#14 灰の歌

 クロスさんから神語を色々と教えてもらった。


 冒険免許も貰ったし、すぐ帰れる!って思ったけど、まだ帰れないらしい。


 もう少し様子を見てから退院になるらしい。


 暇だからベッドの上で飛び跳ねてたら暇つぶしなら下の階にある図書館か子ども広場に行けばいいって教わったので早速行ってみる。


 ただ、点滴のやつをつけていかないといけないからものすごくめんどくさい。


 あとえれべーたー?ってやつ嫌いだなぁ。

 なんかふわふわする。


 一回乗ったけど、なんか、すっごく不安になる。


 とりあえず子ども広場って場所まで着いた。


 そこに居る子どもたちはあたしと同じような点滴のやつをつけてる子や、頭に布を巻いている子、何か乗り物みたいなのに乗っている子も居る。


 子ども広場には色んな色がついた柔らかい四角とか三角とかの枕みたいなのがたくさん置いてあった。


 あとはルナさんのお家に置いてあった別の世界が見える黒色の板が置いてある。


 特に面白そうなものがないなぁ。


 図書館に行ってみようかなー。


 そう思った時だった。

 歌声が聞こえてきた。


 歌声が聞こえる方を見ると、そこには子どもたちが群がっていた。

 そしてその中心に、灰くんが居た。

 少し大きな弦楽器を弾いていた。

 

「――かつての花園はなぞのが消えた時、彼は旅に出た。長く、険しい旅は彼を英雄へと導いた。彼を突き動かしたのは約束か、復讐か……。私は彼に言った。また何時か、共にさかづきを交わそうと。彼は鼻で笑った。きっと次は無いのだろう。それでも私は彼の英雄を待とう。たとえ山が朽ち、龍の亡骸が崩れ落ち用とも、彼を待とう。彼の者の名は盃東さかづきあずま。継ぎ接ぎの羽織を着た孤高の英雄の名である」


 さかづきあずま?

 確か故郷の蚕族かいこぞくのみんながたまに話してた気がする?

 確かはなぞのやしゃ?ってすごいやしゃ達の一体だったとか何とか……。


 それにしても灰くんはなんでこんな所に居るんだろ?


 そんなふうに思ってると、灰くんが楽器を下ろす。

「クロムウェル一世が語った盃東かれに関するお話はこれでおしまい。その後、彼は白夜国びゃくやこくで目撃されたとか、各地で無名の夜叉が現れ、白銀の使徒に手を貸したとされているんだ。続きはまた明日!ご清聴ありがとうございました!」


 灰くんはそう言うと、椅子から立ち上がり、深く礼をする。

 拍手が巻き起こった。


 周りの子どもたちは次々と灰くんに近づくと「さかづきあずまってどれぐらい強い?」とか、「クロムウェルって龍族はその後どうなったの?」とか聞いている。


 灰くんは聞かれたことを一つ一つちゃんと聞いて返してる。


「ん?あ!リズじゃん、昨日ぶり〜!」


 灰くんがこっちに気づいて、手を振りながら近づいてくる。


「あ!ごめん、えっと蟲語だと――」

「いやいやダイジョーブだよ」

「え!?神語話せるの!?」

「少しは話せるようになったよ」

「すごいね!一日も経ってないはずなのに……」


 ふふふん♪

 褒められるってここまで気分が良くなるんだね♪


 それはそうと、灰と一緒についてきた子どもたちがなぜかあたしのことをじっと見てるんだけど、顔になんか着いてるかな?


「ねぇー灰兄ちゃん、その子誰?彼女?」

「かのじょ?」

「違うよ」


 かのじょって何?

 クロスさんがよく話す女の子のことをかのじょって言うけど、それとは違うの?


 何も分からないあたしを置いて、灰くんと子どもたちの会話が盛り上がっている。


「えー!彼女じゃないの?じゃあ誰?」

「僕たちの新しい仲間だよ」

「へー、なんだつまんねぇの」

「灰さんは恋してる相手とか居ないの?」

「恋焦がれる相手か〜。居るには居るよ」

「え!だれだれ!?」

「残念ながら秘密だよー」

「「「え〜〜!!」」」


 灰くん人気だなー。

 とかぼけーと考えてたらいつの間にか子どもたちが手を振りながら帰っていってしまった。


「あ、そうだ。なんで灰くんはここに居るの?怪我?」

「ううん、ボランティアで入院してる子どもたちに詩を聞かせてるだけだよ」


 詳しく聞いてみると、一度だけ弾き語りを披露してみたところ、子どもたちが気に入ってしまったらしく、暇さえあれば病院に通うようになってしまったとのこと。


 なんか……大変そうだね。


「そういうリズこそ大丈夫?」

「ダイジョーブって言うと?」

「冒険免許とかさ、神語は……大丈夫そうだけど」

「……んふふふ!ちゃんとしっかり冒険免許は手に入れました!」

「おー!おめでとう!これからよろしくね!」

「うん!よろしくお願いします!」


 と言ってもあんまり自覚無いんだけどね。

 

「それにしても神語覚えるの早いね」

「んーでももうちょっと頑張りたいなー」

「それだったら[東歌集あずまかしゅう]とかどう?」

「あずまかしゅう?」


 何それ?

 そういえばさっき灰くんが弾き語りしてた時にあずまって名前が出てた気がする。


「さっき話してた盃東っていうケルコス地方の英雄がいてね、その神族が詠ったとされる歌集だよ!どれもこれも短いけど、色んな感情が読み取れるから僕は好きなんだ!試しに読んでみる?」


 そう言いながら灰くんは絵がついていないよもぎ色の本をこっちに渡してきた。

 うーん、正直絵がないとあんまり読む気にならな――ってちょっと待って今どこから出した?

 

「灰くんこれどこから――」

「やっぱりここにいた!」


 声がする方を見ると、一体の女の子が立っていた。


 長いまつ毛。

 フワフワとした長い髪。

 どちらともキラキラとした白色をしている。

 それとあたしが知らないかわいい服を着てて、とても似合ってる。

 ユリちゃん。

 あたしが出会った中で一番かわいい女の子かもしれない。


「ユリー!なんでここに?」

「また灰の帰りが遅くなる前に迎えに来たの」

「あれ、もうそんな時間?」

「ついでに買い物にもその……付き合って貰おうかな〜って」


 ユリちゃんは手をモジモジさせながら灰くんとお話している。


「うん、別に大丈夫だよ。ってことだからリズごめんね」

「え?あ、いやいやダイジョーブだよ。うん、御二方で楽しんできてよ」


 なんでこっちを気遣うんだろう?

 それよりもユリちゃんの顔が怖いんだけど……。

 さっきまでモジモジして可愛らしかったユリちゃんどこ行っちゃったの?


「それじゃあ行こっか」

「うん!リズちゃんもまた明日!」

「う、うんまた明日……」


 ……なんだったんだろう?

 何か悪いことしたかな?

 また明日って言ってたし、何か悪いことしてたら謝ろう。


 それにしても今日はどうしようかな、お昼ご飯とかも自分の部屋に運んできてくれるし。


 そうだ。

 今日は灰くんからもらった[東歌集]とやらを読むことにしよう。


 そう思いながら自分の部屋に戻った。

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