に入らねぇからな」

「じゃあ何するんですか?」

「簡単に説明するとだな、まぁ何でも屋だな」

「なんでもや?」

「例えば、非安全地域に生息しているとある生物を狩ってきて欲しいとか、荷物を運ぶのを手伝って欲しいとか、様々な依頼がある」

「ほうほう……」

「それで、シシュウだとシシュウ防衛省冒険課ってところがその依頼をまとめてくれてるんだが、他とは違ってネットで依頼を受けれる」

「ねっと?」

『簡単に言うと、糸の無い糸電話みたいな感じ。後で詳しく教えるよ』


 天の補足に続き、ククが説明を続ける。


「そのネットってやつで今さっき天達が依頼を受けたって感じだな」

「なるほど。それでどんない――」

「たっだいまー!!」

「ただー」


 リズの言葉はとても明るい声で遮られた。


 玄関から比嘉琉那ひよしるな鵜鷹ていようが現れた。


「あれ?団長らと一緒に出ていかなかったっけ?」

「途中で駄々こね始めたから喫茶店に連れていかせたんだよ」

『苦労者だねぇ』

「あっ!そうだ!」


 男子組はククに向けて労いの言葉をかけている所に、ククの万年の悩みの種が話しかける。


「セイギ!依頼取ってくれた?」

「おう!バッチリよ!」

「その、なんの依頼ですか?」


 リズはやっとの思いで問いを投げかけれた。


「ちょっと前に発見されたダンジョンがあってさ!それの調査依頼が出るのを待ってたんだ!」


 琉那が得意顔で説明する。 


 その説明の中にリズにとって初めて聞く単語が紛れていた。


ってなんですか?」


 その質問に待っていましたと言わんばかりに琉那が得意顔のまま説明を始めた。


「なんかかってにできる洞窟があってね。それの奥の方に色んな旧時代の遺物が置いてあるの!その遺物によってはもんのすんごい大金になるってわけ!」

「そんでその大金を賭け事で溶かすんだな」

「そう!……いや違う違う!」

(ダンジョンか〜……楽しみだな〜)


 そんなほのぼのとした空間にかいとリズが一緒に階段から降りてきた。


「「あ、おかえりなさーい」。あ……」


 ユリは灰と声が被ったことに対し、照れて黙ってしまった。

 リズ、クク、鵜鷹、セイギはジト目でその光景を眺めている。


「あれ?団長、なにか良いことでもあった?」


 灰はユリの心情も露知らず、琉那に話しかける。


「この間言ってたダンジョンの調査依頼を取れたんだ〜♪」

「えっ!ってことは……」

「明後日ら辺に新品のダンジョンに出発よ!善は急げ!」

「「「エイエイオー!」」」


 灰と琉那とリズが掛け声と共に片腕を上げ、気合を入れている。


 その様子をユリとククはほのぼのとした表情で眺めていた。


「それにしてもまだ十一時か〜。どうするべ?」

「確かに長旅に必要なもんは揃ってっしな〜」


 ククとセイギが言うように、もうすでに食料や備品、武器は揃っている。


「それじゃあ今すぐに変更!みんな!荷物を纏めて一階に集合!」


 琉那の号令と共に、皆揃って自室の中へ消えていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る